「……で、なんでいないフリしたんだ、クラウドさんよ?」

 

ティファとの電話を終えて、オレが声をかけたのはセブンスヘブンのカウンターで一人酒を飲んでいたクラウド。

 

子どもたちはオレが電話をしている間に二階へあがっちまったらしく、店にはクラウド以外誰もいなかった。

 

「……」

 

声をかけたクラウドは、問いに対して不機嫌そうにそっぽを向いている。さっきもそうだった。オレがこいつに電話を代わってやろうと思ったら、こいつは顔の前で手をひらひらと振って見せた。さすがのオレも「いないことにしろ」とこいつが伝えようとしてることぐらいわかったから、その時はこいつを詰めずに言うこと聞いてやったわけだが。

 

つくづく面倒なやつだ。オレはティファが出発するまでになんとか作り貯めてくれたコレル酒を注いで、クラウドの隣にどかんと座ってやった。

 

「…電話」

「……」

「出てやりゃーよかったじゃねえか。ティファと喋りてえんだろ?」

「………」

「……? なーんだおめえ、拗ねてんのか」

 

返事の代わりにまず、クラウドが酒を口にする。クラウドが飲んでいるのは、以前ティファに作り方を教わったんだという何かのキツい酒。元気がねえこいつのために、オレから親切にコレル酒も勧めたが「それを飲みすぎたら頭が痛くなる」と容赦無く断られた。まったくもって失礼な話だ。

 

「違う。……邪魔になると思ったから」

「はあ?」

 

このままだんまりを続けるのかと思っていたクラウドが、すげえ小せえ声で話を始める。

 

「…ティファ、せっかく今、一人なんだ。それに今電話なんかしたら、俺はいらないことまでティファに伝えてしまう」

「いらねえこと?」

「……早く帰ってこいとか」

「…なるほどな」

 

こいつが電話をためらう理由を理解して、俺はつい、でけえ声で笑う。クラウド本人は至って真剣なんだろう。相変わらずの悪い目つきで俺を睨んだ。

 

「……」

「……」

 

あんまりねえ、こいつと二人きりで酒を飲む機会。いつもは目の前のカウンターにティファがいる。だから必然的に会話は明るくなる。あの空気はオレたち二人じゃ生み出すことはできねえ。

 

(……)

 

さっき電話でティファと話していたこともあり、あいつのことを考えながら……オレは不思議に思っていたことを、こいつにぶつけることにした。

 

「そういやおめえよ」

「…?」

「あんとき、なんで俺に礼なんか言ったんだ」

「あのとき?」

「おう。ティファをみんなで見送ったときだよ」

「……ああ」

「いや、気味悪ぃなと思ってよ」

「…気味悪くて悪かったな」

 

そう。一人で外に出ると言うティファを、家族総出で見送ったあの日のこと。

 

ティファの背中が完全に見えなくなるまで一人、外でじっと見送りを続けていたクラウドは、家に戻ってくるなりオレに小さな声で「ありがとう」と言った。そのときは一体何に対して礼を言われたのかいまいちわからず……そもそもこいつに礼を言われること自体慣れちゃいなかったから、つい固まってろくな返事もできずにいたんだが。

 

「……今回」

 

あの日のことをむしかえすと、クラウドは神妙な顔でぽつぽつと話し始める。

 

「…あんたが、ティファの背中を押したんだろ」

「ん? ああ……ちょっっ……とだけな」

「……。…それに、礼を言った」

「……?」

 

(…なんだあ?)

 

そこはオレに怒るところじゃねえのか。ティファに余計なこと言いやがってって、お前なら思うだろ。

 

「……なんでおめえが、それに関して礼なんか言うんだよ」

 

クラウドは少しだけオレの方を見てから、また一口酒を飲み、一人酒をつぐ。わかっちゃいたがどうやら随分参っているらしく、いつもより酒を飲むスピードが早く感じた。

 

「……俺には、提案できないことだったから」

「?」

「…一人で好きな場所にいってきたらいいなんて……たとえ思っていたとしても俺には言えない」

 

(……ほお)

 

思ったことはあんのかよ。そう心の中でつっこみをいれながら、オレもグラスに残っている酒を飲み干す。

 

するとクラウドが、なんの気の迷いかオレの空いたグラスに酒をついだ。……あまりにも珍しい行動に固まりつつ一応礼を言えば、こいつはただ小さく頷くだけだった。

 

その様子を見て、勘のいいオレは察する。

 

(……もうちょい、酒に付き合えってことか)

 

「……」

「……」

「……バレット」

「おう」

「…ティファはどうだった?」

「元気そうだったぞ」

「……まだミディールに?」

「おう。明日からコスモキャニオンだとよ」

「…そうか」

 

ティファの無事だけ確認してからため息をつくクラウドに、オレは話を続ける。

 

「……。なあクラウド、おまえ、仕事でミディールに行くことあるか?」

「いや……なかなかない」

「だよなあ。俺もだ。久しぶりに名前聞いたぜ」

「……。……ミディールに行きたいなんて、ティファにこれまで一度も頼まれたことがなかった」

「……」

「…行くのに時間がかかるからか、俺と家族に気を使っていたのか……理由はともかく、遠慮してたんだと思う」

「…そうだろうな」

「ティファはいつも、自分のことを二の次三の次にしてしまうから……」

 

ティファが筋金入りのお人よしだってことを、自分のやりたいこと軽々と棚にあげちまう女だってことを、オレらは十分わかってる。

 

俯いて落ち込むクラウドを見ながら……今回こいつが、ティファに対して強く反対しようとしなかった理由がわかってきたような気がした。尊重したかったんだろう。珍しく自分のやりたいことを口にした、ティファのことを。

 

「……バレット」

「?」

 

ぼそぼそとクラウドが俺の名前を呼ぶ。あっという間になくなっちまってるグラスに、さっきのお返しじゃねえけど酒をついでやった。

 

「…ティファは」

「おう」

「……ティファは、ここに帰ってくるだろうか」

「はあ?」

 

(…何言ってんだこいつ)

 

随分と酒がまわっているのか、クラウドの口から出たとは思えねえ話がこぼれる。

 

帰ってくるかだと? 帰ってくるに決まってるだろ。ティファがどれだけこの場所を大事にしてんのか、お前が一番知ってるだろう。つい気持ちが高ぶったが、オレはその文句をひとまず胸の中にしまうことにした。……クラウドの表情は、あまりに真剣だった。

 

「………」

「……。…お前、ティファに一人で大丈夫だって言われたこと気にしてんのか?」

「…それもあるが、そうじゃない」

 

(……それもあるのかよ)

 

「……。…ティファが発って、まだ三日ぐらいしか経ってない」

「…おう」

「……なのに毎日、考えても仕方ない不安が押し寄せてくる」

 

クラウドはまた酒を飲み干してから、大きくため息をついた。

 

「……わかってるんだ。くだらないことは。……でも」

「……」

「…あの日。俺なしでも大丈夫だと、外に行きたいと言われたとき……つい、考えてしまった」

「……」

「…ティファがここに、戻らなければいけない理由はあるのかって」

 

(……)

 

くだらねえ。んなこと考えちまうのは酔ってるからだ。頭動かす暇があったらさっさと寝ろ。

 

そう言ってやりたい気持ちはやまやまだったが……クラウドはオレの五十倍ぐらいはティファのこと考えてる男だから、頭のなかティファしかいねえような奴だから、そんな根性論が通じねえのは目に見えていた。

 

酒を口にしてため息をつきながら思う。ほんとーにこいつらは、似たもの同士だ。そしてきっと一生変わらねえんだろう。考えすぎちまうところも、相手のこと考えすぎて動けなくなるところも。

 

「…クラウドさんよ」

「……?」

「オレはおめーらのことに関して口出しするつもりはねえけどよ……」

「……」

「…少なくとも、ティファのこと気ぃつかって遠慮してんのはお前らしくねーぜ」

 

何かにひっかかったのか、クラウドが俯いていた顔をあげる。オレはそんなこいつに、同じく酔いに任せて言葉をぶつけた。

 

「…いいのかよ」

「?」

「もしティファが、エッジで暮らすのは疲れたっつってこのまま本当に家出したら、てめーはそれでいいのか? 受け入れられんのか?」

「……」

「…どこにいんのが正解かなんて、誰にもわかんねーんだ。ただオレたちは……おめーらはここを選んだ。それだけだろ」

「……」

「確かにティファは、お前についてきただけかもしれねえ。ミッドガルに流れ着いたっつー昔から今まで、ティファに選択肢はなかったのかもしれねえ。だけどよ、だからティファが不幸せなんじゃねえかとは、オレは思わねえぞ」

「……」

「…ティファは選んだんだよ、お前を。お前と一緒にいくって選んだんだ、自分で」

「……、」

「…だったらもうちっと、堂々としてろ。ティファが戻ってきたいと思えるような男になれ」

 

それだけ話してグラスに残った最後の酒を飲み干す。ちょっと話してやろうと思ってたぐらいだったのが、つい熱くなって、こいつの声を聞く間もなく一気に喋っちまった。口出しする気はねえと言っておきながら、結局オレはこいつらが気になって仕方ねえんだろうなと……つい一人、自分に呆れる。

 

「……」

「………バレット」

「…なんだ?」

「……。…ありがとう」

「…おう。礼ならティファに言え、ティファに」

「…そうする」

 

クラウドの手が伸びる。オレの大事なコレル酒に。

 

そしてその手で酒をつぐ。オレのグラスと……同じく空になったクラウド自身のグラスに。

 

(……)

 

結局、お前も飲むのかよ。頭痛えって言っても知らねえぞ。朝は6時に起こすからな。

 

そんな野暮なことは言わず、クラウドの礼に、礼で返した。こいつと二人で飲むのもなかなか悪くねえと思いながら……オレは一言、うまいとだけ口にした。