「……なるほど? それであんた一人なのか」

 

時は今に戻って潜水艦。

 

最後まで話を聞いていてくれたレノが椅子にもたれかかりながら呟く。こちらに背中を向け引き続き潜水艦を操作してくれているルードも、サングラスをくいと触ったのがわかった。

 

そういうことです、と呟き返しながら目のやり場に困って地図を見る。年季の入ったそれはただ静かに、私にいろいろな行き先の可能性を示してくれていた。

 

「……ん?」

「?」

「でも何でまた、潜水艦なんか引っ張り出したんだ?」

「そ、それは……その……」

「?」

「……。操縦、してみたかったから」

 

小さな声で白状すると、最初拍子抜けしていたレノがおかしそうにケラケラと笑う。そんな笑うことじゃないのにと思いながら、子どもみたいなこと言っている自覚もあったので、つい俯く。

 

「くくく……」

「わ、笑わないでよ……。思いついちゃったんだもん」

「いや、あんたのそういうとこ嫌いじゃないぞ、と……。なに、操縦させてもらえなかったわけ?こんなお願いもかなえてくれねえのかよ、クラウドさんは」

「別に禁止されてたわけじゃないんだけど、ちょっと色々あって言い出しづらくって……」

「言える環境づくりが必要だろ? なー相棒、我らが神羅は風通しいいよなぁ」

「…好き勝手言え過ぎるから、そろそろ主任の胃に穴が開く」

「くくく、じゃああんた、ずっと奴の後ろで、いいな〜とか思って見てたのかよ」

「……うん」

「おもしれーなあ。相棒、今度一緒にあいつに教えてやろーぜ」

「……何故そんなことを知ってるのかと間違いなく怒る」

「それは、ねーちゃんと俺らとの秘密だぞ、と」

 

笑いながらも、子どもみたいな私のお願いを怒らずにそのまま受け入れてくれる二人に感謝しながら、ほっと息をつく。

 

一人旅に出ようと決めたとき、私はまず一人きりの方がやりやすいことや、行きやすい場所がないかを考えた。

 

クラウドがいたらできない、行けない……というわけじゃないんだけど、気を遣わせすぎるのもいやだから言い出すのを避けていたこと。ミディールはまさにそうだった。会いたいなあと思いながらも、会いに行けていなかった人たち。

 

そのなかでも、比較的最初の方に思いついたのが潜水艦のこと。クラウドが一生懸命操縦している後ろ姿が記憶に強く残っているのは、彼が「本当のクラウド」に戻ってきてからすぐのことだったからかもしれない。

 

よく、覚えてる。散々いろんな乗り物を乗りこなしてきた中で、一度も乗り物酔いするなんて言わなかったクラウドの、初めて見る真っ青な顔。

 

「…ティファさんよ」

「え?」

 

昔のことを思い出しながらひとり頬を緩ませていると、雑談を終えていたレノに話しかけられる。彼はいつの間にかルードと一緒に潜水艦の行き先に目をやっていた。

 

「にやにやしてるとこ悪いが、もうそろそろ目的地到着だぞ、と」

「え、もう?」

「なんだぁ、あっという間に感じるぐらい楽しかったのか?」

「うーん……」

「…そこは適当に、そうですって返事するところだぞ、と」

 

レノが笑わせてくれることに感謝しつつ、私も操縦席の方に戻る。ルードは私が戻ったことを確認してから席を譲ってくれた。

 

改めて無機質な椅子に座り直す。自分で決めた目的地を目指す。少しの不安と、それよりも少しだけ大きなわくわくを胸の中でちゃんと抱きしめながら。

 

「えー。次の停車駅はぁ〜、ミディール〜ミディール〜」

「ふふ……」

「……また不思議な場所を選んだんだな」

「うん。ちょっとね……会いたい人がいるんだ」

「ほんと、変わってるよなあ、あんた。最初の目的地はよ、ふつー、コスタだろ。羽伸ばすっていったらよー」

「ん〜、あんまり興味なくて……一人で行っても仕方ないじゃない?」

「ああいうところは、一人で行くのに意味があるんだぞ、と……特にツレのいる奴はよ」

「?」

「…気にするな。ティファには関係のない話だ」

「相棒、お前どっちの味方だよ」

 

二人の相変わらずのやりとりを嬉しく耳に入れながら、数年ぶりに降り立つ地のことを……ミディールのことを思う。まだきっとあの場所にいる、お世話になった人たちのことを考える。私が、私たちがここまで来るのに必要不可欠だった恩人たち。覚えてくれてるかなあ。どんな話しようかなあ。心の中が懐かしさで満ちていくのを感じながら、私はただ上陸を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあね。本当にありがとう」

 

宇宙のような空間から、慣れ親しんだ海上にあがる。久しぶりに吸い込む空気は美味しくて、空もエッジを出たときと同じぐらいの快晴。親切に潜水艦の近づけるぎりぎりの陸上まで送ってくれたことにお礼を言えば二人はあくびをし、よそ見をしながら、ひらひらと手を振ってくれた。

 

「んじゃまあ……気をつけるんだぞ、と」

「うん。二人も、気をつけて帰ってね。お礼は……」

「…セブンスヘブンに受け取りにいく」

「うまい飯と酒でいいぞ、と」

「…うん! わかった」

「あー……社長も来たがるかな? 社長が来たら、主任も来るよなあ」

「主任が来るならイリーナも来るだろうな」

「ふふ、みんなで来ていいよ。腕によりをかけて、おもてなしします」

「おーおー、楽しみだぞ、と」

 

数年前の私たちには想像もつかなかったような会話。時間はたくさんのことを奪ってしまうけれど……たくさんのことを解決してくれた。

とん、と陸上に降りてから振り返る。二人は穏やかな時間の中、私をちゃんと見送ってくれていた。

 

「…ティファさんよ」

「…?」

「やっぱり今日のこと、クラウドには秘密だぞ、と」

「え?」

「あいつの嫉妬なんて、貰ってもろくなことねえからなぁ」

「ふふ……わかった」

 

最後まで優しい冗談をくれる二人にお礼を言って、私は手を振る。

 

穏やかな波の音だけが聞こえるこの場所で、二人はただ優しい眼差しで見守ってくれていた。