物心ついた頃からずっと、俺はティファを探し続けてきた。
今どこにいるのか。何をしているのか。住民ほとんど全員の行動範囲がわかるような、狭く息苦しいあの村で、俺はいつも無意識に、ティファの姿を探し求めていた。
幼い頃は特にそうだ。朝目が覚めて、何となく村の外に出て、ティファがどこで何をして遊んでいるのか把握するまで落ち着かなかった。見つけたところで、特に声をかけたりはしない。仲間に入れろと近寄ったりもしない。当時の俺にはその勇気も資格もなかった。むしろ、その綺麗な瞳が俺を認識してしまったらどうしようと、ティファから見つからないよう逃げてさえいたと思う。知られたいのに、知られたくない。そばにいたいのに、そばにいたくない。それでもティファを見ていたい。今よりずっと面倒な性格をしていた俺は、そうやって日々をやりすごしていた。ティファを勝手に、見守っているような気にさえなっていた。
そんなティファはよく、迷子になった。あんなに取り巻きがいたにもかかわらず、ティファはよくその仲間の目を掻い潜り、一人ふらふらどこかへ行った。そのまま夕方まで帰ってこないときは、村中で大騒ぎになった。だけどそんなときも、俺は誰よりも早くティファを見つけ出すことができていた。別に、常にティファを監視していたわけじゃない。だけど、ずっと目で追ってしまっていたせいか、ティファがいつもと違う行動を取るとき、何となくわかるようになっていた。だから、俺はよく大人が村中を探し回っている間、一人ティファがいる本当の場所に足を向けていた。それは時によって違った。ニブル山の麓だったときもあった。神羅屋敷の近くの荒れ果てた庭だったときもあった。ティファはいつもそこで、悲しむこともなく、慌てることもなく、ただ一人草花をいじり、時間を潰していた。今思えば、ティファは一人になりたかったのかもしれない。大人たちがいよいよティファを発見するまで、遠くでその姿を見守りながら、俺はいつもティファが何を考えているのか想像していた。俺はそうやっていつも……ティファを、想っていた。
そう。物心ついた頃からずっと、俺はティファを探し続けてきた。
こうして過ごした決して短くはない時間が……いつの間にか、自分を形づける大切な時間になっていたような気がする。
「クラウド、ティファが帰ってこないの」
マリンとデンゼルが、不安そうにそう俺に告げたのは、日暮れ間近の頃だった。
今日は早めに帰ってきてねと、子どもたち二人に念押しされてから出た仕事。その約束を守るために、いつもより早めに……日が落ちる前に帰ってきた家では、想定していなかったことが待ち受けていた。
「…ティファが?」
装備を外そうとしていた手を止め、子どもたちの声に耳を傾ける。マリンたちが俺のところに駆け寄ってきたのは、帰宅してすぐ、いつも聞こえてくるはずのティファの「おかえり」がないと思っていたとき。特に今日、ティファはあまり大きな用事を入れていないはずだった。夜、店を閉めて家族でご飯を食べようと話し合ったのは、つい昨日のことだったから。
「うん、お買い物にいったっきり」
「…ティファはどこに行くと言っていた?」
「わからないの。お肉を買うって言ってたけど」
「そうか。…ちなみに何時間前だ」
「2時間は前だよ。いつもなら、1時間くらいで帰ってくるのにさ」
「ティファ、どうしたんだろう。迷子になってるのかな?」
「……」
(…ティファ)
ふと改めて時計を見る。短針が指すのは、6と7の間。ティファが買い出しに4時ごろ出かけたというのなら、デンゼルたちの言うとおりもう戻ってきているはず。内容の良し悪しはともかく、予定外のことがティファに起こったことには変わりなさそうだ。状況を頭の中で整理しながら、俺はもう一度家を出る準備を始める。
「クラウド、どこいくの?」
「ティファを探しにいく」
「私たちも探す!」
「いや。もう夜になるし、二人は家で待っていてくれ。すれ違いで、ティファが戻ってくるかもしれない」
まだ不安そうな顔をする子どもたちの頭に、それぞれぽんと手をのせてから、俺はさっき通り抜けたばかりの裏口の扉を開ける。子どもたち同様、心配で焦る気持ちはありつつも、どこか自分が落ち着いているように感じるのは……この状況に、慣れているからだろうか。
「ねえ、クラウドだけで大丈夫?」
「ああ」
「ティファの居場所、心当たりあるの?」
「ない」
「ええ?」
「…でも、大丈夫だ。嫌な予感はしない」
「予感って、クラウド、てきとーだよ」
俺が適当に見えるらしい二人。それもそうだろうと思いつつ、安心して待っていて欲しくて、慣れない笑顔を向ける。
「…任せてくれ」
ぎこちなくなるかと思ったが、それは自然に生み出された。
「昔から得意なんだ。ティファを見つけるのは」
さっきまで跨っていたフェンリルに乗り、エッジの街を駆ける。いつもよりスピードを落として周囲を目で見渡しながら、ティファの気配を探す。
ティファは普段歩きで移動するはずだから、それほど遠くには行っていないと思う。予定を変更し、帰宅予定時間を大幅に超えるくらいだ。おおかた、道中常連に捕まり何かの手助けを始めてしまったか、常連でなくても困った人を見つけて加勢してしまったか、どちらかだろう。もしも大規模な戦闘があったり事件があったりしたら、俺が帰宅する前に耳に届いていたはずだ。だからきっとティファの命に危険はない。……もっとも、そう思い込むことで、焦る気持ちや不安を封じ込めているのも事実だが。
(……)
すれ違う、多くの人々、多くの車。改めてこうして街に出ると、エッジも随分人が増えたと感じる。
がらくたの寄せ集めみたいだったこの街も、気づけば人が定住するようなひとつの都市になりつつあった。当たり前だが、その多くが「見知らぬ」人だ。配達を仕事にしているからいいものの、それがなければ隣近所の住民さえ知らないような世界。昔、ニブルヘイムという閉鎖的な、だからこそ住民同士の結束が強かった村で生まれ育った身からすると、この良くも悪くも他人に無関心な街は、少し不思議に思えた。そして何より、自分がここでずっと探し続けていた人と……ティファと共に生活しているという事実は、いまだに俺に、奇跡に近い感動を与えてくれている。
はじまりはあの日。親友と故郷を失い、ミッドガル"だった"この地に流れ着いた、数年前。
自我をも失くし、頼るべきものも信じられるものも無くなった中、俺はそれでも無意識に、ティファを探し続けていた。ティファが生きているかもわからなかった、現実世界で。そして、自我が沈む心の奥底で。
俺は、ティファを見つけ出したかった。
だけど、俺が見つけ出すだけではもうだめなんだ。そう気づき始めたのも……この頃だっただろうか。
ティファを探すため、フェンリルを走らせはじめてからおよそ15分。
いよいよ夜が始まる、そんなとき。ふと歩道に目を向けた瞬間だった。まるで吸い込まれるように、元々自分の意識がその場所をわかっていたかのように、俺の目はぴたりと人混みの向こう、数十メートル先で、道端で誰かと話すティファを捉えた。
(ティファ、)
人と人の合間を縫って、一瞬見えたティファの横顔。躊躇いなくフェンリルを止め、邪魔にならない場所に留め置く。もう一度ティファのいた方角に目を向けても、ここからじゃもうその姿は捉えられない。あとは直感で探すしかないと、ひとまず足を前に進める。人混みをかき分けて。ただ、全身の神経を研ぎ澄ませながら。
(…ティファ)
見つけられて嬉しい気持ちと、スムーズに辿り着けず焦る気持ちが交差する。誰かと立ち話をしていた様子から、すぐにあの場から立ち去るようなことはないだろう。それでも明確な場所を把握できていないことに変わりはないから、落ち着いているつもりでも、前へ進む足は速くなる。人を避けるために使う腕にも、力がこもる。
ティファに会いたい。ティファをこの手で掴みたいと、心は前のめりになっていく。
(……ティファ)
この目が再びティファを捉えたとき。いつも、毎日見ているはずのその姿が、あまりにも眩しく映った。
まるで、子どもの頃のように。七番街のスラムでティファを視認した……あのときのように。
(ティファ)
ティファの姿をすっかり視界に入れ、大きな声を出せば届く距離に到達する。だけど、あと少しでティファに気づいてもらえるというその場所で、俺の足は止まった。
ほんの数メートル先で、ティファが喋っている。ティファが笑っている。
それを認識した時点で、まるで魔法にでもかかったかのように動けなくなる体。出なくなる声。もうひとつ踏み出せばティファに届くのがわかっているのに、いや、わかっているからきっと、俺は俺を引き止める。何かを恐れているのだろうか。何かを、思い出しているのだろうか。ティファと、その名を呼ぶために用意された声が、喉の奥でつっかえる。
まだだ。今じゃない。そんな声が、どこからか聞こえるんだ。
そう。まるで……ティファからの合図を待っているかのような。
「わっ、」
何か大きな風が吹き、ティファの綺麗な髪を撫でる。その風に誘われるように、きっと無意識に、ティファはゆっくりとこちらに顔を向ける。
(……、)
「……クラウド?」
俺に気付いたティファが小さく名前を呟いてくれた、その瞬間だった。
このときを、このサインを待っていたかのように、俺を静止させていた全ての枷が外れた感覚がしたのは。
「……、…ティファ」
情けないくらいに小さな声が、ずっと呼びたかったその名を呼んだ。
ふらふらとこの足が前に進み始めたとき、ティファも話していた相手に断りを入れ、こちらに駆け寄ってきてくれる。買い出した品だろうか。両手で抱えているのは、溢れんばかりに中身の詰まった大きな紙袋。俺はそれを認識しつつ、すぐにティファ本人に目を向ける。ほっとしたように、嬉しそうな笑顔を浮かべ、俺のもとへ向かってきてくれるティファに。
(…ティファ)
「っ、クラウド!」
「…ティファ、」
「びっくりした! どうしたの? こんなところで……っわ、」
ティファの質問に答えるより前に、その身体を紙袋ごと抱き寄せる。なるべくその荷物が潰れないように力加減をしたつもりだが、上手くいったかはわからない。それよりも、そんなことよりもティファを抱きしめたかった。ティファを掴めたという実感が、今すぐにでも欲しかった。自分でも出どころのわからない衝動が、俺をそうさせた。
ティファは始め驚いて、みんなが見ているという理由で離れようとしたけれど、腕の中で抗う様子は見せなかった。俺はそれを好意的に受け止め、そのまま抱擁を続ける。ティファはしばらくああとか、ううとか口篭っていたけれど、腕の力が緩まる気配がないと悟ったのか、やがておとなしく肩に頭を預けてくれた。
「……」
「…クラウド」
「……うん」
「…どうしたの? 何かあった?」
「……」
ティファに尋ねられて、ようやく本来の目的を思い出す。そうだ。もともとは、子どもたちに頼まれてティファを探しにきたんだった。
体をゆっくり離しながら、上目遣いでこちらの様子を伺うティファを見つめ返す。抱きしめる腕は緩めても、ティファの腕を掴む両手の力だけは緩められそうになかった。
「…ティファ」
「ん?」
「……。心配した」
「え?」
「…買い物に出かけて、なかなか帰ってこないと、子どもたちが」
「あ……ごめん! そうだよね、私ったら……」
「無事ならいいんだ。…何かあったのか?」
「ううん、何でもないの。ごめんね。買い出しの途中で常連さんと出会って、それで……」
「?」
「…今日、誕生日だって知ってくれてたみたいで。いろいろ、貰っちゃったの」
ほら、と、ティファがどこか照れくさそうに、紙袋の中を見せてくれる。素直に中身を覗き込めば、花や手紙、調味料か何かが入った瓶に菓子など、買い出しの品とは思えないものでいっぱいだった。
「…すごいな。こんなに貰ったのか」
「うん。はじめは一人のお客さんだったんだけど、誰かが呼んでくれたのか、何故か他のお客さんもどんどん集まってきてくれて……」
「…慕われている証拠だ」
「ありがとう。でも……ごめんね。理由はどうであれ、心配かけちゃったよね」
「…気にするな。マリンとデンゼルも、理由を話せばわかってくれる」
このことが原因で帰宅が遅れていることを後ろめたく思っているのか、ティファは話しながら少し、申し訳なさそうな顔をする。だけど、罪悪感を感じる必要はない。喜んで当たり前だ。特に、客一人一人を大切にしているティファのことだ。客が自分の誕生日を覚えていただけでも嬉しいだろうに、贈り物まで貰ったとなると、その喜びは想像に容易い。
昔と変わらず、ティファは周りの人間に愛されている。人を大切にするティファだから、人もティファを大切にする。
俺はそれを知っている。ずっと見てきた。ずっと見守ってきた。これまでも……そして、今も。
(……)
「…ティファ」
「ん?」
「荷物、持つよ」
「あ、いいよ、重いから……」
「大丈夫だ。ここまでフェンリルできた。そこに積めばいい」
「……じゃあ、甘えてもいい?」
「ああ、もちろん」
「…ありがとう、クラウド」
ティファが安心して微笑んでくれたのを見てから、ずいぶん重い紙袋を受け取る。だが、何とか片手で抱き抱えられるサイズでよかった。ここからまた人混みをかき分け、フェンリルの元に戻るとき、ティファの手を握っていられるから。
日はもう、すっかり落ちた。いつの間にか、俺たちを照らすのは、街灯と月明かりだけ。
「…あっという間に夜だね」
「ああ」
「早く帰って、ご飯の準備しないと」
「今日は、ティファは楽にしたらいい。俺も色々買ってきたから」
「わ……ほんと? 嬉しい」
「うん。……だから帰ろう、ティファ」
「うん。帰ろう、クラウド」
小さなティファの手が、俺の手を握り返す。ぬくもりを実感しながら、俺はその手を引き、雑踏の中へと歩き出す。
ティファを連れて帰るという、子どもたちとの約束を守るために。見つけ出せたその人を、離してしまわないように。
人の山を抜けた先で、フェンリルは変わらず俺たちを待っていた。
なんとかティファを連れてこられたことに一息つきつつ、贈り物が詰まった紙袋を、なるべく丁寧に積みこむ。あちこち走り回ったせいで時間はかかったが、ここから家へ直帰すれば10分もかからないだろう。子どもたちに電話で一報を入れようか迷っていたが、帰ってしまった方が早いかもしれない。
もう大丈夫だ、乗っていい。そんな意味を込めてティファを振り返る。ティファはフェンリルの整備をしていた俺を、少し離れたところで見守っていた。それも……何故か嬉しそうに。
「…ティファ?」
「…ん?」
「どうした」
「え?」
「…やけに嬉しそうだな」
少しの揶揄いも滲ませて、愛おしい人に笑いかける。自分の上機嫌に気づいていなかったのか。ティファは俺が指摘すると、手を口元に当てはにかんだ。
「…顔に出てた?」
「…ああ。ばっちり」
「あはは、恥ずかしい」
「…何か、いいことでも思い出したか」
「…そんなところ。……なんだか、特別な誕生日になったなあと思って」
「…まだ終わってないぞ。むしろ、これからが本番だ」
「ふふ、うん! そうだね」
「……。でも、もう特別なのか?」
「? うん」
「…たくさん、プレゼントを貰えたから?」
「あ、それもだけど……。…それよりも、クラウドが来てくれたから」
柔らかく、ティファが笑う。夜の限られた明かりの中でも、眩しく綺麗に見えるその笑顔に、俺はただ目を奪われる。
「…ティファ」
「まさか、こんなところで見つけてもらえると思わなくって。……忙しいのに、ここまで迎えにきてくれたんだって実感したら、嬉しくなってきちゃった」
「……。そんなの、特別な日じゃなくたって、迎えにいく」
「ありがと。……でもほんとに、よく場所、わかったね。私、何の連絡もできてなかったのに」
「…なんとなく、この辺りだと思ったんだ」
「すごい。直感?」
「…そんなところかな」
「クラウド、昔から勘、鋭いもんね。マルの居場所も、すぐ当てたし」
「…勘が冴えるのは、ティファに関することだけだ」
「ふふふ、何それ」
(…嘘じゃないよ、ティファ)
心の中でそう呟く。嬉しそうに笑ってくれるティファを見つめながら、今こうして、この笑顔を見守っていられる事実を噛み締める。
ティファ。俺はティファの役に立てるのなら、どんなことをするのも苦じゃないんだ。不可能だと思うことも、できるようになるんだ。
ティファが料理をしたいのなら、買い出しも調達も何だってする。ティファがどこかに出かけたいのなら、フェンリルもチョコボも車も、何を使ったって連れていく。ティファが誰かを助けたいと思うのなら、この身を挺して守ってみせる。
だけど俺だけじゃ、だめなんだ。俺だけが望んでも、意味がないんだ。
ティファが願ってくれるなら。ティファが求めてくれるなら。
ティファが、自分を見つけて欲しいと……他の誰でもなく、俺に望んでくれるのなら……俺は。
「……あ」
ふと、ティファが何かに気付いた様子で空を見上げる。それから細い腕を伸ばし、夜空を指差した。
「見て、クラウド」
「……?」
「月が、すごく綺麗だよ」
おそらく、俺の背後……頭上で輝いているであろう、月。それを見上げるティファの瞳が、月明かりを受け止めきらきらと輝く。それは、この場にあるどんな光よりも綺麗だった。どんな光よりも、俺を強く惹きつけた。
「……ああ」
もう乗る準備までできていたフェンリルから離れ、俺はティファのそばに歩み寄る。それから、きょとんとこちらを見上げる愛おしい人の頬に手を添え、目を覗き込む。
「…綺麗だ」
振り返り、月を見る必要はない。俺が見つけ出したいと願う光は、ずっとここにある。
俺を望んでいて欲しいと……願ってやまない光は、ここに。ここだけに。
「……綺麗だ、ティファ」
ティファの瞳が確かに、俺の姿を映し出す。瞳の中の光に自分を見てから、俺は少し身をかがめ、ティファに口付けをする。
もしかすると嫌がるかもしれないと、最初は触れるだけにして様子を伺おうとした。だけどティファは拒否の声を発することも、恥ずかしがることもせず、黙って俺を受け入れてくれていた。黙ってそのまま、キスを続ける許可をくれた。
ここが屋外であることや、人通りが多いことを、俺たちはわかっていた。それでも、ふたりが繋がる時間を優先することができたのはきっと……ティファの言う通り、この夜が特別だからかもしれない。
「……」
「……、…クラウド」
何秒経ったかもわからない、長くも短い口付けのあと、できる限りしっかりとティファを抱きしめる。ティファも何も言わず、俺の背中に腕を回し抱きしめ返してくれた。ただ、優しくこの名を呼んでくれた声だけが、耳に響いた。
「……ティファ」
「なあに……?」
「…誕生日、おめでとう」
「…うん。ありがとう、クラウド」
「……。プレゼント、俺も用意してあるんだ」
「え?」
「…あとで渡すよ」
「ふふ、今じゃないんだ」
「…うん。子どもたちとの誕生日会のあと。……ふたりになってから」
「…ふたりの時間、作ってくれるの?」
「当たり前だ。……今日の締めくくりは二人でいたい。それは、子どもたちにも譲れない」
「ふふふ、もう。クラウドったら」
「…嫌か?」
「…ううん。私も……クラウドと、ふたりがいい」
(…ティファ)
嬉しいなんて、ものじゃない。ティファのくれる想いと言葉で胸をいっぱいにしながら、その柔らかい頬に口付けをする。
ティファは、はにかんでくれた。笑ってくれた。それだけで俺は、迷わずティファに、手を差し出すことができる。
俺がこうしてティファのそばにいることも、ティファを抱いていることも……もう全部、夢ではないのだと。お互いが望み、ここにいる今を選ぶことができたのだと。
しばらく抱きしめ合ったのちに、子どもたちから掛かってくる電話。遅れてしまってすまないと謝りながら、俺たちは急いで再びフェンリルに乗る。早く帰ろうと、家族があるべき家に戻ろうと、笑い合う。
夜のエッジを駆ける中、背中にその身を預けてくれたティファは、とてもあたたかかった。
ようやく見つけたこの温もりだけは、忘れたくないと思った。そして俺も、この温もりをティファに伝えられていたら、どれだけいいだろうと思った。
大事な人を想い、想われた記憶が、いつしか生きる糧になるということを……俺はもう十分に、知っていたのだから。
moon catcher
(どうかこのまま、僕らを望んで)
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