誕生日の夜、ふたりきりの時間

(ティファ目線)

 

 

 

 

 

 

 

子どもたちが寝静まった夜。

 

ベッドの上に腰掛け、それからたっぷりとした髪をまとめて、前に流す。私の背後に回ったクラウドが、これから作業する手元を確認しやすくするために。

 

「…つけるぞ」

「…うん。お願いします」

 

確認のやりとりのあと、首周りにひやりと感じた、冷たい金属の感触。胸元に視線を落とせば、小さなシルバーのハートのペンダントがそこにある。ついさっき、今さっきクラウドがくれた、誕生日の贈り物。

 

「……」

「……」

 

ペンダントの金具をつけようとしてくれているクラウドの指先が、首に触れる。くすぐったくてつい身じろぎすると、クラウドは困ったように笑いながら、じっとしてと私に告げた。その声の優しさと、クラウドが後ろで確かに笑ってくれたことが嬉しくて、つい一人はにかむ。ああ、くすぐったい、くすぐったい。体も心も、何もかも。

 

「……よし」

「…つけれた?」

「ああ」

 

問いかけに返事をするや否や、クラウドは私の正面に回り込んできた。きっと、ちゃんと装着できたかどうか確認するためだろう。だけど、なんだか照れくさくて、私はごまかすようにわざとらしく背筋を伸ばしてみせる。クラウドはまた笑いながら、私の胸元を見て、うんと頷いた。こっちまで頬を緩めてしまう、柔らかい笑顔と共に。

 

「…どう?」

「……似合ってる」

「よかった。ありがと、クラウド」

 

クラウドの合格サインを聞いてから、ようやく私はペンダントに触れた。さっきまで確かに冷たかったのに、あっという間に私の体温を吸収してあたたかくなったそれ。これならシンプルだし、仕事中にこっそりつけていても、誰にも何も言わないと思う。形も可愛い。ハートだから、まるで心臓をもう一つもらったみたい。……こんな恥ずかしいこと、本人には言わないけれど。

 

「……ふふ」

「…気に入ってくれたか」

「もちろん。できるだけ毎日つけるね」

「…本当に?」

「? うん。チェーンも長いから、隠したいときは服の中に隠せそうだし」

「……そうか」

「…毎日つけられると、困る?」

「まさか。まさか、そんなわけない。……嬉しい」

 

必死になって、私の「困る?」を否定するクラウド。その反面、そのあと俯きながらくれた「嬉しい」には、喜びの気持ちが混ざっている。クラウドのくれる、こんな反応を見続けていると、つい、過度に自惚れそうになるの。この人は本当に私のことを、大事に思ってくれてるんだなあって。私のこと……考えてくれてるんだなあって。

 

「…クラウド」

 

気持ちも、はにかみも、だんだん隠せなくなってきた。ごまかすという目的も含め、勢いに任せてクラウドに抱きつく。クラウドは私をしっかり受け止めてくれる。それから、どっちが抱きしめにきたのかわからないくらいに強く、私を抱く腕に力を込めてくれた。

 

「…ティファ……」

「……。クラウド」

「…ん?」

「今日1日、本当にありがとう」

「…ああ。……おめでとう」

「ふふ……今日クラウドにお祝いしてもらうの、7回目くらいだよ」

「…そんなに言ったか?」

「うん。たくさん言ってくれた」

「……。日付が変わるまであと少しある。必要ならまだ言おう」

「あはは、もう十分。ありがと」

 

クラウドのくれる冗談を、声を出し笑って受け止めているうちに、いつの間にか体がぽんっと倒される。私を見下ろすクラウドの瞳も、私の胸元のペンダントに触れる指先も、なんだか熱い。どうやらクラウドは、"その気"のようだ。

知らない間にスイッチを押してしまったか、ずっと前からスイッチが押されていたことに気づいていなかったか。今となってはどちらかどうかなんてわからないけど……経緯がどうであれ、彼を突き放すつもりが、私には一ミリもない。

 

残りわずかな時間となった誕生日。クラウドのくれる贈り物は、日付をまたぎ、延長しながら続いていく。

 

「…クラウド」

「……ティファ。いい?」

「…うん。……いいよ」

「……今日は、ティファのしてほしいことがしたい」

「…いつも、して貰ってるよ?」

「…あんなものじゃない。もっと欲張って欲しい」

「ええ……ど、どうしよう」

「…どうされたい?」

「……クラウドの、好きにしてほしい」

「……。………ティファ?」

「…はい」

「それは、だめだ。……色々と、だめだ」

「ええ……? 難しい」

「……。……」

「……クラウド、笑ってる」

「……ティファには、かなわないな……」

「んん……?」

 

どうも、クラウドの期待する答えを導き出せないまま、彼とのキスは始まる。

 

でも、結局、ね? ほら。何もお願いしなくたって、クラウドがくれる口付けが、触れ方が、いちばん好きなの。それが何より嬉しくて、それが何よりして欲しいことなの。だからお願いなんてできないんだよ。こうした時間も、普段の時間も、どんなときもそう。クラウドが一生懸命考えて、私に届けてくれる全てが、私は一番貰って幸せなのです。

 

「……、ん……クラウド」

「……ん?」

「…いつも、わがままでごめんね」

「……。いいさ。何だって叶えてやる」

 

クラウドが、私のわがままを許す。その瞬間、罪悪感にまみれたそれは、存在してもいいものになる。

クラウドが、ペンダントに口付ける。その瞬間、もともと特別だったそれは、この世で唯一無二のものとなる。

 

ねえ、クラウド。クラウドがここにいて、私を見ていてくれる。これ以上の幸せを、私はいつか感じることができるのかな。

もしあったとしても、私はそれを認められないかもしれない。クラウドのくれる温もり以外を、認めることはできないかもしれない。

 

たとえそれが、どんな形をしていても……クラウドが私のために用意してくれた幸福を、私はいつだって一番星として、掲げていたいから。

 

 

 

 

 

 

ふたり、疲れて踏み込む、まどろみの中。ふとカーテンの隙間から、数時間前に見上げた美しい月を見つけた。

眠りに落ちるまで、私の瞳はきらきらと、その月光を集め続けた。いつの日かまた、愛おしいこの人に、この目を見つめてもらうために。

 

 

 

 

 

ムーン・キャッチャー

 

 

 

 


今度こそ fin