ティファにやんわりと拒否されることは別に珍しいことではない。そもそも俺の求める回数に対して、ティファのそれは少ないからだ。

 

ティファにだって疲れているときはある。俺が全てを理解してやれない月の周期のときもある。店の営業の具合で機嫌がよくないときもあるし、特に俺に腹を立てている日は尚更、そんな話にすらならない。

 

そう、別に悪いことじゃない。本来ショックを受けることではない。

 

 

 

 

 

「…クラウド、やだ」

 

ティファに上目遣いで見つめられながら、小さな声ではっきりと告げられる夜中の寝室。二人ともシャワーを浴び終えて、あとは眠るだけだというタイミングで、ティファに覆い被さりキスをしていたときのことだった。

 

何が嫌と言われているのか頭理解しようしない頭。ティファの柔らかい胸に伸ばした手がその位置で硬直する。ティファは、おそらく目を点にしているのであろう俺をうるんだ瞳に映したまま、もう一度念を押すようにつぶやいた。「今日は嫌だ」と。

 

「………あ」

「…ごめんね?」

「いや……謝らなくていい」

 

申し訳なさそうに眉をハの字に寄せるティファから、欲にまみれた手を慌ててのける。反射的に体も起こし離れようとしたけれど、ティファは何故か名残惜しそうに俺のシャツを掴み、離そうとしなかった。

 

(……?)

 

「……ティファ」

「……」

「…どこか悪いのか?」

「ううん、どこも悪くない」

「……。月のあれか?」

「違うの。……その、今日はそんな気分になれなくて」

「あ……」

「ごめんね、触られたくないとかじゃないんだけど……」

 

最近毎日のようにしていたから少し休憩がしたいのだと、ティファは恥ずかしそうに頬を赤らめながらぼそぼそと理由を説明してくれる。もっともな理由に何も返せないでいる俺に不安を覚えたのか、ティファは慌てて再度謝った。

 

「ごめんねクラウド……」

「…謝ることじゃない。俺の方こそごめん、配慮できてなかった」

「ううん、謝らないで。……嬉しいんだよ、その……したいって思ってくれることは」

「……」

 

口付けをしたくなって、だけどどこまで嫌がっているのかわからず、ひとまず小さな額にキスを落とす。おそるおそる表情を伺ってもティファは嬉しそうに微笑んだままだったから、どうやらこれくらいは許容範囲らしかった。

 

この後どうしたものかと……大切な人の髪を撫でながら、そうやって一人頭を悩ませていると。

 

「……クラウド」

「…ん?」

「その……」

「……」

「今日、できないんだけど……」

「…うん」

「……。…ぎゅってして、一緒に寝てくれる?」

 

ほとんど試練に近いオーダーをかわいい顔をして発注するティファに、思わず笑みが溢れる。無意識に、ただ純粋にそうして欲しいのか、試そうとしているのか。どちらにせよ断る理由も断るつもりもあるはずがなく、こくこくと頷いてみせると、ティファはほっとしたような笑顔になってから俺に向かって両腕を伸ばした。……どうやら、抱きしめることも許してくれるらしい。

 

「……ふふ」

 

華奢な背中とベッドの間に腕を潜り込ませ、大事なティファを抱きしめる。それから俺もテイファの隣に体を横たえる。やわらかい体がいたるところに当たるたびに緊張が走るが、それでもティファの笑顔を崩したくないという気持ちの方がずっとずっと強いから、実際は大した問題ではなかった。

 

(……)

 

ティファの温もりを感じながら、何度か意識的に深呼吸をする。

それからしみじみと思う。本来は……本当は、ただこうしているだけで幸せなんだということを。

 

「……クラウド」

「…うん?」

「…眠くなるまでお話ししてもいい?」

「…ああ」

「ありがとう。……クラウドは今日どんな日だった?」

「俺か? 俺は……午前中は頭が痛かったことしか覚えてない」

「ふふ……辛そうだったもんね。今は平気なの?」

「気づいたら、頭痛のことは忘れていた」

「相変わらず回復がはやいね、クラウドは」

「…ティファは? 今日は何があった」

「今日はね……お客さんの恋愛相談にのってたの」

「恋愛相談?」

「うん。……幼馴染が好きなんだって。女の子なんだけど」

「……」

「なかなかね、好きって言えないんだって。……難しいもんね、幼馴染って」

「…難しいか?」

「え?」

「…俺は、ティファと同じ村の出身でも、たとえそうでなかったとしても、気持ちや行動に変わりはなかった」

「……」

「俺たちが昔馴染みだったのは結果論で、それが何かを阻む理由にはならな……ティファ?」

「…クラウドって、意外と積極的だよね」

「…そうか?」

「そうだよ」

 

話した内容のどこかに気に入るようなことがあったのか。ティファはゆるむ頬を隠すように俺の胸に額を押し付ける。俺はいまいち理解しきれないまま、ただ単純にティファが嬉しそうであることを喜び、指通りのいい髪を撫でる。

 

(……積極的、か)

 

俺のティファに対するあまりに強い感情は……この言葉に無事収まってくれるのだろうか。こんな表向きの綺麗な表現でカモフラージュしていいんだろうか。

ティファが思っているより、いや、もしかすると俺が思っているよりも俺は……。

 

(……まあいい)

 

どのみちティファは、知らなくてもいい。気づかないままでいい。

綺麗なティファの心に、行きすぎた欲望は必要ないから。

 

「…ティファ」

「…なあに?」

「……一緒にいてくれてありがとう」

「ふふ、どうしたの、急に」

「…言いたくなった」

「……。私のセリフだよ、それ」

「これは譲れないな」

「…勝負する?」

「どうやって?」

「うーん……じゃんけんとか」

「何だそれ」

「ふふふ」

 

冗談を言い合いながら額と額を合わせ、笑い合う。体を重ねることではなくて、ティファの誰よりも近くにいられることが全てなのだと、抱き寄せる手のひらで体温を感じながら確かめる。

 

もう一度、愛おしく額に口付けをしながら考えた。守らなければならないと。ティファにとって悪となる全てのことから……時には、俺自身から。

 

 

 

 

 

5.Test

 

 

 



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