「滑るなよ」

 

からかうような忠告を添えて、先に湯船に浸かっているクラウドが手を差し出す。なんとなく胸元を隠しながら、空いている方の手を彼の手の上において、私はゆっくり右足からお湯の中に入れていく。

 

お湯の温度は45度。マリンやデンゼルたちのためにお湯を張るときには、なかなか設定しない温度。私が熱めのお湯の方が好きなのを知っているクラウドは、こうしてこっそり二人でお風呂に入るときだけ、この温度設定を許してくれる。……クラウドが本当は、お風呂に浸かるのも好きじゃないし、熱めのお湯も好きじゃないことを私は知っていて甘えている。

 

ゆっくりゆっくりしゃがんで、体を浸けていく。最初は高温に驚いてびりびりしていた体も徐々に慣れていく。

 

何となく落ち着いてからクラウドに背中を預けると、クラウドは満足そうに背後から私を抱きしめた。

 

「……ふう」

 

 

どちらからともなく、気持ちがいいというため息がこぼれる、深夜1時。シャワーを浴びる前のクラウドに求められてしまったこともあって、人より長い時間を取った情事のあと、私たちふたりでお風呂に入ることにした。

 

ふたりでお風呂に入るときはこそこそ声になる。夜中にシャワーを浴びるということでさえ子どもたちを起こしてしまう可能性があるから、大きな声で遠慮なく話すことはできない。だからいつも私たちは、シャワーの音に紛れるくらいの声量で、はだかの付き合いをすることにしている。

 

「はあ……きもちい」

 

ぐぐ、と伸びをしてから、クラウドに更に体重を預けてもたれかかる。私より一回りか二回り体の大きい彼の胸は、簡単に体を受け止めてくれる。

 

クラウドはお腹に腕を回し、私の肩にあごを載せ、気持ちが良さそうに長い息をついた。

 

「……クラウド」

「…ん?」

「…お風呂、強くなったね」

「そうか……?」

「うん。……前は3分ももたなかったじゃない」

「…言われてみればそうかもしれない」

「ふふ……訓練のおかげだね」

「…ティファと一緒じゃないと、こんな長風呂できないけどな」

「合わせてくれてありがとう」

「…いいんだ。好きでしてる」

 

耳元で囁かれる言葉。聞き慣れているはずなのに、いつまで経ってもぞくぞくとしてしまう不思議な声。

油断したらあっという間に、熱い気持ちを取り戻してしまいそうになるから、こういうときはいつも気を張っていなくちゃいけない。

 

なんとなく顔が見たくなって頭だけ少し振り返る。目を閉じていたクラウドは私の視線に気づき、すぐに唇にキスをくれた。さっきまでの……今よりもずっと熱い時間を思い出させる深い口付けに、心は瞬く間に釘付けになる。

 

「……」

「……あ、…クラウド、だめだよ」

「…なんで?」

「なんでって……もう夜遅いし、沢山したでしょ? 昨日も……」

「…回数は関係ない」

「もう。……でもほんとに、今日はおしまいだからね」

「……わかった」

 

クラウドが拗ねたような様子を見せるのは、キスの最中私の隙をついて、胸のふくらみに手を伸ばしていたのを咎められたから。

 

キスまで許しておいてなんだ、みたいに、もっと怒ってもいいところなんだけどな。心の中で聞こえる矛盾した声。わがままな自分を情けなく思いながら、私の肩や首筋に食べるように口付けすることで気を紛らわせようとしているクラウドの頭を撫でる。濡れてツンツンしていない髪型のせいか、いつもより幼く見える姿を愛おしく思う。

 

熱いなあ。ほんの少しの息苦しさを感じながら見上げる低い天井。湯気が立ち込める浴槽内は、何もかもがぼやけていて、子どものようなわがままをごまかすにはぴったりの環境だった。

 

「……ティファ」

「…うん?」

「………。熱い」

「あ。……ふふ、もうあがる?」

「……迷いどころだな」

「…もっとくっついてたい?」

「うん」

「…一緒に寝たら、またくっつけるよ」

「……、」

「…あ、するのはだめだけどね」

「…………」

 

わかりやすく表情をコロコロと変えて、今の気持ちを教えてくれるかわいい人。飽きることなんてないと……いつも私に言ってくれるのと同じで、私もクラウドに飽きてしまうことなんてないんだろう。一緒に暮らし始めてもう何年も経っているのに、抜け出すことができないでいるこの甘い世界の中で、変わらない気持ちを確かめる。

 

 

 

残念そうに視線を落とすクラウドの頬に、一瞬の口付けをする。ふわりと上機嫌に変わる表情に釣られ心躍らせながら、私は今夜もクラウドを信じ体を預ける。

熱い熱いこの星で、私たちはとっくの昔にのぼせていた。冷水を浴びせられたって、冷めることなどないほどに。

 

 

 

2.Bath

 

 



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