新聞、テレビ、好きじゃない。知りたいけど、知りたくないこと、たくさん書いてあるから。
聞きたいのは、明日の天気。どんな格好をして教会に行けばいいのか、できれば知っておきたい。だって、あの人は突然やって来る。わたしが突然、電話するみたいに。いつも自由で勝手なの。だけどそのサプライズは、嫌いじゃない。
「あれ?」
晴れの日、平日、お昼の時間。誰も来ない教会が、いちばん静かになるこの時間が、わたしの一番のお気に入り。
「なあ、エアリス」
今日、この人はそんな時間にやってきた。
お風呂に入ってないのか、頭はぼさぼさ、服もドロドロ。女の子に会うときくらい、もう少しおしゃれしてもいいんじゃない? そんなこと、思わなくもないけれど、お日様のような笑顔で名前を呼ばれたら、なんだかどうでもよくなっちゃった。
「どーしたの。元気ない?」
身をかがめ、首を傾げ、ザックスはお花を摘むわたしの顔を覗き込む。今日はまだ、出会って7分。何でもないふり気づくのは、ちょっと気が利きすぎる。
「どうして?」
少しだけ微笑んだまま、わたしをじっと見るその顔を見上げる。
ほっぺたに泥がついてるし、よおく見たら肌もカサカサ。だけど、わたしを映すその瞳だけは、どんなときでもキラキラ、きれいだった。
「どうしてって……うーん。わからん」
「何それ。わたし、今日も健康。問題ないよ」
「そう? ならいいんだけど」
当てずっぽうなのか、勘なのか。言葉の根拠はわからない。だけどなんだか納得しない感じで、ザックスは身を引く。わたしは、ひとまずごまかせたことに安心して、お花を摘み続ける。今日もこれ、届けるために。誰かのところに、届くように。
ねえ、ザックス。
どうしてそんなに、ボロボロなの? どうしてお風呂も入れていないの?
どうして泥だらけなの? ほっぺの汚れそばにある、切り傷はどうしたの?
あなたはどこで、何をしているの?
聞きたいこと、たくさん。知りたいこと、たくさん。だけどこれ全部、聞きたくない。これ全部、知りたくない。
わたし、わがままなの。怖いの。知れば知るほど、あなたが遠くに行きそうで、嫌なの。
ね。これが暗い顔する理由。ザックスには、内緒がいい。
「…なあ、エアリス」
「なあに?」
「俺、これでも結構慕われてるんだぜ。後輩に」
「うん。そんな気、するよ」
「だからさ。そのー……いいからな。何でも相談してよ。頼ってよ。力になるからさ」
「もう十分、頼ってる」
「まだまだだって。俺、エアリスのためにもっと、何かしたいんだ。家の掃除が大変、とかさ。捕まえてみたい虫がいる、とかさ。何かない?」
「あはは、ないない。ザックスよりわたしのほうが虫取り、得意」
「ええー? ゴンガガ出身の男をなめるなよ? 最初にできた友達は昆虫だ」
「なにそれ」
本気なのか、気をつかってくれているのか。ザックスはわたしを笑わせる。わたしは笑う。笑顔を見せてと言ってくれる、あなたのために。あなたと一緒にいるとき、笑っていたい、自分のために。
テレビは嫌い。新聞も嫌い。あなたと関係あるニュース、たくさん流すから。報道の裏側に、たくさんの悲しみ、痛み、感じるから。
だからわたし、あなたの話が好き。外で見つけた面白いこと、素敵なもの、目を輝かせて教えてくれるから。忙しいのに、疲れているのに、頑張ってここに来てくれたこと、感じるから。
このプレートの上にどんな事実があっても……あなただけは信じられると、思わせてくれるから。
プルルルル。電話が鳴る。ザックスの顔、こわばる。小さな声で話すの下手だから、仕事のお電話ってこと、わたしにばれる。
ザックスは謝る。そして必ず言う。また来るから。また会おうな。また、また。必ず、また。
わたしはそれ、信じて見送る。
迷わず。疑わず。「また」がすぐ来ればいいのにって、願いを託す。
教会を出るとき、何度も何度も振り返って手を振るザックスは、いつまでも笑顔だった。
この人が何も隠さず、頼れるような人になりたいと、わたしはいつも、心から思っていた。
日傘
fin,