今朝のクラウドは特別に眠そうだ。朝ごはんとして出したトーストも少しずつしか食べないし、瞼は今にも閉じてしまいそうなほど、重そう。じいと様子を見ていると、どうやら熱いブラックコーヒーをちびちびと飲むことで、自我を保っているようだった。
「……ご飯、残していいから寝てきたら?」
見かねてつい、かけた言葉。クラウドはゆっくりと顔をあげ、半分閉じた綺麗な目で私を見る。それから、ふるふる、と首を横に振り「食べる」とだけ小さく呟いた。
「でもクラウド、今にも倒れそうだよ」
「いや……大丈夫だ。頭が動いていないだけだ」
(そういう状態を、倒れそうっていうんだけど……)
どうやら、意地でも出されたものは食べるらしい。心なしか早まる、トーストを口に運ぶ手。もっと食べやすいものを出してあげたらよかったなあと、今更ながら後悔する。
今朝クラウドがふらふらとリビングに現れたのは、寝室からではなく……お店の外からだった。
昨夜中に終わると言っていたお仕事が終わらなかったらしく、クラウドは珍しくぐったりとした様子で帰宅した。シミ一つない綺麗な肌の上に、目立つクマ。元気がないように見える、トレードマークのチョコボヘア。慌てて駆け寄った私に、クラウドは「ただいま」と「遅くなってごめん」ともう一言、告げた。お腹が減ったと。
それで、慌てて今すぐ用意できるものを作って、出してみたのだけれど。
(……やっぱりこれは、今すぐ寝た方がいい顔だ)
「…クラウド」
「……ん?」
無心に、あたたかいトマトスープをスプーンで掬って飲むクラウドに声をかける。眠くて仕方ないはずなのに、口元だけほんのり笑顔をつくってくれる優しさに、申し訳ないけど胸をときめかせながら。
だけど、話を続けたのは私ではなく、そんなぼんやりクラウドの方だった。
「…決まったか?」
「え?」
「行きたい場所」
「行きたい場所?」
「…今日、出かけたいって言ってただろ。二人とも休みだから」
「あ……」
「晴れてるから、どこでも行けそうだな」
ぼそぼそと呟くクラウド。出かけよう、なんて、今すぐ寝た方がよさそうな人から出る発言ではない。確かに、先週何気なくクラウドに話した記憶はある。せっかくだから久しぶりに外出しようって。だけどそれは、当たり前だけど、二人とも元気で余裕があったらの話だ。しんどそうなクラウドを見て、自分の「出かけたい」という過去の希望はすっかり忘れてしまっていた。
もしかして……クラウドは、そのために今一生懸命ご飯を食べて、寝てしまわないようにしてるんだろうか。
「い、いいよクラウド。おでかけはまた今度にしよう?」
「…何で?」
「何でって……自分がどんな顔してるかわかってる?」
「……俺は元気だ」
「…説得力がない」
「……暫くしたら、眠気もどこかに行く」
「だめだよ、クラウド。ちゃんとお休みしないと。一緒にいようとしてくれるのは、すごく嬉しいけど」
「だが……次、いつ休みが合うかわからない」
「大丈夫。きっと近いうちに合うよ」
「…その日が晴れるかもわからない」
「雨でも曇ってても、お出かけはできるよ」
「……」
持っていたトーストをお皿に戻し、しゅんとしてしまったクラウド。もしかしたら、お出かけしよう、と思いながら帰ってきてくれたのかもしれない。朝ごはんを食べて、元気を出そうと思ってくれたのかもしれない。そう思うとつられて切なくなってしまうけれど……無理やり作る思い出よりも、クラウド自身の方が大切なのだから。
向かいに座っていた私は、立ち上がり、背中を丸めるクラウドの元へ向かう。それから身をかがめ、体をこちらに向けてくれたクラウドを抱きしめる。クラウドは少し戸惑いながらも、力強く優しく、抱きしめ返してくれた。
「……ティファ、俺、まだシャワーも、」
「いいの」
「…ティファ」
「……クラウド。私、これでいい。これがいい」
「……」
「…クラウドがここにいてくれることが、一番いいの」
せっかく抱きしめた体を離したくなくて、私はクラウドの首筋に顔を埋めたまま言った。顔は、見なくてもわかるような気がした。少ししたあとに、クラウドが小さく「ありがとう」と呟いたから。体の力をふわっと抜いてくれたような気がしたから。
そうだよ、クラウド。私は……あなたが、一緒に過ごしたいと思ってくれたその事実が、一番嬉しいのです。
そのあと。安心したのか、私を抱きしめたまま眠りに落ちてしまったクラウドを、一生懸命おんぶして二階に運ぼうとしたところ、デンゼルたちに見つかって大笑いされたのは、彼には秘密のお話。子どもたちにも手伝ってもらってやっと、無事ベッドに寝かせられたのも、秘密のお話。
私たちのお休みは、決して無駄にならなかった。だってこんなにも、そばにいられたのだから。
晴朗
fin.