大切な人に勢いで口づけをするなんていうことが、俺の人生で起こってもいいのだろうか。

 

何も、気合いをいれたわけではない。覚悟したわけでもない。読んで字の如く、気づけば体が動いていた。

引き金は多分、そう。ティファの上目だった気がする。メテオを制したあと、状況を確認するための旅の途中で訪れた街。仲間たちとの束の間の解散で、ふとふたりきりの時間が訪れた。俺はティファに、どこか飲食店でも入って休むかと提案しようとした。それだけだった。本当に。

 

それだけではなくなってしまったのは、俺を少し見上げるティファの瞳が、どこか色っぽく潤んで見えたせいだったと思う。

 

「……」

「……」

 

街の端、人気のない木陰に立っているとはいえ、こんなところで口づけをしたら誰かに見られるかもしれない。……なんていう心配事が脳裏をかすめた頃には、時すでに遅しの状態だった。

 

息をのむ間もなく自身を重ねた、ティファの唇。記憶を掘り返して思い出すものより、ずっと柔らかいその弾力を確かめる。少しついばむように求めても、ティファは俺を突き飛ばしたり、唇を噛んだりはしない。むしろ、合わせて浸ってくれているような動作に、俺は今更ながらめまいを覚える。

 

こんな……ことがあってもいいのだろうか。何の断りもなく、本能のままに、ティファに触れられるような状況が。

 

「……」

「……」

「……、ごめん」

「う、ううん」

 

何となく我に帰り、ティファを解放したあとに出た自分の言葉は、おそらく正解ではなかったと思う。ティファは俺と目を合わすことなく、ただ頬を赤らめて俯いている。

唇は離せても、離せないでいるティファの手。冷たいその指先をあたためるように包んだまま、俺は微動だにできなくなる。

 

街を包む賑やかな声が、次第に意識下に戻ってくる。繋ぐ手だけが、熱くなる。

 

「……」

「……」

「……、みんなを探しに行くか」

 

俯いたまま、小さく何度も頷くティファを確認してから、俺たちは日陰を出た。居た堪れなくなって提案した仲間の捜索も、きっと正解の行動ではない。だけど、心臓がだめだった。これ以上はきっと、まだ、足を踏み入れてはいけない。

 

「……」

「…、クラウド」

「!」

 

ティファの指をようやく離し、町の中心部に歩き出そうとしたとき。ティファが俺の背中に触れる。どくんと、体が脈を打つ。

 

「…ティファ?」

「…、私……その」

「……」

「…嫌じゃないから。だから……」

 

正解はまだわからない。だが、この先をティファに任せていてはいけないと思った。

踵を返し、ティファと向き合う。ここからどこに向かうか、俺たちはまだ選ぶことができる。

 

 

 

何かから俺たちを隠すように、日陰はしばらくそこに止まり続けてくれた。

罪も正しさも後悔も、この混乱のうちだけは、影を潜めてくれているような気がした。

 

 

 

日陰のめいろ

 

 


fin.