溶けそうだ、と思った。両手で包んでやらないと、そのまま形をなくしてしまいそうなほど、ティファの表情は柔らかかった。

 

仕事も用事も何もかも終え、ようやく訪れたふたりきりの夜の時間。会えなかったり、話せなかった時間を埋めるようにキスを繰り返しているうちに、ティファはその表情を見せ始めた。呆けているような、うっとりしているような、瞼を半分落とした色っぽい顔。この口付けのせいかと自惚れてしまうのは仕方がない。唇を重ね、ティファの口を吸うほど、ティファは柔らかくなっていくのだから。

 

「……」

「…ん……?」

「いや……」

 

だんだん糖度を増していくその表情に見惚れていると、ティファは「まだか」と言わんばかりに上目遣いをする。おそらくだが、無自覚なのだろう。言葉無しで巧みに俺を誘っていることは。望み通り喜んで口付けをし、柔らかい唇を優しくついばめば、ティファは満足そうに息をついた。

 

(……)

 

「…、…ふう……」

「……」

「………クラウド?」

「…ん?」

「…どうしたの……?」

「あ……いや、落ちそうだと思って」

「……?」

 

ティファが不思議そうに俺の名前を呼んだのは、俺がティファの両頬に両手を添えたから。両肘をベッドにつき、支えるように持ち上げたティファの頬は、妄想よりずっと柔らかい。きょとんとこちらを見上げる様子がさらに愛おしさを加熱させ、体が熱くなるのをただじんわりと感じる。

 

(……、)

 

「……絶対に」

「?」

「…絶対に手放せない特権だな」

「…何が?」

「……ティファを甘やかす権利」

「ええ?」

「…こんな顔、誰にも見せられない」

「そ、そんな酷い顔してる……?」

「ううん。かわいい」

「か……!」

 

散々、言われ慣れているだろうに(外野からも俺からも)、ティファは初めてその褒め言葉をもらったかのような反応をする。照れる仕草もかわいいけれど、またあの溶けたような顔が見たくて少し深めのキスを贈れば、ティファはあっという間にぼんやりとした目に戻った。

 

(……これは)

 

また、新たな「癖」を作ってしまったかもしれない。

 

「……ティファ、困った。やめられない」

「い……意地悪だ」

「意地悪じゃない。ティファが嫌ならいつでもやめる」

「……やっぱり意地悪じゃない」

 

降参とばかりに、ティファは体の力を抜き、細い腕を俺の首に絡める。もっとしてもいい、あるいは続きをしてもいい許可を得たところで、気持ちは子どものように昂る。

だが、ティファは何かが不服なのか、わざとらしく頬を膨らませたままぼそりと呟いた。

 

「……くせに」

「ん?」

「…自分こそ、どんな顔してるか知らないくせに」

「…俺か?」

「…クラウドはずるいよ」

「……ごめん」

「ふふ……わからないまま謝らないの」

「…ばれたか」

「バレバレだよ」

 

ティファが嬉しそうに笑みを浮かべたのを確認してから、俺は懲りずにキスを続ける。自分がどんな顔をしているかなんて、あまり考えたくはない。だらしのない顔をしている自覚だけはあるから。ある意味で、ティファ以外には見せられない顔をしているのはわかっているから。だけどティファの言い方から察するに、別に嫌がられてはいないのだろう。その事実だけで、俺はもう十分だ。あとはティファだけに集中すればいい。

 

ティファが唇の端から漏らす、甘い声に引き込まれながら、俺は頭の中が沸騰するのを感じていた。

溶けそうだ、と思った。だけどこのまま混ざれるのなら、それは本望だった。

 

 

 

チヨコレイトを湯煎する


fin,