「はう」

 

不思議な声が聞こえた。シャワーを浴び終え、脱衣所で適当に髪を拭いていたときに。

 

声のした方を反射的に振り返る。そこには、自分がこれから着るであろう寝着を抱いたまま硬直する、ティファの姿があった。……状況を察するに、どうやら俺がいると思わず扉を開けてしまったらしい。

 

「ティファ?」

「! あ、わ、ごめんなさい!」

「……」

 

(…まだ何も言ってない)

 

ぴしゃりと閉められた、開けられたばかりの扉。何となく自分の今の状態を確認する。確かに上は何も着ていないが、下着は履いているし、そこまで問題がある姿ではないはずだ。少なくともティファに見られる分には……俺たちの関係なら、何も、問題はない。

 

「ティファ」

「っ、わ」

 

恥ずかしがり屋のティファを連れ戻さないと。さっきのティファの驚いた顔を愛おしく思い出しながら、俺の方から扉を開ける。幸いティファはこの場から逃走せず、扉の前で硬直したままでいてくれたようだった。

 

「く、クラウドごめん、まだクラウドがいるって思わなくて……」

「いや、いいんだ。もうすぐ出る。…入るか?」

「え? い、いいよ、外で待ってる」

「…こんな暗い廊下で、一人で待たせたくない」

「……」

 

俺の、理由にもなっていない理由で納得したのか、縮こまりながら脱衣所に足を踏み入れてくれるティファ。だがまだ、なかなか目を合わせてくれない。扉を再び閉じ、ふたりきりになった空間に、妙な沈黙が流れる。

 

「……」

「……」

 

引き続き、髪を乱雑に拭きながらティファを見る。寝着をこれでもかというくらいに抱きしめて、ティファはあちらこちらへと目を泳がせていた。

 

(…かわいい)

 

「…ティファ」

「は、はい」

「子どもたちは?」

「あ……もう寝たよ。揃ってぐっすり」

「そうか、よかった」

「二人とも、クラウドにおかえりって言えて、満足しちゃったみたい」

「…ありがたいな」

「ふふ」

 

リラックスした笑顔を見せてくれたのを確認してから、なるべく自然にティファとの距離を詰める。

 

この下心がばれる頃にはもう遅い。ティファは再び、はっとしたように驚いてこちらを見るけれど、そのときにはもう俺と壁に挟まれた状態だった。

 

「っ、クラウド」

「ん……?」

「ふ、服着て?」

「…どうして」

「どうしてって……風邪ひくから」

「…ティファは脱がないのか?」

「私は……クラウドが服着たら、脱ぎます」

「…俺はもう少しかかる。時間がもったいないから脱いだらいい」

「うそ。いつもすごく早いじゃない」

「……」

 

ティファぐらいしか知らない、逃れようのない事実。何て返事をしても不利になるのが目に見えたので、頬を膨らませるティファに口付けをして誤魔化す。

嫌がられるかもしれないと思ったが、ティファは「もう」とこぼしながらもキスに応えてくれた。

しかも満更でもなさそうだということが……ティファが俺の肩にそっと置いた手の優しさから、伝わってくる。

 

ティファはときどき、俺に甘い。そして俺は、それがどうしようもなく嬉しい。

 

「……」

「……。ごまかされた」

「…気のせいだ」

「ふふ……でも、本当に風邪ひくよ? 早く服着よう」

「……確かに、冷えてきたな」

「ええ? 大変」

「…もう一度入ろうかな」

「……」

「……」

「……クラウドのえっち」

「ティファこそ」

「私は別に、」

「俺はまだ、何かしたい、なんて言ってない」

「……。……」

「ティファがして欲しいことがあるなら、何でもする」

「あ……ずるい」

「ん?」

「……私のせいにするんだ」

「責任は取る」

「ふふ、何の?」

「…今からすること」

「もう、やっぱりしたいんじゃない……」

 

呆れたようにしながらも、にこにこと嬉しそうに、ティファが俺の首に腕を回した。それを合図に俺は改めてティファにキスを送り、衣服に手をかける。

 

思わぬ褒美に、口付けをしながらつい口角が上がってしまう。やっぱり、ティファはすごい。安らぎも温もりも、俺が欲しいもの全部、ティファ一人が持っているのだから。

 

「……、…ティファ、万歳して」

「ん……」

「…上手だ」

「……、はあ」

「?」

「また負けちゃった……」

「ふ……もう降参か?」

「……。勝負はこれから」

「…受けて立つよ」

「ふふ、」

 

結局全部の服を脱がさせてくれたティファの手を引き、俺は再びシャワー室に舞い戻る。

 

ティファと一緒にいられるのなら、勝ち負けなんて何でもいい。そして願わくば、ティファもそうであって欲しいと思う。俺たちはただ探しているだけなんだ。日常に散らばる、そばにいるための口実を。

 

ティファの温もりを感じ、ティファに安らぎを貰いながら、俺も同じものをティファに贈りたいと考えていた。嬉しそうに優しく甘く、俺の名を呼んでくれるティファの声が、その結果を教えてくれているような気がした。

 

 

 

よろこび合わせ

 

 

 


fin,