「クラウド、これ食べる?」

「食べる」

 

「クラウド、いま時間ある? 洗濯物干すの手伝ってほしくて、」

「手伝う」

 

「クラウド、ちょっとお買い物行くけど、来る?」

「行く」

 

「クラウド、あのニュース聞いた? 許せないよね」

「ああ、許せない」

 

「クラウド、いいお酒が入ったんだけど、飲まない?」

「ティファは?」

「私も少し貰おうかな」

「…飲む」

 

「クラウド、私もう寝るけど……」

「…、俺も寝る」

 

(…………)

 

かちこち、かちこち。時計の針が進む音を聞きながら、私は胸元のふわふわとした金髪を撫でる。

 

ベッドに横たわる私を抱きしめる、ふわふわ髪の持ち主はクラウド。彼は、なんとも幸せそうに微笑んだまま私の胸に頬をのせ、目を閉じている。胸の上がそんなに心地いいのか、この時間に浸っているのか、はたまた両方か。ついさっきまで熱い目つきで私を見下ろし、必死に求めてくれていた人……だとは思えないほどのとろけた表情に、私はつい破顔する。

 

「…クラウド」

 

つい名前を呼んでしまったのは、そのとろけた世界に自分も混ぜて欲しかったからだろうか。呼ぶとすぐに開かれる美しい青と緑の瞳。クラウドは、微笑みをそのままに私を見上げ、首をかしげる。その頬に手を添えると、まるで猫のように頬擦りをしてくれた。

 

「…どうした?」

「ううん。……もう、眠い?」

「…少し。ティファは?」

「私はまだ、目が冴えてる」

「……そうか」

 

何の気なしに質問に答える。するとクラウドは、惚けた表情を一度普通に戻して、頭の位置を胸元から私と同じ枕元に移した。ぐいと抱き寄せられる腰。とつぜん目の前にきた、大好きな人の顔。散々見てきたはずなのに、胸をしっかりときめかせながら、私は私をじいと見つめるクラウドを見つめ返した。

 

「…クラウド?」

「…俺も、まだ眠くない」

「え? さっき、眠いって」

「…気のせいだった」

「ふふ、なにそれ」

「……眠くなるまで、話そう」

「…付き合ってくれるの?」

「もちろん」

 

(…ああ)

 

まただ。やっぱりそうだ。そんな言葉が、頭の中に浮かんで消える。眠くないと言い切る、眠そうな顔のクラウドを愛おしく見つめながら、私はこっそりと感触を確かめる。クラウドの、底なしの優しさ。どんなことにも寄り添ってくれる、私には贅沢すぎるほどの、親切さ。

 

人はこの人を、つれない人だという。

私はクラウドを、そう思ったことが……ない。

 

(……、)

 

「じゃあ……クラウドの話、聞きたいな」

「俺の?」

「うん。今日、何かあった?」

「……ティファの作った朝飯を食べた」

「ふふ、うん」

「…少し、家事を手伝った」

「そうだったね。ありがとう」

「……ティファと買い物に出かけたな」

「うん。楽しかったね」

「…あと、宝条が関わっていそうなニュースを聞いた」

「そうそう。…気になるなぁ」

「ああ。……あ、それと、ティファと酒を飲んだ」

「美味しかった?」

「うん。あれは、店に出すのか?」

「うーん、ちょっと入手が難しいから、すぐにはできないかも」

「…ティファは、いつ酒の知識を仕入れるんだ?」

「働きながら、だよ。昔からそう。やっぱり実践が一番」

「ふ、ティファらしい」

「…クラウドは、勉強好きだった? なんだかんだ結構、物知りだよね」

「そうだな……。…ソルジャーの試験があったから、死に物狂いで得たものもあるけど……覚えることは嫌いじゃない」

「羨ましい。私、本を読んで覚えるのは、さっぱりかも」

「…本で覚えるより、体感して覚えた方が身につく。ティファの方が、勉強のセンスがある」

「ええ、そうかな?」

「ああ」

「…ふふ。ありがと」

「うん」

 

(……あ)

 

嬉しい気持ちで心をいっぱいにして、クラウドにお礼を伝える。だけど伝えてから、はっと我に返り、気づく。クラウドを褒めたくて始めた話が、いつの間にか自分を褒めてもらって終わってしまったことに。クラウドに悪気は全くないことをわかった上で、思う。……まんまとやられた。

 

まいったなあ。そう思いながら彼を見るけれど、こちらと打って変わって、クラウドはむしろ満足そうにこちらを見つめているだけだった。

 

(……)

 

やっぱりクラウドは私を、少々甘やかしすぎである。そして私も、自分に甘すぎだ。

 

惜しみなく寄り添ってくれるクラウドに「甘やかさないで」なんて伝える気が、これっぽっちも起きないのだから。

 

「……困ることが、ないのがなあ」

「…ティファ?」

「ううん、なんでもない。……ね、クラウド」

「…何だ?」

「ちょっと、眠くなってきた……かも」

「…そうか。なら、寝るか?」

「うん、そうしよう。……ありがとう、クラウド」

「? 何が」

「えっと、お話付き合ってくれて」

「…いや、いいんだ。俺も楽しいから」

 

クラウドはそう、ぽつりと私に伝えながら、私の肩を抱き寄せる。寝落ちてしまうとき以外、クラウドが必ずしてくれる抱擁。どこにもいかないように、どちらかがはぐれてしまわないように、しっかりと私を腕の中に閉じ込める。限りなく優しくて……限りなく強い拘束で。

 

 

 

体温は混ざり合う。抱きしめてくれたクラウドの腕の中は、どこまでいっても心地がいい。いっそのこと、溶けてしまおうか。ひとつに混ざってしまおうか。ずっと一緒に、いられたらな。ここでしか息のできない、魚になってしまいたい。うとうととし始めながら、私はそんなことをぼんやり考える。寝ぼけていたのだと、あとから言い訳をするのを前提に、この体温の中毒になっていく。

 

ゆっくりと優しく髪を撫でてくれる大きな手。何も言わずにおまじないとしてくれる、額への口付け。ここに確かにあるのは、涙も滲むような愛情。だけど他の生き物が入り込めない、無重力空間。人によっては毒となる、世界。

 

 

私はここで、たっぷりと深呼吸をしていた。抜け出す理由なんて、到底、見つけられなさそうだった。

 

 

ウィン・ウィン・アディクト

 

(共依存? ものは言いよう)

 

 


fin,