夜とも朝とも呼べない時間に、私はひとり、笑いをこらえている。
予定より早く目が覚めて、水を飲むために寝ぼけ眼で寝室を出た。
そんな私の、目だけでなく眠気まで覚ましてくれたのは、同じベッドで寝ていたクラウド。私がベッドを抜け出すまで、大人しくすやすやと隣で寝息を立てていたはずなのに、寝室に戻ってきた今、クラウドはずいぶん暴れている。それもただ暴れているわけではない。多分だけれど、夢の中で彼は、何かを必死に探している。そうとしか思えないほど、たくましいその腕が、何度も何度も空を切っているから。
「……」
口元を手で隠しながら、様子を見守る。悪趣味だなあと自分でも思うけれど、見守りたくなるわけがある。
それは私が、彼の探し物が何なのか検討がついてしまったから。クラウドが探しているのはきっと、ついさっきまでその腕のなかにあったもの。私がベッドを出たせいで、彼の腕の中からすり抜けてしまったもの。
自惚れだってわかってる。自意識過剰というものかもしれないって、思う。
だけどそれでも嬉しい気持ちを遠慮できない。愛おしいっていう気持ちを、堪えることができない。
「ん……ティファ……」
我慢できずに体がベッドに向けて動いてしまったのは、彼がついに私の名前を呼んでくれたからだった。
空を切り続けるその手を思わず握り返す。そうでもしないと、クラウドは探しものを追い求めすぎて、ベッドから転げ落ちてしまいそうな勢いだった。
「クラウド」
夢の中にいるとわかっているのに、ぎゅっと指を絡ませてからつい、呼び返してしまう名前。クラウドはそんな私の手を、同じくきゅっと握り返す。口元がほっと緩んだように見えたのも束の間。閉じていたはずのその瞳は、まるでスイッチが入ったかのようにゆっくりと、瞼を持ち上げ姿を見せた。
(……あ)
「……」
「……クラウド」
「…ん……? ティファ」
「うん、私」
ぱちぱち、いや、とろとろと。クラウドがゆっくりと瞬きを繰り返す。小さくて力の入っていない声とは裏腹に、握り返してくれた手の力は相変わらず強い。それがなんだか嬉しくて、私は上機嫌なままベッドに体を横たえる。大好きなこの人の、一番近くにいくために。
「…どうした……?」
「ん?」
「…眠れないのか」
「あ……ううん、違うの。ちょっと早く目が覚めちゃって、水を飲んできただけ」
「そうか……」
「むしろ、ごめんね。クラウドまで起こしちゃったね」
「それは……気にしなくていい」
ほっとしたように大きくため息をつきながら、クラウドが私の体を抱き寄せる。その腕の力の強さに、心は確かに喜びを覚える。クラウドに抱きしめられて、嬉しくないわけがない。それも、こんなにたっぷりと。何より、こんなに大切そうに。
クラウドの胸板に手のひらを当てて感じる、ゆっくり動く心音。何度も何度も押し寄せる、自分がここにいることの幸福。
「…ねえ、クラウド」
「……どうした?」
「…さっき、何か夢見てた?」
「夢? ………いや、覚えてないな」
「そっか」
「……何か言ってたか」
「…うん。言ってた」
「…何て言ってた?」
「それは……何でしょう」
「ん……? …わかった」
「え?」
「ティファを呼んでいたんだろ」
「ふふ……すごい、ほとんど正解。よくわかったね」
「…だてに、自分と付き合ってきてないからな」
「?」
「…なんでもない。……でも、それでわかった」
「なにが?」
「ティファがずっと、嬉しそうな理由」
「もう……」
「…俺に呼ばれて、嬉しいのか?」
「…うん、嬉しい。クラウドは、嬉しくない?」
「……すごく嬉しい」
「ふふふ」
「…寝言で名前を呼んで欲しくて、寝ずに待っていたことはある」
「ええ?」
「……流れ星と同じで、待っているときは呼ばれないものだ」
「ふふ、そうだね、わかる」
クラウドと私。同じ気持ちだって、思ってしまっていいだろうか。こんな時間を過ごして、似た笑い声を響かせて。想いはちゃんと通じてるって、安心してもいいだろうか。くったくのない笑顔を見せてくれるようになった、クラウドの隣で。
「…なあ、ティファ」
「なあに」
「…朝までもう少し寝るか? それとも……」
「…それとも?」
「…このまま、朝まで起きている元気はあるか?」
「……あるって言ったら?」
「…決まってる。付き合うまでだ」
「あはは、心強い」
「専売特許だからな」
「…私の機嫌をとる?」
「……ううん。ティファの全部を守る」
「…大きく出ましたねえ」
「…俺じゃ、不安か?」
「ううん。ちっとも」
おでことおでこをくっつけて笑う。ベッドの中で。
気の済むまで、お互いの顔に触れる。手のひらいっぱいを使って。
このまま切り取って、保存しておきたくなるようなあたたかい時間。今この時間の中にいられるのは、決して偶然なんかじゃない。運がよかったからじゃない。この時間に向かって、この時間を探して歩いてきたから。私だけじゃない。クラウドも、きっと。
繋ぎっぱなしの手に、温もりが集まるのを感じながら、私はクラウドに想いを伝えた。クラウドは微笑んでくれた。届いているよって。ちゃんと、伝わっているよって。
パズルの幸福
fin,