眠るティファを置いて一人、シャワーを浴びたのが間違いだったかもしれない。まさか自分が、いつも俺たちを暖めてくれている毛布にまで嫉妬をすることになるとは、さすがに思いもしなかった。

 

「……」

 

物音を立てないよう静かに戻ってきた、早朝の寝室。扉をゆっくり閉め、ティファの眠るベッドに目を向けたとき、思わず目を見開いた。昨夜まで俺を抱きしめ眠っていたティファが、「代わり」と言わんばかりに毛布を抱きしめ、上機嫌に眠り続けていたから。

 

「……」

 

もしかしたら、寒かったのかもしれない。別に毛布を俺だと勘違いしているわけではないかもしれない。苦笑しながらティファに近づき、そんなことを言い聞かせる。ティファを起こさないよう慎重に腰掛けるベッド。指の背でできるかぎり優しく撫でる、頬。

 

「…ティファ」

「……」

「…それは俺じゃないぞ」

 

遠慮もなく出た「注意」に自ら呆れて笑う。もちろんティファは聞いちゃいない。髪を掬って口付けをしても、頬にキスを落としても、ティファはただ幸せそうに寝息を立て続けるだけ。おそらく「俺」だと思い込んでいる毛布をぎゅっと抱きしめ、むにゃむにゃと口を動かす。

 

「……はあ」

 

本当はこんな乱暴なこと、したくなかったんだが。

 

ティファの勘違いを解くため、ではない。完全に俺自身のためだ。俺自身の我儘を解消するために、俺は毛布を抱きしめるティファの腕を持ち上げ、毛布を奪い取る。

 

ティファは案の定、不機嫌そうに眉をひそめた。いつもならこんな顔させたくなくて、あれやこれやと四苦八苦するわけだが、今日は違う。ティファを不機嫌にさせてまで、修正しなければならないことがある。譲れない、場所がある。

 

「…俺はこっちだ、ティファ」

 

夢の中のティファに言い聞かせるように、耳元で囁いた。ティファの隣に横たわり、細く柔らかい腕を俺自身に巻きつけ直してから、ティファに届くよう低い声でゆっくりと。毛布なんて、知らない。いまは床にでも落ちていたらいい。

 

「んん……」

 

ティファが身じろぎをしたタイミングで、細い腰を抱き寄せる。ここまできたらもう、俺の勝ちだ。俺はティファを離さないし、ティファは俺から離れられない。もう、毛布なんかとは間違えさせない。

 

「……ん」

「……」

「…クラウド……」

「……、」

 

そうやって、己の幼稚さに気づかないふりをする俺の名を、何も知らないティファはぽつりと呟いた。

 

「…うん」

「……」

「……俺だよ、ティファ」

 

それが夢の中だろうと、寝ぼけて出た口癖だろうと、どちらでもよかった。

ティファの隣に俺がいることが、ティファの中に俺があることが、この世で最も尊い事実なのだから。


 

 

 

 

無二の席

 

 

 

 


fin,