「手、繋いでほしい」
久しぶりの熱に浮かされる中で、自分の口からはっきりと出た要望に、びっくりした。仕事を休み、つきっきりで看病してくれているクラウドに向かって、私はそんなわがままを言った。
青くてきれいな瞳が大きく丸くなり、きょとんと私を見下ろす。クラウドが驚くのも当たり前だ。手を繋いで欲しい、なんて。体調がいいときも悪いときも、ほとんど言ったことがないのだから。
「うん」
優しく目を細めて、微笑みながらクラウドが頷いたときにはすでに、彼の手は私の手を包み込んでいたような気がする。
ひんやりと気持ちのいい角ばった指が、私のぼんやりとした熱を持つ指に絡む。きゅっと最後握ってくれる力は、マシュマロのように柔らかい。
「ありがと……」
恥ずかしいな、とか。何言ってるんだろうとか。思わず口に出たわがままを誤魔化すために、必要な枕詞は沢山あった。だけど、それをかき分けてでも、嬉しい気持ちは外に出てしまう。照れる間もなく、もれなく頬はほっとして緩む。
恥ずかしながら、私の心はわかっているのだろう。クラウドがここにいてくれることは、他のどんな薬よりも、私をきっと元気にするっていうことを。
「…他は?」
「ん……?」
「してほしいこと、ないか」
「…うん。だいじょうぶ」
「…そうか。……熱、まだ下がらないな」
「へへ……」
「ふ……笑うところじゃないぞ」
「ごめん……何だか、嬉しくて」
「…嬉しい?」
「うん。……嬉しい」
あなたが、そばにいることが。
「…クラウド」
「……ん?」
「…ごめんね」
「…どうした?」
「……手。繋いでたら、どこにも行けないよね」
「…大丈夫だ。どこにも行くつもりはない」
「…おなか、減ってない?」
「うん。さっき、子どもたちの分を準備する間につまみ食いしたからな」
「もう……座って食べないと」
「…時間が惜しかったんだ。なるべくここにいたかった」
「……楽しいお話も、できませんが」
「それは、今日は俺が担当する」
「ふふ……ほんとに?」
「ああ。ネタは豊富だ。面白く話せるかどうかは……おおめに見て欲しいけど」
「ふふふ」
(……あ)
キスをされると気づいたのは、クラウドのすでに十分面白いお話に目を細め笑っていたとき。自分の顔に落ちる影に、思わずきゅっと瞼を閉じた。はじめは、おでこに。そのあと、頬に。それから……風邪が移るからだめだよと言っているのに、ほんの半秒、唇に。
クラウドのためにも、注意しないといけない口付け。だけど、すっかり幸せな気持ちになってしまっている今の私には、わざとらしく頬を膨らませるくらいしか、できることはない。
いまだずっと、繋がれた手。私の熱すぎる体温が、冷たかったクラウドの手にすっかり移って、混ざりあう。
「……クラウド」
「うん?」
「……」
「…少し、休むか」
「ん……」
「わかった。ここにいるから、安心して寝たらいい」
「…、……どこか、行ってもいいよ?」
「…どこにも行かない。ここにいると決めた」
「……ここにいたら、休めないでしょう」
「…ここにいることが、俺にとって一番、幸せなんだ」
「…クラウド」
「俺はここにいる。だから諦めて、早く休んでくれ」
「ふふ……。うん。……ありがと」
「ああ。…おやすみ、ティファ」
「……おやすみ、クラウド」
もっと一緒にいたいのに、その声を聞いていたいのに、体力のない体はそれを許さない。まるでクラウドの「おやすみ」という魔法にかけられたかのように、私はみるみるうちに眠りのなかへ引っ張られていく。ただ、決して消えることのないあたたかい気持ちだけを抱いて、ゆっくり瞼を閉じる。
「ティファ」
意識を手放す直前、クラウドは確かに私の名前を呼んでくれた。この声のするところに、いつだって私は戻ればいいのだと思った。たとえ、この手が離れても。大海原のような世界に、たった一人、投げ込まれたとしても。
さいはてに星座
fin,