脱衣所にふたり、濡れたままの足を下ろす。
俺たちふたりの体は赤い。理由は単純、のぼせているからだ。シャワーを浴びる推奨時間があるとするのなら、おそらく大幅に超過しているのだろう。ぼうっとする頭と視界。ティファからバスタオルを受け取りながら、俺はぼんやりと綺麗なティファの体を見つめる。さっきまでたくさん触れて、たくさん口付けをした体を。
「ふう、暑いね」
どこかさっぱりとした表情のティファが、俺に向かって微笑みながら言う。俺は、そんなティファの笑顔に見惚れながら、自分の体はさておいて、ティファの体にバスタオルを被せた。タオル越しに触れる肌は柔らかい。ティファの体がまとう水分は、あっという間にタオルが吸い取っていく。
「ふふ、拭いてくれるの?」
「…うん」
「ありがと。じゃあ、私はクラウドを拭こうかな」
どこか嬉しそうに、ティファはもう一枚のバスタオルを俺の頭に被せる。それから、まるで犬の体を拭くようにわしゃわしゃと、髪を拭いてくれる。後はもう、されるがままだ。笑顔のティファに少し首を垂れて、至福の時間を過ごす。
(……)
さっきまで散々互いの肌を重ねていたせいか、今のティファは無防備だ。俺がその体をじいと見つめても、隠そうとはしない。さらに「ちゃんと体を拭く」という大義名分があるおかげで、俺は行為のあとも、こうしてティファに触れることができる。ティファを、見つめていられる。
(…ついでに、ティファに触れてもらえる)
「すごい」
「……ん?」
「みて? クラウドの肌、水を弾いてる」
「そうか?」
「うん。さすがだね」
「…ティファもだ。ほら、」
「っわ、ちょ……さ、触り方」
「どうした?」
「…わざとでしょう」
「…気のせいだ」
(…危ない)
せっかくリラックスモードに入っているティファを、警戒させてはいけない。適当にはぐらかしながら、引き続き綺麗な体をタオルで包む。ティファも、俺がこれ以上変な触り方をしないことを確認してから、体を拭き始めてくれた。
(……)
タオル越しでもわかる。ティファの手は優しい。このままずっと、触れていて欲しくなるような。
「……はい。そろそろいいかな」
「え? ……あ、ああ」
「もう。ぼーっとしてたら本当に風邪引いちゃうよ、クラウド」
「…、うん……」
うん、と頷きながら、俺の頭はぼーっとしている。大切なティファの声さえ、右耳から左耳に抜け出してしまうほどに。それほどまでにティファは綺麗で、どれだけ見つめても目を離せない。
だけどティファは、俺がほとんど機能停止しているのをいいことに、あっという間に着替え始めてしまった。手持ち無沙汰になった俺は、仕方なく自分の下着に手を伸ばす。それでも視線は相変わらず、ティファに向いたままだ。器用に下着を身につけていく、その過程さえ美しいから。
「……」
「……、ふう。今日の夜、暑いかな」
「……」
「Tシャツでいいと思う? ……クラウド、聞いてる?」
「……ん? ああ、いいんじゃないか」
「……。クラウド、さっきから鼻の下伸びてる」
「……。……不可抗力だ、許せ」
「ふふふ」
どうやら、許してくれるらしい。ティファは、いたずらっぽくはにかみながら、バスタオルでわざとらしく自身の体を包み隠す。その仕草が愛おしくて、俺は言われた通り鼻の下を伸ばしつつ、着替えを続けることにした。
脱衣所にまとめて置いてある寝間着から選ぶのは、俺とティファの揃いのTシャツ。そのうちの小さい方を、バスタオルで体を包むティファに手渡した。ティファは服が濡れないよう髪を上に束ねてから、そのシャツを身につける。俺も、その過程さえ見逃さず見つめながら、服を被る。
触れたいときに、ティファに触れられる。見つめたいときに、ティファを見つめていられる。
この夢にまで見た状況で、どうしたら浮かれずにいられるというのだろう。
「……。…ティファ」
「ん?」
「髪。乾かすよ」
「…クラウドが、ドライヤーしてくれるの?」
「ああ」
「やった、ありがとう。…どうしよう、ここで乾かしてもらっちゃおうかな」
「…いや、寝室に行こう。座ってゆっくり乾かせる」
「そうだね、そうしよう」
ティファの合意が取れたところで、俺はティファの小さな手を握る。空いた方の手で掴むのは、洗面台に置いてあるドライヤー。ここからまだ、ティファに触れていられる時間が続くのかと思うと、いよいよ口元の緩みを隠しきれない。ひとまず怪しまれる前に、ティファを寝室に連れて行かないと。はやく、ふたりきりになりたい。もう一度ふたりきりの空間に、ティファと入りたい。
(……まったく)
呆れを通り越し、俺は受け入れざるをえない。
尽きることのない、ティファにだけ抱く劣情を。
「…クラウド」
「……ん?」
「またシャワー、一緒に浴びようね」
「…、ティファ」
爆弾級の誘いを口にしてから、ティファは一歩先に出た。
俺はそんなティファに導かれるまま、寝室へと続く階段に足をかける。強く握りしめた互いの手は熱いままだ。シャワーの温度を、そのまま持ってきたかのように。
(…まいったな)
ついに零してしまう笑み。あがる口角をごまかす術はもう、ない。
目も心も、俺はティファに釘付けだ。ずっと前から。ずっとずっと、前から。
もつれそうになる足を何とかしながら、ひとまず俺は大切な人の背中を追うことにした。
襲いかかる狼だろうと、食べられてしまうウサギだろうと。ティファが望むのなら、俺は何にだってなってやれる気がした。
ふたりの補食
(連鎖するって、言うじゃない?)
fin,