ふたりでソファーに座り、だらだらと過ごしていた、何気ない休息の時間。
ふと目が合い、吸い込まれるように、俺たちは理由も目的もない口付けをした。
「……」
「……。……」
唇を離したあと、再びふと、視線が交わる。
だけど、互いを見つめ合う時間は一秒と続かなかった。
ティファが慌てて、先に目を逸らしたから。
「……、あ」
「…ティファ?」
「ご、ごめん……。何でもない」
「……?」
「……。……」
ちらと、上目遣いでこちらを見上げては、逸らす。ティファは、それを何度も繰り返す。
何か言いたいことでもあるのだろうかと、俺はますますティファを凝視する。ティファにとってそれが、ある意味で逆効果になっていることに気づきもせずに。
「……。…クラウド、逸らさなくなったね」
しばらくその時間が続いたあと、ティファは堪忍したように口を開いた。
「…逸らす?」
「うん。……目」
「……目」
「…ちょっと前まで、気まずくなったらすぐ、目を逸らしてたのに」
「……あ」
何のことを言われているのか把握し、俺はそのときようやく、気まずくなった。
無意識に視線を逸らした俺を、ティファは「それ」だと笑う。
その笑顔に見惚れる形で、俺は再び視線を戻すことができた。
「ふふ」
「……。見ての通り、まだ逸らす癖は残ってる」
「…でも、さっきは逸さなかった」
「さっき?」
「その……。キスしたあと」
「…ああ」
「ああって……人事みたいに言うんだから」
「…ごめん。自覚がなかった。それに、逆にティファが逸らしてしまったからな」
「だ、だって、恥ずかしいから」
「恥ずかしい?」
「うん……」
「…恥ずかしがることじゃない」
「そ、そう言われても照れるよ。クラウドだって昔は、その……私と同じだったじゃない」
「そうだったか?」
「もう、とぼけるんだから」
わざとらしく膨らむ頬。本気で怒っているわけではないことくらい、もうわかる。
ティファは不思議がるけれど、俺にはわかっているんだ。今こうして堂々と、ティファの目を見つめていられる理由が。
「……きっと」
「?」
「…きっともう、気まずくないからだと思う。ティファと、こうすることが」
「……、」
「…あのときの、昔の俺たちはまだ、その……お互いの気持ちを、ちゃんと伝え合えていなかった」
「……たしかに」
「…でも、今は違う。俺もティファもわかってる。俺たちが両おも、」
「わーっ、も、もういい! わかった!」
「……。どうして今照れるんだ」
「だ、だって……」
「…認めたくないか?」
「そうじゃ、ないけど……」
ティファが、どんどん縮こまっていく。申し訳ないことに耳まで真っ赤だ。
これ以上問い詰めるのは酷だと思い、俺はひとり頬を緩める。ティファの言う「昔」の……何もかも手探りだった自分たちを思い出しながら。
「…ティファ」
想いを込めて、名を呼んだ。
ティファはちゃんと、俺を見てくれた。
「…クラウド?」
「……。ごめん。何でもない」
「…まだからかってるの?」
「からかってない。……なあ、ティファ」
「……なに?」
「…もう一度、いいか」
「あ……。……は、はい」
できるだけ柔らかく身をかがめ、待っていてくれるティファに口付ける。今度目が合うとき、ティファはまた逸らすだろうか。あるいは……見つめ返してくれるだろうか。
力なく手を繋ぎ、俺たちはしばらくキスをしていた。今ここに、俺たちの間に割り込むものなど、一寸もなかった。
かつて勇気と呼んだもの
fin,