「クラウドお願い、それ取ってくれる?」

「ねえクラウド、おつかい頼んでもいい?」

「クラウド助けて! この蓋、固まって開かないの」

 

お安いご用だ。ティファからの頼みなら、なんだって。

 

「さすがクラウド、ありがとう」

「クラウドに頼んでよかった!」

「わっ、すごいねクラウド」

 

むしろ褒美だ。ティファの役に立つことなんて。

だけど、だから、なかなか伝えにくい。本当はもっと頼ってほしいこと。もう少し踏み込んだ我儘だって、叶える準備ができていること。

 

 

 

「……」

「……」

「…あれ? クラウド」

「…うん」

「どうしたの? 仕事の準備できた?」

「…まあ、そんなとこだ」

 

仕事の準備が済んで、家を出るまでの時間をもてあましていたとき。

調理場で営業の準備をしているティファの手伝いができないかと、店内をうろうろしていたところ、声をかけてもらう。

 

「そっか。なら、出発までゆっくりしてね」

「ああ。……ティファは?」

「ん?」

「ティファはまだ、準備がかかりそうか?」

「そうだね、今日はちょっと手の込んだもの作るから……。あ、大丈夫だよ! 私のことは気にしないで、休んでね」

「……」

 

ティファは優しい。自分は忙しいのに、俺のことを気遣ってくれる。

でも違うんだ、ティファ。俺はこの暇な時間をただ浪費するのではなく、ティファのために使いたいだけなんだ。

 

「…なあ、ティファ」

「なに?」

「何か手伝えることはないか」

「え? 大丈夫だよ、クラウド。ありがとう」

「……そうか」

「?」

 

……はっ。

ついあからさまに落ち込む仕草をしてしまった。ティファの役には立ちたいが、足手纏いになりたいわけじゃない。ティファは人のことをよく見ているから、俺の一喜一憂も見逃さず拾ってくれる。でもそれは、ティファの仕事を増やすことにつながる。望むところではない。

 

だが時すでに遅し。顔を上げたらティファはすでに、首をかしげてこちらを見ていた。

 

(……あ)

 

「…クラウド?」

「…なんだ?」

「もしかして……」

「……、」

 

そこまで言うとティファは、何か答えに辿り着いたのか、一人嬉しそうに笑顔になる。それから、図星を突きつけられるのではないかと構える俺に向かって、言葉を続けた。

 

「…ね、クラウド」

「ん?」

「お願いがあるんだけど、いいかな」

「! ああ、」

 

(…来た)

 

これを待っていた。このために、意味がないように見える歩き回りを続けていた。

ティファは、俺が光の速さで返事をしたことが面白かったのか、くすくすと笑って見せる。ティファが俺の思惑に気づき、気遣ってくれているような気がしないでもないが、ここは甘えて乗じたい。

 

「あのね、まだお店のテーブル拭けてないんだ。お願いしてもいい?」

「わかった。問題ない」

「ありがと、クラウド」

 

任務が決まった。あとは実行に移すまでだ。

すぐさまティファの元へ駆けつけ、ふきんと水拭き用のスプレーを受け取り、取り掛かる。ティファに見守られての仕事になる。手を抜き怠惰な様子を見せるわけにはいかない。一方で張り切りすぎて笑われるのも不本意だ。俺は細心の注意を払いながらテーブル拭きを開始する。客のためじゃない。全てはティファのために。

 

「……。……、ティファ」

「ん?」

「…終わった。他はあるか?」

「えっもう終わったの? ちゃんと拭けた?」

 

驚きの早さで終わらせてしまったものだから、ティファは作業の手を止めてテーブルチェックにやってきた。ちゃんとできていないという疑惑を抱かせていることに若干ショックを受けるが、俺がティファの立場でもそう疑うだろう。テーブル拭きにおける信頼関係も今後築かなくてはならないと反省する。

 

だが、そうやって油断していたときだった。テーブルに触れて拭き具合を確認したティファが、至近距離で、百点の笑顔を見せてくれたのは。

 

「わっ、すごい。ツルツルになってる! さすがクラウド」

「……、」

 

しまった。達成感に浸りすぎて、油断していた。

目の前にいるティファに、口元は遠慮なく緩む。情けなくも、嬉しいという気持ちが顔から溢れているのを自覚する。少し前の自分の力を借りたい。どんなときもポーカーフェイスを保つことのできていた自分の力を。

 

(…もちろん、戻りたいとは思わないが)

 

「…ティファ」

「ん?」

「他にあるか? 手伝えること」

「あ、そうだったね。えっと……」

「……」

「お皿はもう用意してあるし、料理もそろそろ終わるし、黒板も書き換えたし……」

「……。…無理はしなくていい」

「あ……でも、何かあったほうがいいんだよね?」

「…ん?」

「あれ? ご、ごめん。クラウド、暇なのかと思って」

「……」

 

間違っていない。なんなら正解だ。だが俺は、暇だからティファの手伝いがしたいんじゃない。暇だろうが忙しかろうが、どんなときでも手伝いはしたいんだ。繰り返すが、俺がしたいのは暇つぶしじゃない。ティファの力になることだ。

 

俺以外にとってはどうだっていい、この状況説明。わざわざ説明するのも格好が悪いし、これ以上わがままでティファの大切な時間を奪うわけにもいかず、つい黙り込む。あだが、自分の落とし前は自分でつけなくてはならない。

 

「……。ティファ」

「な、なに?」

「時間を取らせた、もう大丈夫だ。俺のことは気にするな」

「あ……」

「仕事の邪魔をして悪かった」

「…ま、まって、クラウド」

 

落ち込みを隠せないまま、この場を去ろうとする。そんな俺の服の裾をティファが掴む。

情けは無用だ。俺が負けた。よくわからない捨て台詞を心の中で準備する。だが俺を見つめるティファを見ると、そんな台詞を残そうとは、とてもじゃないが思えなかった。代わりに思うのは、ただ……。

 

(…綺麗だ)

 

「…クラウド?」

「……ん? あ、ああ」

「大丈夫? やっぱり疲れてるんじゃない?」

「いや、平気だ。どうした」

「あ……あのね? クラウド、まだ時間ある?」

「ああ」

「もしクラウドさえよければ、なんだけど……」

「…うん」

「…何にもしなくていいから、ここにいてくれない? その、おしゃべりできたら嬉しいなって」

「……」

 

そんなの。……そんなの、いいに決まってる。断る理由なんて、この宇宙どこを探したって見つからない。そんなことでいいのか。そんなことで、いいのか。

言葉に詰まった俺は、ただ何度もティファに向かって頷くことしかできない。それでもティファは、嬉しそうに笑い返してくれた。

 

「ふふ、ありがと」

「……、だが」

「ん?」

「…喋るのは下手だが、付き合ってくれるか?」

「…喜んで」

 

再びキッチンに向かうティファ。誘導されるように、俺はその背中を見つめて歩く。

 

少しの距離でも、と、繋いだ手は柔らかかった。ティファといると何百回と感じる、この絆される感覚は、どうしたって、悪くはなかった。

 

 

 

ライク・パンケーキ

 

 


fin,