好きな人に見つめてもらうのは、くすぐったい。だけどそれよりずっと、嬉しいって感じる気持ちが大きい。
キッチンで洗い物をしているとき、特に会話もしていないのに感じる眼差し。頭をあげなくても、カウンターに座ってお酒を飲んでいるクラウドが、こちらを見つめてくれているのがわかる。視線って不思議だ。目には見えないものなのに、確かに今この空間に存在する。自惚れかもしれないけれど、伝わってくる。どきどきするの。はっきりとした形はわからなくても……クラウドの想いが今、こちらを向いてくれているのがわかるから。
「……」
「……」
私は仕事の後片付け。クラウドはお仕事終わりの休息。同じ空間にいながら、それぞれ違うことをする心地いい時間。
平静を装っていたつもりだけれど、落ち着かないように見えたのだろうか。優しい沈黙を破ったのは、お酒のせいかどこか上機嫌に見えるクラウドだった。
「…ティファ」
反射的に顔をあげる。
「…どうしたの? お酒、足りない?」
あなたの視線に照れていました、なんて、とてもじゃないけど本人には言えない。だから私は、何事もないふりをしてクラウドに尋ねる。想定していなかった問い返しだったのだろう。クラウドは最初きょとんとしてから、微笑んでくれた。
「…いや、大丈夫だ。ありがとう」
「よかった」
「…ティファの方こそ、どうかしたか?」
「え?」
「さっきから、そわそわしているから」
「……」
クラウドの観察能力が異様に高いのか、クラウドに心配されるほど挙動不審だったのか。真相はどちらかわからない。だけどいざ指摘されると恥ずかしくて、つい口籠ってしまう。
さて、何て説明したものだろうか。蛇口をひねって、水を止めて。「適当にはぐらかす」が通用しないクラウドへの伝え方を一生懸命考える。
そっと。ゆっくり顔をあげた先で目があったクラウドは、少し心配そうな眼差しで私を見てくれていた。
「えっと……」
「うん」
「…明日のお昼のメニューで悩んでて」
「……」
「……ほんとに」
「…ティファ。何を隠してる?」
「隠してないったら」
「ティファ」
「……う」
いつも私を信じてくれるのに、クラウドはこういったときの勘だけは鋭く、厳しい気がする。
ごまかしを長引かせれば長引かせるほど、深刻な悩みだと勘違いされそうで、早速頭の中の自分が降参を促してくる。
ちらりと上目で、クラウドの様子を確認する。さっきまでの、どこか見守ってくれるような眼差しとは違うけれど、そこにある優しさは変わらない。
(……)
「……。どうしても言わなくちゃだめ?」
「…言いたくないことか?」
「そうじゃないんだけど……大したことじゃないから、恥ずかしくて」
「…大したことじゃなくてもいい。何でも言って欲しい」
「……」
「ティファの力になりたいんだ」
まっすぐ心に届く優しさに、胸はときめく。
好きな人が、好きでいてくれる。力になりたいと思う人が、力になりたいと思ってくれる。
なんていう贅沢だろう。なんていう、喜びだろう。
「……。あのね、クラウド」
どうしようもなく心をくすぐる幸せから逃げないで、私はクラウドへ身を乗り出す。伸ばした手をクラウドに握ってもらいながら。いまこの時間が、頬をつねって覚める夢ではないことを確かめながら。
ふたりきりのお店の中、私は小さな声でクラウドへ耳打ちをした。
クラウドが笑ってくれることを祈って。笑ってまた、見つめてくれることを願って。
恋にみみうち
fin,