朝起きてすぐ、昨晩なかったはずの温もりを背中に感じた。
(……あれ、)
途端に私は、寝ぼけた頭をそのままに、満面の笑顔になる。
後ろから抱きしめながら、私の手を握ってくれている大きな手。ぴったりと隙間もないくらいに密着してくれている体。その温もりをくれる人が誰かなんて、考えるまでもなくわかったから。
「……クラウド」
頭だけ何とか振り返って、その人の名前を呼ぶ。
視界に入るのは、髪をちゃんと乾かさないうちにベッドに入ったのか、いつもより寝癖がすごいクラウド。彼は名前を呼ぶとすぐに、ぴくりと瞼を震わせた。
「……、……」
「……」
「…………ティファ」
「…クラウド」
「……おはよう」
「うん、おはよ」
寝ぼけているのか、意図的なのか。おはようの挨拶と共に、当たり前のようにくれるかわいい口付け。
いま、無理に起こしてしまったようなものだから、まだ寝足りないのだろう。クラウドはキスのあと大きく息をつきながら、私を抱き枕のようにして抱きしめた。
「、ふふ」
「……」
「クラウド、いつ帰ってきたの?」
「ん……?」
「昨日、帰りは今日になるって言ってたから」
「ああ……。…明け方かな……」
「ほんと? 全然気づなかった」
「…気づかれないように、頑張ったから」
「ふふ……ありがとう。でも、泊まってきてもよかったのに」
「……。帰りたくて……」
ぼそぼそと「帰宅理由」を告げながら、クラウドはさらに強い力で私を抱きしめる。その、あまりにも愛おしい理由に思わず口元は緩む。ますますクラウドの顔をちゃんと見たくなった私は、彼の腕の中でなんとか、体の向きを逆転させた。
「……」
「…ティファ」
向かい合い、見つめ合う。寝ぼけ眼のクラウドが、もう一度キスをくれる。
朝独特の、浅くかわいい口付けに浸りながら、クラウドが今ここにいる喜びで、心の中をいっぱいにする。
(…嬉しいなあ)
「……。クラウド」
「…ん?」
「…おかえりなさい」
「……。ああ、ただいま……」
「ふふ」
「……、やっぱり、帰ってきてよかった」
「ん?」
「…朝一番に、ティファに会えるのは、いいな……」
「…もう。ほとんどいつも、そうでしょ?」
「うん……」
クラウドの目がうっとりと緩む。つられて私も、そのまま溶けちゃうんじゃないかって思うくらいに、顔の力を抜く。
クラウドと二人、この甘い時間に足を踏み入れたらもうおしまいだ。誰かが無理やり止めてくれない限り、私たちはお互いから目を逸せなくなってしまうから。
朝が始まるまでの、たったの数十分。だけど他の何にも代えられない、贅沢な時間。どれだけ見つめても、どれだけ感じても足りないの。クラウドという人を、満足するまで確かめるには。
(…好きだなあ……)
「……。…クラウド」
「…うん?」
「…まだ、眠そうな顔してる」
「……否定はしない」
「ふふ。もうちょっと、寝る?」
「……。ティファは?」
「私は、少ししたら、朝ごはん作りにいこうかな」
「…なら、起きる」
「クラウドの分、置いておくから大丈夫だよ」
「…そうじゃなくて。……いや、それもだけど」
「……」
「…わかるだろ」
「……、」
一緒にいたいんだ。
クラウドの甘い視線から、頬に添えてくれた大きな手のひらから、その気持ちがひしひしと伝わってくる。
そんな想いを飛ばされて、破顔せずにいられるほど、私はまだできた人間ではない。
(…クラウド)
「……。…じゃあ」
「……」
「…あと、15分くらい、ここにいる?」
「……うん」
「…それで、目が冴えてきたら、一緒に起きる?」
「…うん。そうする」
「…眠くなったら、寝てね」
「……そのときは、ティファも一緒だ」
「ええ? 道連れ?」
「…ああ。道連れ」
嬉しそうに、困った冗談を言ってのけるクラウドにおでこをくっつけ、声に出して笑う。どんなわがままを言われても、どんな無茶を言われても、そこにクラウドのくれる想いを感じてしまったら、私はいつも逃れられない。
クラウドの言うとおり、道連れだ。どこまでも一緒に、落ちてしまう自信がある。何たって、ここまで一緒にあがってこれた……私たちだから。
触れ合って、おしゃべりしているうちに、あっという間に通り過ぎる約束の15分。クラウドは時計を見ない。私も合わせてもう少しだけ、時計を無視することにした。やっぱり誰かに注意されないと、この時間から抜け出すのは難しい。何か大きな理由がない限り、私たちはふたりきりを止められない。
だんだんと甘く、ゆるくなっていく自制心を自覚しながら、私はクラウドの胸に頬擦りをした。
ゆらめく私をいつも、クラウドは抱いてくれた。怖くないよって。ふたりなら、いいんだよって。
世界のほとり
(わたしはここで、目を瞑ろう)
fin,