目覚めてすぐ、視界にすぐティファがはいった日は、きっといい日になる。
頬を撫でられる感覚をくすぐったく感じ、ゆっくりと起こした意識。開眼直後に目があった赤い色の宝石は、その目の中でくるりと朝日を反射し、嬉しそうに笑う。「やっと起きた」という一言は、ティファが俺をずっと見つめていたという事実を、一緒に連れてきてくれた。
「……ティファ」
「ふふ、おはようクラウド」
「…おはよう。……何、悪いことをしてたんだ……?」
「え? ふふふ、別になんにもしてないよ」
仰向けに横たわる俺の体の上に寝転ぶ形で、うつ伏せに体重を預けてくれているティファ。その体の柔らかさを感じながら背中を撫でると、うっとりと表情を緩ませてくれる。
だが、ティファはそもそも上機嫌だった。明らかに何もないという感じではない。でも問いただす前、ごまかすように唇を重ねられて俺は何も言えなくなる。
結局、ティファが笑顔なら構わないのだという、どうしようもなさを……朝から感じる。
「……。……ふふ」
「…まだ笑ってる。どうした」
「……言ったら怒る」
「…怒らない」
「……。赤ちゃんみたいでかわいいなって思ってたの。寝顔」
寝顔。防御のしようがない、ティファや家族にしか見られない顔。自分で確認できない唯一の表情。
かわいいと言われても、別に嬉しくはない。だがティファが悪い意味でその言葉を人に使わないのを知っているから、複雑な思いに駆られる。だが、素直にありがとうと言えないのは、言ってもらうのなら別の褒め言葉がよかったと思う自分がいるから。例えば……。
「……かわいい?」
「うん。……怒った?」
「怒らない。ただ……」
「?」
「…もう少し、気を引き締めて寝ないとな」
「どうして?」
「……ティファに褒められたいのは、かわいさじゃないから」
寝ぼけているのをいいことに、普段胸の内に仕舞ってあることを持ち出した。かわいい、じゃないなら、何だと思う? 俺の中に残る本物の……ザックスの真似をしたわけではない本物の、格好つけがしゃしゃり出る。
ティファは、不思議そうに瞬きを繰り返していたけれど、すぐにその意図を察し微笑んでくれた。
「…ふふ、意外だな」
「何が?」
「クラウド、そういうこと気にするんだ」
「…意外でもないさ」
「かっこいいよ、クラウドは。世界で一番かっこいい」
「…本当に?」
「ふふ、うん。本当にそう思ってる。……クラウドが思ってるより、思ってる」
ティファは、なぜか嬉しそうに目をとろんとさせながら、俺の頬を再度撫でた。
最初は、俺をティファが見てくれることが嬉しくて惚けていたが、じっと顔を見られることに慣れていないから、段々恥ずかしさみたいなものが生まれる。だが、ここで照れたら「かっこいい」からまた逆行だ。ティファに笑ってほしくても、笑われたいわけではないから、俺は耐える。逸らしそうになる視線を固定する。目に力を入れる。何がなんても、凛々しくあろうとする。
なあ、ティファ。俺は結局のところ、何も変わっちゃいないんだ。子どもの頃から今の今まで、同じなんだ。
どんな方法を使っても、格好いい男でありたいと願う。ティファだけでいいから。ティファにとって、だけでいいから。
(…側から見たら、格好悪いのかもしれないけど)
「……で、ティファ」
「ん?」
「…今朝はどうして、俺の上にいる?」
「だから言ったでしょう。クラウドの顔が見たかったの」
「…赤ちゃんみたいな、か?」
「ふふ、それはそれ、これはこれ」
「…格好いいと赤ん坊は両立しないと思う」
「普通はね。……クラウドは違うの」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味。……クラウド、大好き」
「え、」
「ふふふ、今の顔はちょっと面白かった」
「……ティファ」
「ごめんごめ……わっ! ちょ、」
「…そんなに揶揄うなら容赦しない」
「待って、私クラウドのこと起こしに来たのに、」
「知らない。ティファが悪い」
「も〜……」
「…かわいいなんて二度と言わせないようにする」
「根に持ってる」
「……」
立場を逆転させ、なんとかベッドに押し倒したのに、ティファはまだ笑っている。
ああ、だめだ。俺は永遠にこの人に敵わない。取り繕うことなんてできないんだ。ティファが見てくれているのは……俺の、表面的な部分だけではないのだから。
くすくすと、笑い声を上げながら、俺からの顔中のキスを受け止めるティファを、心底愛おしいと思った。ティファがここにいてくれることが答えなのだと、俺自身に証明しながら。
Less than romantic
(ちょうどいいのよ)
fin,