顔を火照らせ、二、三度肩で息をしながら、腕の中でティファは言った。

 

「ちょっと、休憩……」

 

返事をする前に、ティファの頭は俺の肩にこてんと預けられる。「何」を休憩したいのか、答えを訊かずともわかっている。ずいぶん長い間続けていた、唇を重ねる行為。仲間の目を盗み、俺たちがさっきまでしていた、ふたりきりのときにしかできないこと。

 

「…うん」

 

ティファは嫌がっているわけではない。ただ少し、疲れただけだ。

そんな、俺にしては前向きな解釈ができたのは、ティファが頭だけでなく身体ごと俺に寄りかかってくれたからだ。しかもティファの細い腕が両方とも、俺の背中に回っている。行為が嫌だったのなら、跳ね除けたり体を突き放したりするはずだ。逆にしがみついてくれるということはティファも同じ気持ちなのだろうと、頭は言い訳を並べる。

 

「ティファ」

 

口付けを中断する代わりに、ティファの名前を呼ぶ。何度も何度も、ティファが照れてしまうかもしれないと思いつつ、繰り返し呼ぶ。耳元で囁くような形になるのは、何もティファを恥ずかしがらせたいわけではない。ティファにだけ、届けばいいからだ。他の誰も、俺たちの声を聞く必要はない。

 

ティファの見た目よりも華奢な背中に、俺も腕を回す。手のひらを重ねた背中からは、ティファの、どくどくという心臓の鼓動を感じる。決して「遅い」とは言えないその速度に、口元は否応にも緩む。同じだ。同じ。ティファも同じだ。俺と同じで、動揺している。動揺? 違う。それよりも、興奮の方が近いかもしれない。荒くなる呼吸音を、隠すことも、隠そうとすることもできなくなっている、今この状態は。

 

「…ティファ」

 

もう一度名前を呼ぶことで、ティファが体を離し、この目を見つめてくれることを、なぜだか俺はわかっていた。

 

視線が、口付けをはじめる数分前と同じように絡まる。さっきと違うのは、ティファの瞳が潤み、ゆらゆらと熱で揺れていること。泣きそうだ、と思った。脳に指令を出す前に、指はその目尻に溜まった涙を拭っていた。それでも腕の力を緩めたり、視線を逸らしたりする気になれないのは、この涙が悲しいものではないことを察してしまったから。

 

(…なあ)

 

こんな不確実な状態で、まったく俺はいつから、自信なんてものを持つようになったのだろう。

いったい何を根拠に……ティファも俺とおなじ気持ちなのだと、信じてしまうようになったのだろう。

 

「……、」

「…ティファ」

「……う、うん」

「俺を見てくれ」

「ま……ちょっと、待って」

「…もう待った」

「もう少し……」

「どうして?」

「……、呼吸が、追いつかなくて」

「……」

「…くらくらするの。クラウドと、こうしてると」

「……。苦しいか」

「…苦しい。でも」

「……」

「…終わりには、してほしくなくて」

「……、…うん」

 

顔をますます赤くして、再び俯いてしまったティファの顎に手をかけ、半ば強引に上を向かせる。それから伺いもせず、口付けを再開させた。苦しいと訴えたばかりのティファの口を、俺は自ら塞いだ。今ここには、正気ならしないような行為を、何の罪悪感もなく実行してしまう自分がいた。

 

(ティファ)

 

心の中で、何度も名を呼ぶ。いまは他のすべてが余計だった。ティファのことだけを考えて、呼吸をしていたかった。

 

ぎゅっと目を瞑り、一生懸命に応えてくれるティファを薄目で見つめながら、俺は自分が今とても、高揚していることを自覚していた。

 

 

 

 

超過

 

 

 

 


fin,