お日様がてっぺんに登る少し前。晴れの日、まだぎりぎり午前中であることを確認してから向かったのは、どこかの誰かさんがまだ眠る私たちの寝室。

わざと勢いよく開けた扉の奥には、予想通り、くちゃくちゃになったシーツを抱きしめて気持ちよさそうに眠る家主の姿があった。

 

「クラウド」

 

大きめの声で呼びかけてから、足取り軽く近づく二人のベッド。彼の体が確かにぴくりと反応したことを、私は見逃さない。

 

「クラウド」

「……」

「クラウド、起きてるでしょ」

「……」

「誤魔化したってバレバレだよ」

「………」

 

じっとしていたクラウドは、観念したように薄く目を開き、ベッドに腰掛ける私を見上げる。

その寝起きの顔がかわいくてつい笑みをこぼすと、クラウドは瞬きをした。

 

「……ティファ」

「うん。おはよう、クラウド」

「……」

「…クラウド、おはようは?」

「………。…おはよう」

「ふふ」

 

目覚めの時間がきたことを認めたがらないクラウドに、無理やり朝を押し付けてから、ご褒美とばかりに頬にキスをした。ちょっと恥ずかしいけど、まんざらでもなさそうな顔をする彼を見て、おはようのご褒美が成功したことを知る。時刻は変わらず正午前。一階のキッチンから香るのは……少し早めのお昼ご飯の匂い。

 

「さ。クラウド起きて。ご飯食べるよ」

「………」

「帰ってきてから、何も食べずに寝ちゃったでしょ? お腹減ってるよね」

「……。うん」

 

随分と眠そうなクラウド。彼が帰宅したのは日付がまわった深夜、私含め、家族全員寝静まったあとのことだった。よほど疲れていたのか、夜食にも手をつけず眠ってしまっていたらしい。お腹空いてる? の問いに、クラウドはわかりやすく反応した。

 

本当は、このままお昼過ぎまで寝かせてあげたい。だけど私にはどうしても、今のうちにクラウドを起こしたい理由があった。

 

「ね、だから起きようクラウド。子どもたち、下で準備してくれてるから」

「……。……ティファ」

「なあに?」

「……もう一回」

「? ……もう」

 

呆れたふりをしながらする口づけは、クラウドからのおねだり。指でとんとんと自分の唇を触って、彼は私に催促する。

朝だから、お互い少し重ねるだけのキスをする。それでも多幸感を味わうには十分な時間。

 

(……って、そうじゃなくて)

 

本当は私、クラウドとスキンシップをしにきたわけではない。起こしに来たんだ。家族四人が揃った今、みんなでご飯を食べるために。

 

「……、ほらクラウド、起きよう」

「……どうしても?」

「どうしても。ご飯、二人も待ってるよ」

「…先に食べていてくれていい」

「だめ。みんなで食べるの。家族が揃ってるときは、なるべくそうしたいの」

「……」

 

私の主張を聞いたクラウドは長いまつ毛を揺らし、何度か瞬きしたあと、懐かしそうな表情で呟いた。

 

「…スラムの心得?」

 

久しぶりに聞いた、クラウドの好きな冗談。私も釣られて懐かしい気持ちになる。

 

クラウドはなぜか「スラムの心得」には素直に従う節がある。ルールがあるのが好きなのかもしれない。それなら。

 

「ふふ。強いて言うなら……」

「……?」

「…ストライフ家の心得、かな」

 

冗談に冗談で返す。クラウドは何て返すだろう。そんな心得作った覚えはない、っていうかな? そんなルールは認めないって、家主の特権で排除するだろうか。

だけど彼が見せて表情は思っていたものと違い、きらきらと目を輝かせ感動しているようなものだった。

 

(……?)

 

「……」

「…クラウド?」

「……。それ、いいな」

「え?」

「もう一回言って、ティファ」

「…家族が揃ってるときは……?」

「そうじゃなくて……。…それは、何の心得?」

「……ストライフ家の心得」

「…うん。……いいな」

「……?」

 

一体何が「いい」んだろう。にやにやとした口元を手で隠しながら、クラウドは頬を緩める。そして私が首を傾げていることに気づいてから、軽々と体を起こした。……さっきまであんなに起きるのを嫌がっていたのに、心得の効果はすさまじい。

クラウドは座る私を抱き寄せてから、機嫌よさそうに話を続けた。

 

「……ストライフ家か」

「? うん。……あ、」

「?」

「…もしかして、ロックハート家の方がよかった?」

「ふ……それもいい」

「……」

「…そうだよな。家族だもんな」

「……?」

「…俺たちみんなで、家族」

 

(……あ)

 

何度も嬉しそうに言葉を繰り返すクラウドを見つめながら、彼は私が「ストライフ家」で自分達をひとまとめにしたことを喜んでいるのかもしれないと思った。私たちは所謂、戸籍上では家族ではない。それもあって、自分達で自分達のことをそう思っていても、実感するタイミングは少ないかもしれない。

 

「……そうだね、クラウド」

「……」

「私たち、みんなで家族」

「…うん」

 

私を腕の中に閉じ込めたまま、クラウドはこくこく頷く。表情は見えないけれど喜んでいるのが伝わってきて、私も一緒に笑顔になる。

でも、それはそれ、これはこれ。ストライフ家を引っ張ってくれるクラウドさんには、守ってもらわなくちゃいけないことがある。

 

「…ということで、クラウドさん」

「……ん?」

「心得……守ってくれる?」

「……。喜んで」

 

どうやら逆らうつもりはないらしい。さっきまで目を開けることすら嫌がっていたのに、クラウドはあっという間に立ちあがり、伸びをしてみせる。そんな様子を笑う私の手をとって、クラウドは下に行くため歩き出す。

 

「…なあ、ティファ」

「ん?」

「もっと増やしてくれ。心得」

「ええ? ルールばっかりで、嫌にならない?」

「ティファの作るルールならいい」

「ふふ……私、結構厳しいよ」

「望むところだ」

 

いつも家族を想ってくれる、広くて逞しい背中を見つめながら、私はひとり、心得に書き記した。

一日一度、想いを伝えようと。言葉でもいいから。言葉でなくたって、いいから。

 

 

 

 

ストライフ家の心得

 

 

 


fin,