「更新……」
ぽつりと、ティファの声が聞こえた。小さかったけれどはっきりと。
何のことだろう。ティファの胸元に顔を埋め、さっきまで二人でしていた行為に浸っていた俺は、その声を合図に顔をあげる。俺と目が合ったティファは、何故か笑顔。今の発言が無意識だったであろうことを悟れたのは、ティファが瞬く間に真顔に戻り、赤面したからだった。
「あ……」
「…ティファ?」
「な、なに?」
「…更新って?」
「……。……聞こえた?」
「…ばっちりな」
さらに、どうやら「失言」の類だったらしい。ティファはぱっと両手で顔を覆い、赤くなった顔を隠す。
その愛おしい仕草に頬を緩めつつ、顔を見るために手をはがすと、ティファはまだ恥ずかしそうに視線を泳がせていた。
「……。クラウド、耳、いいね」
「…ティファの言葉は聞き逃せないようになってるんだ」
「ふふ、何それ」
「…で? どうした」
「……言わなきゃだめ?」
「…どうしても嫌じゃない限り、教えてほしい」
「……」
しばらく俺の目をじっと見つめていたティファ。それから観念したのか、ふうと一息ついてから俺の手に触れる。ティファが、その手を誘導するように持っていった先は、あろうことかティファのふくよかな胸だった。
「、ティファ」
さっきまで、散々触ったり遊んだりしていたくせに、情けなくも動揺する自分。
ティファはこちらの様子に気づかないまま、俺の指を、胸の谷間のある一点に触れさせる。そこには、柔らかくて弾力のある感触……もとい、身に覚えのある、とある鬱血痕があった。
「…これ」
「……。キスマーク」
「…うん」
「……更新って、これのことか?」
「ん……」
改めて、自分がつけたその痕に目を向ける。いつ付けたのか、どうしてこの場所なのか。無意識に生んでしまったそれは、ティファの綺麗な肌の上に目立っている。
これに限らず、痕を残すほとんどのときが、ティファのことで頭がいっぱいになっている行為中だ。ティファを独占できる喜びとか、好きに触れることへの興奮だとか、ときに、ティファの身体を刺激するためのものだとか。つけるタイミングは色々あるが、大抵夢中になっているときに肌を吸ってしまうから、意図的でないもののほうが多い。
(……)
ティファが誘導してくれたように、その痕を指でなぞりながら、もう少し目をこらす。よく見ると、キスマークは二重になっていた。うっすらと在る、ほとんど消えかかった痕。そしてその上に重なる新しい痕。まだ変色もせず赤いままのそれは、器用に過去のキスマークの上に咲いている。まるで、そう。上書きをするかのように。
(…上書き)
「……それ」
「?」
じっとキスマークを見つめていたとき、ティファが痺れをきらしたように口を開く。顔を覗き込むと、相変わらず頬は桃色のままだった。
「……しばらく、ずっと消えなくて」
「…前につけた方?」
「うん……。多分、一週間は前だと思うんだけど」
「…強く吸いすぎたかな」
「ふふ、それはいいの。毎日、ちょっと楽しみだったんだ。まだ残ってるって、お風呂入るときに確認するのが」
「……」
(…ティファ)
毎晩俺の知らないところで、俺がつけた痕を確認するティファ。そんな姿、少し想像しただけで口元が際限なく緩む。
今すぐ聞きたい。このキスマークを見て、どんなことを考えたのか。どんな瞬間を思い出していたのか。どうして痕の確認が楽しみだったのか。俺をどんなふうに、想ってくれていたのか。
「…でもね」
「……?」
だけどティファは、一人で興奮している俺をよそに話を続ける。だから俺は、次なる爆弾発言があることを警戒できないまま、それを受け止めることになった。
「昨日見たら……もう、流石に消えかかってて」
「…ああ」
「……ちょっと、残念だなって思ってたんだ」
「……、」
「だから、その……嬉しくて」
「……。…更新、されたのが?」
「うん……」
「…ティファ」
「? わっ、ん……」
もじもじとするティファに、おかまいなしに口付けをする。ティファはわかっているのだろうか。こんな話を打ち明けられて、俺が喜ばないわけがないことを。この報告が俺にとって、痕をつけ続けてもいいという許可になっていることを。
どんな形であれ、ティファに寂しい思いをさせるのは嫌だ。でも……それとこれとは、話が別になってしまう。
「…ティファ……」
「……うん、」
「……。そんなの」
「ん……?」
「…そんなの、いくらでもつけるのに」
「い、いいよ……」
「沢山つけたら寂しくない」
「もう、クラウド」
「俺は真剣に言ってる」
「……。…いっぱいは、いらないの」
「…どうして?」
「……秘密」
「…ティファ」
「……。痕がいっぱいあっても、クラウドがいないと、意味がないでしょ?」
「……ティファ」
ティファはどこまで、俺を釘付けにするのだろう。俺はどこまで、ティファへの想いを膨らますのだろう。
再開する口付け。そしてティファがキスに浸ってくれている間に、ひっそり始める愛撫。
こんな話を聞いて、いろいろと我慢をする方が無理な話だった。きっと、それはティファも同じ。あちこちを撫で始める俺の手を、決して制止しようとはしなかったから。
調子にのった俺が、ティファの首筋にまでキスマークを残し、怒られるまであと少し。
ティファに触れ、ティファに触れてもらいながら、俺は身体が興奮でぞくぞくとするのを感じた。
ティファにはまだ、知らない味があった。苦くとも甘くとも、俺はそれを「おいしい」以外の感情で、受け止めることはできなかった。
バターは金色
(めろめろって、そういうことでしょ?)
fin,