「…手、ごつごつ」
眠る前、横たわり、俺の指で遊んでいたティファがふと声を漏らす。俺の手がどうかしたのかと、問いかけの代わりに顔を覗き込めば、ティファは何故か嬉しそうにした。
「…ん?」
「クラウドの手。見た目より、ごつごつしてるなあって、改めて思って」
「そうか?」
「うん。筋肉質っていうのかな」
「…指の訓練まではしていないけどな」
「ふふ……努力家さんの手だね」
決して「綺麗」ではないこの手を、優しく撫でてくれるティファ。こんな手よりも、ティファの方がずっと綺麗だと思い撫で返せば、くすぐったそうに笑う。
「ティファの指は……」
「ん?」
「…初めて触れたとき、想像より、ずっと細いと思った」
「そう?」
「ああ。……こんな細い手で戦っているのかと思うと、いまだに不思議な気持ちになる」
「ふふふ、普通の女の子よりはごつごつしてると思うよ。みんな、きっともっと、柔らかいし」
「…それでも俺は、ティファの手が好きだ」
「もう。またすぐ、甘やかすんだから」
「嫌か?」
「……。ううん。嬉しい」
はにかむティファを確認してから、俺はその手を口元に運び、口付けをする。
「でも……」
「……?」
だが、そのまま頬擦りを始めた俺に話しかけてくれたティファの声は、もう嬉しそうなものではなかった。
「…そんなに、綺麗な手じゃないよ」
「……どうして?」
「…たくさん、人を傷つけてきたから」
(…ティファ)
言わんとしていることを察しつつ、目を伏せてしまったティファを見つめる。
俺は何を言われても、たとえその手が本当に血に塗れていたとしても、ティファの手を汚れていると思うことはない。だが、ティファが「綺麗」という表現を嫌がる気持ちだけはわかった。俺の手にも……手を汚したときの感覚が、染み付いているから。
(……)
「…ティファ」
できるだけ優しくその名を呼び、顔をあげてもらう。小さく細い手を、変わらず握りしめながら。
「…誰かを、傷つけたことのない人間なんていない」
「……」
「それに……それを言うなら、俺の手も同じだ」
「…クラウド」
「……どれだけ洗い流しても、綺麗になることはない」
「……。うん」
「…それでもティファは、触れてくれる。触れることを許してくれる。……違うか?」
「…ううん。違わない」
「……それと、同じことなんだ。俺にとって、ティファの手も」
恐れずじっと見つめてくれるティファの頬に、この手を添える。何も言わずとも、ティファは俺の手の上に、自分のそれを重ねてくれる。
「……クラウド」
言いたかったことが、伝わったのだろうか。一瞬、ティファが泣きそうになったのがわかった。何かを隠すため、俺の胸に顔を埋める前に。
見えなかったものには触れず、俺はそのままティファの体を抱きしめる。指同様、想像よりもずっと細かった小さな身体を、胸の中に閉じ込める。
「…ごめんね、クラウド」
「…ティファが謝らなければならないことなんてない」
「…うん。……ありがと」
「……いいんだ」
(……)
片腕でティファを抱きながら、空いた方の手を見つめる。暗闇のなかにあるその手は、一見白く見えた。だが、この手を赤色が滴る光景を、俺はいつだって思い出すことができる。
「……」
俺は今、本当に馬鹿なことを考えている。
自分の手「も」、綺麗でなくて、よかったと。
おかげで、ティファの気持ちがわかる。ティファに寄り添うことができる。震えるティファの手を、握り返してやれる。
たとえ正しくなくとも……この手なら、ティファを守ることができる。
(……愚かだな)
「…クラウド」
「……ん?」
「…クラウドは、優しいね」
「……」
安心してくれたのか、ティファは瞼を閉じたままうっとりと、腕の中で呟く。
俺はティファの頭をゆっくり撫でた。この手で。ティファのためにあると言っても過言ではない、この手で。
このまま眠って起きるまで、離れたりしないよう、ティファを抱く腕に力をこめる。
優しくなんかないと、心でティファに返事をした。否定を声に出すことは、俺にはまだできなかった。
きれいな手
fin,