この感情はなんだろう。ティファを心配に思う気持ちに混ざる、形容し難い高揚感。

 

真夜中、ベッドの上で半身を起こし、ティファの体を抱きしめる。それは眠るためのものではなく、心を落ち着かせるためのもの。

 

ティファは俺の腕の中で、一生懸命に深呼吸を繰り返す。俺は体を離さないよう腕の中に仕舞い込みながら、背中を優しく、あやすようにたたく。ティファの心をなだめるために。深呼吸さえ、する必要がなくなるように。

 

「……。……クラウド、ごめんね」

 

腕の中で、小さく声がする。その顔を覗き込めば、ティファは申し訳なさそうな悲しい顔をして、俺をみていた。

 

ティファの「ごめん」の理由は、聞かずともわかる。真夜中に俺を起こしたこと。いまだ眠れないこと。ついさっきまでティファを苦しめていた「悪夢」を、自分だけで処理できないこと。だいたい、このあたりだ。他人に優しく、自分には厳しいティファらしい謝罪に、心は切なく動く。

 

そして……ティファが俺を頼ってくれているという事実は、俺に、別の感情をもたらす。

 

「…いいんだ。何も気にするな」

「……でも、早く寝たいよね」

「…いや。むしろ、ずっとこうしていたい」

「…クラウド」

「……ティファの力になれて嬉しいんだ。だから、気にするな」

「……、…ありがとう」

 

ティファは、ほっとしたように大きく息をはき、体の力を抜く。ようやく安心して、身を委ねてくれるようになったティファを、俺は抱きしめなおす。悪夢がなるべく早く、ティファの中から出ていくように。少なくとも、今夜はもう二度と、悪夢なんかに立ち入らせないように。

 

「……クラウド」

 

ティファが頬を、俺の胸に擦り寄せる。愛おしい仕草に、心がまたゆれ動く。

 

今俺の中にあるのは、夢という名で現れる罪悪感に苦しむ、ティファを心配する気持ち。そこから立ち直ろうと頑張る、ティファを支えたい思い。

 

そして……心のうちで確かに育つ、自分だけがティファの力になれるのだという、決して綺麗なものではない、興奮。

 

(……)

 

この高揚感は、なんだろう。ずっと昔から俺の中にあって、ティファにだけ抱く、無限に湧き出る感情は。

 

「……、……クラウド」

「…ん?」

「…ごめん、苦しい、かも」

「あ……、……すまない」

「ううん……」

 

考え事をしている間に、どうやら加減を失っていたらしい。少し腕の力を緩め、改めてティファの体を包む。

苦しいと言ったティファだが、幸い一過性のものだったようで、表情はすでに安堵のものに変わっていた。見つめれば見つめるほど俺の心を高鳴らせる、柔らかい表情に。

 

俺に、自分はティファの特別なのだと自惚れさせる……心を許した表情に。

 

(……)

 

「……ティファ」

 

ティファの名を呼ぶ。ティファはゆっくりと俺に目を向ける。

赤く美しい瞳が、俺だけを捉える。俺だけが、ティファの視界のなかにいる。

 

(……、)

 

心は、激しく揺れる。ティファの悲しみを憂う気持ちを押し除けるように、どろっとした何かが育つ。

俺はそれを認識しながら、ティファに見せないよう微笑む。ティファには見せられないと、柔らかい口付けをおくる。

 

この感情の正体を、本当は俺は、わかっているんだ。

名前をつけたら最後だと、ずっと無視し続けているだけで。

 

「……」

「……。…クラウド」

「……うん」

「…ありがとう。そばにいてくれて」

「…俺の台詞だ」

「……。…もう少し、こうしていていい?」

「…ああ。いつまででもいい。そばにいる」

 

俺の言葉を受けて、ようやく笑顔を見せてくれたティファに安心しながら、俺も大きく息をつく。どろっとした感情は、無視し続ければやがておさまる。愛とか、慈しみとか、ティファに抱くそういった感情の裏に隠れる。いつでもここにいるぞと……瞼を、開き続けながら。

 

 

 

やがて聞こえる、ティファの静かな寝息。俺はそれに、自分の呼吸を合わせた。

俺は、ティファの特別になりたかった。例えるのなら、血のように。ティファを生かす、心臓のように。

 

 

 

わたしは糧

 

(あなたの、無二となる)

 


fin,