これが都合のいい夢かもしれないと思ったのは、ティファにキスをしたときではなく、キスのあと顔を赤らめるティファに気づいたときだ。
いつもはじっと俺の目を見つめ返してくれるティファと、視線が絡まない。赤面したティファが、恥ずかしいのか俯いたままでいるからだ。どくん、どくんと体が脈を打つ。ここからどうしたらいいのかわからないパニックと、今起きている信じ難い状況に、頭が追いついていない。無意識に呼吸が浅くなる。ティファの肩を掴んだままの指に力がこもる。キスをするのに一生懸命で、キスをしたあとのことを何も考えていなかった、己の未熟さでじわじわと焦りが募る。
「……」
「!」
動け、と。脳に指令されたのは、俯いたままのティファが俺に身を預けたときだった。半分、何かの力に突き動かされるように、俺はティファの華奢な体を抱きしめる。やり方なんてわかるわけがない。力加減も学べていない。それでも「こう」しなければならないことだけはわかった。それは本能であり、知識であり、ティファを第一に想う俺自身の自我によるものだった。
「……。……ティファ」
なんて情けないのだろう。喉からようやく出た声は掠れ、小さく、弱々しい。ティファをこの腕に抱き、ティファの優しい香りに包まれ、ティファの柔らかさを感じる。体も心も手一杯になり、格好をつけようなんていう余裕はもはや一ミリもなかった。ティファが俺の顔を見ていないのが幸いだ。今自分は、ひどい顔をしているに違いない。喜びと、焦りと、興奮と、動揺と。顔の形を保てているかも、わからない。
「……クラウド」
そんなとき、ティファの小さく消え入りそうな声が聞こえた。耳をすませるように少し身を屈める。ティファはおそらく、俺の醜い状況には気づかないまま、言葉を続けた。
「……もう少し」
「……、」
「…もう少し、こうしていてくれる?」
(…ティファ)
断る理由があるものか。この世のどこにも、そんなもの。
「……ああ」
「……」
「…いいよ」
いよいよ、思っていることと口から出ることに齟齬が出た。いいよ、じゃない。むしろ、こちらから願うようなことだ。もう少し、でなくていい。ずっとでいい。ティファに頼られ、たった一人俺だけが今、ティファを抱きしめることができる。どんな等価交換でも割に合わないような状況。いま永遠を願わずに、いつ願えばいいのだろうか。
これが現実であることを……俺に、受け入れる資格があるのだろうか。
「……ティファ」
暫くして。ティファの顎に指をかけ顔を上げさせたあと、再び口付けを誘う俺を、俺は幽体離脱をしたかのように外からただ見つめていた。
知ってしまった以上、もう元には戻れないと思った。
引いた手綱の先には、なりふり構わずティファを求めようとする獣がいた。もはや誰の指図も受けない、ティファを想う俺の、核の化身が。
食指は動く
fin,