眠る直前、服を着るかという提案を、断ってしまうことがある。うっかりではなくて、意図的に。

 

体が冷えてしまわないかを心配してくれる、優しいクラウド。そんな提案に対し、私が首を横に振ってしまうのは大抵、彼自身も服を着ていないときであることが多い。私も裸で、クラウドも裸。あまりにも心地いい、生身の肌と肌が合わさる感覚から、抜け出せずにいるときである。

 

そんな私をクラウドは、特段咎めることも、気にすることもなく抱き寄せる。わかっているのかいないのか、クラウドは裸の背中に手のひらを滑らせ、体全身を使って抱きしめてくれる。そのおかげで私は、思う存分クラウドに浸ることができる。胸に頬擦りすることも、広くて筋肉質な背中を撫でることも、首筋にキスをすることだって。

 

だから今夜も、私は断ってしまう。

 

行為が終わっても尚クラウドと肌を重ねていたいと、冷え込みの厳しい真夜中であるにも関わらず、わがままを繰り出した。

 

「…ティファ」

「……ん?」

「そろそろ寝るか」

「うん……そうだね」

「服は?」

「……。いい」

「…ん。わかった」

 

私の願いを聞き入れたあと、クラウドはおでこにかわいく口付けをくれた。「了解」の合図のようなキスのあと、体はぎゅうと抱き寄せられる。クラウドもきっと寒いだろうに、それを口に出したりはせず、彼も上を着ないまま私と肌を重ねてくれる。

 

とくとくとく。あたたかい心臓の鼓動。じんわりと、体を繋げていたときとは違う温度で混ざる、二人の体温。

私の心は、幸せでいっぱいになる。今だけは、手放しで喜んだってバチが当たらないような気がしてしまう、特別な時間の中で。

 

「……。…すき」

「…ん?」

「……ん?」

「…いま、何て?」

「ううん。…ただの独り言」

「…もう一度聞かせてほしい」

「……だめ」

「どうして?」

「…一晩に、一度しか言えないの」

「…そうか。……なら、明日だな」

「ふふ……言えるかなあ」

「言えるさ。言ってもらえるように頑張る」

「……。何を?」

「愛情表現」

「あはは」

 

もっと聞き出そうとしてくれたっていいのに、それをしないのがクラウド。素直にもう一度言えば終わりなのに、それができないのが私。はたから見ると、悪い意味で甘すぎるかもしれないお互いへの想いは、今夜も体温に紛れてあやふやになる。ふわふわ、曖昧になって溶けていく。

 

「…なあ、ティファ」

「……?」

「…足りないことはないか?」

「え?」

「もっと……欲しいものとか」

「ん……ないよ。今が十分」

「……」

「ふふ、不服そう」

「…聞き方を変える」

「…どうぞ」

「…俺のわがままを聞いて欲しい」

「? いいよ」

「……ティファの、我儘が欲しい」

「もう……」

「頼む。…今夜は一つでいいから」

「……。…それなら」

「うん」

「…眠くなるまで、頭を撫でてほしい」

「…それだけでいいのか?」

「うん。今夜は、ひとまず」

「ふ……。…わかった」

 

クラウドからの柔らかいキスが、ふたたびおでこに落ちてくる。それから大きな手で、お願い通り私の頭を撫で始めてくれた。心臓は喜びで、どきどきと鼓動を強くする。本当に眠る気があるのかと、素直になれない自分がつい、文句を漏らしてしまうほどに。

 

「……クラウド」

「…何? ティファ」

「…ううん。クラウドは、あったかいね」

「……ティファが、あったかいからな」

「…相乗効果?」

「…そんなところだ」

 

ゆっくりと、ゆっくりと。髪に指を通し、優しくそのまま撫でながら、クラウドは呟いた。両手を添えている彼の胸は、私と同じように、とくとくとその音を鳴らし続けていた。

 

 

 

今夜はひとまず

 

 


fin,