あっち、こっちと駆け回る。クライヴは今日も、誰かのお使いに奔走する。
優しい彼は何も変わっていない。遠くから見守りながらそんな風なことを呟くと、音を拾ったシドが盛大に吹き出した。そのあと大笑いするものだから、私はつい、むっとする。
「何がおかしいの」
「だーっはっはっは、変わってねえか、そうかそうか」
「変なこと言った?」
「いーや、お前さんがそう言うならそうなんだろうよ」
なんだかまるで、私の方が彼を理解していないかのような言い回しに、嫉妬を覚える。
そうよ、仕方ないわ。13年も離れていたのだから。直近のクライヴのことは、あなたのほうが知っているでしょう。そうだとしても、そんな笑い方はないんじゃない? 一緒にいた時間は、それでも私の方が長いのだから。
決して口には出せない子どもじみたやきもち。言葉にできない代わりに、じとっとシドを睨みつける。シドはそれをむしろ楽しむかのように、何度も平謝りしてみせた。
「いやー……変わってない、ねえ。あいつは幸せ者だな、そう言ってくれるお前がいてよ」
「……」
「お前が目を覚ますまでのあいつを見せてやりたいよ。牙剥き出しの大型狼を」
「それは、怒っているときのトルガルでしょう」
「トルガルなんて可愛いもんさ。あいつは人の話を聞けるだろ?」
「クライヴのこと馬鹿にしてる?」
「悪い悪い、怒るなジル。ちっと前の話さ」
ふう、とタバコに火をつけ一息。鋭い視線を止めずにいると、またごまかすように笑われる。
それを見ているうちに、自分のなかに僅かな不安が目覚める。
もしかして私、クライヴのことをよくわかっていなかった? 私を見て、名前を呼んで、抱きしめてくれた彼は、何かが変わってしまった彼だったの? あのときに感じた底知れない安心感は、偽物?
意図せず生まれた疑心暗鬼のせいで、どうやら怖い顔をしてしまっていたみたい。シドはようやく笑うのをやめて、タバコを置いた。
「…ジル」
「……何?」
私を呼んだシドは、私ではなく、遠いところを見つめていた。
「これはただのお節介だから、適当に聞いてくれりゃいいが……あいつにとって、お前は星だ」
「…星?」
「そう。人は誰だって、空にひとつ、消えねえ星さえありゃ道を見失わねえもんだ」
「……」
「お前が目を覚ましたときから、あいつの目に光が宿った。……まあつまり、幸か不幸か、お前はクライヴにとってのそれになっちまったわけさ」
「……」
星。どんなときだってこの空に輝く、人間にとってはある種、半永久的な存在。たとえその存在が失せたとしても、その人が生きている間はきっと、光り輝き続けてくれるもの。
脳裏に浮かぶのはメティア。あまたある星の中でひとつ、クライヴとの共通言語になりうる星。彼の無事を何度も何度もお願いし続けてきた、私にとっての希望。
希望があるから、人は前を向ける。光があるから、諦めずにいられる。
あなたがいるから……私は立ち上がれる。
「…幸でも不幸でもないわ」
「?」
もしも私が、クライヴが人として生きられるよう導く星であるのなら。
「私はきっと、そのために……もう一度、生きることを許されたのだから」
Gift
fin,