「どうしてこんな無茶するの」

 

一体何度言ってきただろう、この文句。いつも自分の家から持ってくるこの救急箱も、いっそのことクラウドのこの部屋に置いて行ってしまおうか。そう思うくらいにクラウドはよく喧嘩をするし、よく怪我をする。病院に行って欲しいのに、なかなか行こうとしないから、私の応急処置スキルばかりあがっていく。

 

「エアリスでさえも、あの人には近づかない方がいいって言ってたよ」

 

そう。むすっとそっぽを向きながらも、怪我をした左腕は差し出してくれているクラウドは、今夜も喧嘩から戻りたて。最近うわさの、喧嘩っ早い他校の子と鉢合わせたらしく、見ていて痛々しいほどの傷を負って戻ってきた。それなのに「明日は迎え打つ」なんて言い出すものだから、私も思わず彼にとってのライバルの一人であるエアリスの名前を出してまで止めようとしてしまう。

 

喧嘩はやめて欲しい。無茶はしないでほしい。そう思う理由はひとつ。

どこか楽しそうにも見える、ザックスやエアリスと違って……クラウドが喧嘩を楽しんでいるようには、見えないから。

 

「…エアリスがそう言うのなら、尚更だ」

 

しばらく黙っていたクラウドが、そっぽを向きながらぽつりと呟く。ちょうど包帯を巻き終えたときだった。

 

「俺はあいつを倒さなくちゃいけない」

「もう、クラウド」

「…ティファ。止めないでくれ。これは俺自身の戦いでもあるんだ」

「……」

 

本人が真剣に言うものだから、呆れたため息さえつきにくい。クラウドが大切にしている何かを、傷つけたり、笑ったりしたいわけじゃない。

ただ心配なだけ。痛かったり、悲しかったりする思いを、クラウドにして欲しくないだけ。

 

だけどどうしてクラウドは、ここまで喧嘩にこだわるのだろう。どうして強くなることが、彼にとって大切なんだろう。

包帯の端をきゅっと結んで、ほどけないようにしたあとに、心の中にある疑問が口に出た。

 

「…ねえ、クラウド」

「……?」

「どうして……どうして戦うの? クラウドは何のために、強くなろうとしているの?」

「……」

 

ずっとあさっての方向を向いていたクラウドが、私を見たのは、その質問をしたあとだった。

 

「…ティファ」

 

私を呼び、目を合わせるなりクラウドは、怪我をしていないほうの右手で、そっと私の手に触れた。一回り大きいクラウドの手のひらが、手の甲に重なる。

 

(わ……)

 

子どものときからずっと見てきた、綺麗な青色の瞳が私を映し出す。優しいけど強い力が、私の手を掴むクラウドの指にこもる。

急に見つめられて、急に触れられて。心はどきどきするけれど、真剣な様子に、私は目を逸らすこともできない。

 

「…どうしてって? ……認められたいからだ」

「……誰に?」

「……わからないのか」

「……、」

「…ティファに、だよ」

「え……?」

 

名前を呼ばれたとき、まるで、時が止まったかのような錯覚に陥った。思ってもいない答え。心臓がばくばくとしているのがわかる。クラウドは私を見ている。私を見つめている。他の誰でもない、私を。

 

(あ……)

 

勝手に一時停止する呼吸。自然とゆっくり落ちていくまぶた。クラウドも目を細める。少し緊張した顔つきで、そっと身を屈めるように私に近づく。うるさい心臓の鼓動以外、何も聞こえない。何も考えられない。なにも……考えたくない。

 

「クラウド……」

 

何かを確認するように、私もクラウドの名前を呟く。それに応えるように、クラウドの左手が私の頬に触れる。

最後にもう一度、クラウドと視線が絡まる。いよいよ瞼は、閉じる。

 

そんなときだった。一瞬で私たちを、引き戻す声が聞こえたのは。

 

「クラウド〜!」

「!」

 

慌てて離れる二人の顔と体。クラウドを呼んだのは、他の誰でもないクラウディアさん。照れ隠しをするように見た壁時計は、いつのまにか夜の8時を示している。それだけで、クラウドが呼ばれた理由はわかる。きっと、パパだ。もう帰らなきゃいけない時間だ。

 

「……。先は長い」

 

さっきの真剣な顔つきとはうって変わって、恥ずかしそうに目を彷徨わせ、クラウドがぽつりと呟いた。

どういう意味かと見つめているうちに、クラウドは慌てて立ち上がり、まだ地べたに座り込む私に手を差しのべる。きっとこれは「もうお開きにしよう」の合図。どこか、夢心地だったさっきの世界の、中断。

 

「あ、ありがとう、クラウド」

「……。…ごめんティファ」

「?」

「…遅い時間になっていることに、気づかなかった」

「あ……、う、ううん! わ、私は大丈夫。むしろごめんね、こんな時間まで」

「いや、俺はいいんだ。手当も助かった。……送る」

「だ、大丈夫だよ、お隣だし」

「だめだ。ちゃんと送らせてくれ」

「……、うん」

 

少し乱暴に、クラウドは置きっぱなしにしていた私のカバンと、救急箱と……私の手を取り、部屋を出るため歩き出す。怪我をしたクラウドをお見舞いに来たときより、彼の背中が広く見える気がするのはどうしてだろう。心のどきどきが止まらないのは、どうして。

 

 

 

 

 

クラウドのお家を出て、家の玄関に送り届けてもらうまで私は、鳴り止まない胸の鼓動を確かめていた。教えてくれたことも、感じたことも全部うそじゃないよねって、心に問いかけるように。

 

 

 

 

アオハルなんかじゃ終わらない

 

 

 


fin,