「酔っ払っちゃったかな」

 

垂れてきた髪を耳にかけて、綺麗な赤い瞳を泳がせながら、ティファはぽつりと呟いた。ふと、どちらからともなく唇を重ねた、少しあとに。

 

恥ずかしいのか、目を合わせようとしないティファの顔を覗き込み、俺は様子を伺う。腕をまわすのは、ティファの細い腰。別に、特段やましい意図はない。ただティファに、離れてほしくないだけ。

 

「…ん?」

「顔が、熱いなって……思って」

 

わざとらしくパタパタと、意味もなく手で顔を仰いで見せるのも、一種の照れ隠しだろうか。むくむくと膨れ上がるのはティファへの愛おしさ。もっと触れたいという思いと、もっと見ていたいという欲望。

 

一緒に酒を飲み始めたのは、三十分ほど前だっただろうか。

特別なタイミングなどではない。ただ二人、今日一日の労働を労ることが目的だった。働いたあとの酒はうまい。だからセブンスヘブンは夜、特に賑わうし、俺たちもこうして自然に酒を飲もうと思うことができる。

 

「……酔ったから、キスしたのか?」

 

ティファがよく動くせいで、再び垂れてきてしまった黒髪を指で掬い、口付けながらそんなことを尋ねてみる。こんなことをすれば、ティファがもっと赤くなることを俺は知っている。可哀想だとは思う。だけど、こうでもしないと俺のほうがダメになる。どんな形でも見栄を張らないと、あっという間にティファに魅了され、身動きがとれなくなる。

 

「……」

 

案の定、顔を赤くして、弱々しく俺を睨みつけるティファ。うるんだ瞳での上目遣いが、俺の心臓にぐさぐさと刺さる。

 

何度言ったらわかるんだろう。そうすることは逆効果だって。ティファを離したくない気持ちを、加熱させるだけだって。それともわざとだろうか。わかってやっているのだろうか。もしそうだとしても……どんな意図があったとしても、心に刺さったティファへの想いを、抜き取ることはできないのだけれど。

 

「…ティファ」

 

耐えきれなくなって、俺の方から再びキスをする。ティファはそれに応えてくれる。少し強張った体。ふるふると震えるまつ毛。細い肩を抱き寄せれば、ようやくティファも俺の首に腕を絡めてくれる。いつまでもティファの心の中にある、遠慮や羞恥の混ざる真面目な部分が、溶けていく。

 

音もなく全てを脱ぎ捨てて、俺に身を預けてくれたティファを味わいながら、思うんだ。どんなに遅くとも、どんなに難しくとも、ティファが恥ずかしさを乗り越えてここにきてくれるまで、俺は諦めることをしないだろうと。

 

「……」

「……。…クラウド」

「…うん?」

「…頭がふわふわしてる」

「……酔ってるから?」

「それもあるけど……」

「……」

「…なんでもない」

「……それなら」

「?」

「それなら、俺にもたれていたらいい」

「…うん。そうする」

「酒、まだ飲むか?」

「…ううん、いい……」

 

ティファが、俺を抱きしめる。移動する重力。音を立てる椅子。俺はティファを受け止める。罠にかかってくれた喜びと、罠の中に飛び込むことができた喜びの二つを、心に宿して。

 

 

互いの体が十分に熱くなるまで、俺たちは抱きしめ合っていた。アルコールなんて、とうに、飛んでいた。

 

 

 

 

朽ちるな、いいわけ

 

 

 

 

 


fin,