何か夢を見ていたような気がするけれど、思い出せない。ぼんやりと明るい寝室の天井を見つめながら、きっと二度と辿ることのできない記憶を、私は薄目で探していた。

 

自分が昼寝をしてしまっていたことに気づいたのは、記憶の旅を諦めようとしたちょうどそのときだった。耳をすませば聞こえる、階下の子どもたちの笑い声。寝巻きではなく普段着のままベッドに横たわる自分の肢体。やけにすっきりとした頭のなか。昼寝特有の目覚めの感覚であることは、いまの時間をわざわざ確認しなくてもわかることだった。

 

「ティファ?」

 

だけど、その声は予想外だった。視界の外から聞こえてきた、少し機嫌のよさそうに聞こえる、大切な人の声。

どこから聞こえてきたのだろうと、まだゆっくりとしか動かせない瞳をきょろ、きょろと回す。それから頭を持ち上げ、声がしたほうに顔を向ける。

その人はここにいた。見覚えのある毛布を抱え、どこかから戻ってきたらしい様子で、寝ぼけたままの私を優しく、見つめていた。

 

「起きたか」

 

返事をする間もなく、クラウドは柔らかい声色でそう言う。両腕に抱えられていた……おそらく行き場を失ったばかりの毛布は、目覚めたばかりの私の上にかけられる。クラウドの言い方から察するに、彼は私がお昼寝をしていたことを知っているらしい。知ったうえできっと、そのままにしていてくれたのだろうと、私は思った。

 

(……)

 

毛布から感じる、あたたかいお日様の温度。

そうだ。私は朝、この毛布を洗って干したんだ。それでお昼の仕事を終えて、部屋の中に取り込もうと思ったあたりで、たぶん。

 

「…クラウド」

 

しぼりだすようにして、彼の名前を呼ぶ。

クラウドは優しく微笑んだまま、私が身を預けるベッドに腰掛けた。あたたかくて大きな手のひらが、私の頬を包む。そこから感じる言葉にしようのない愛おしさは、まるで。

 

「……あれ」

「ん?」

「…ゆめ……?」

 

何を言っているのだと、普段の私なら思うだろう。夢から目覚めた感覚を味わったばかりなのに、今が夢であるわけがないと。

 

「…夢じゃないよ、ティファ」

 

だけどこの、あまりにあたたかすぎる空間は……クラウドに「夢ではない」と否定してもらわないと安心できないほど、私にとって都合のいいものだった。

 

「…ほんとう?」

「ああ。本当だ」

「……。私……」

「洗濯物を入れようとしていたんだろ。カゴがそこに置きっぱなしだったから」

「あ……そうだ。それで私、いつの間にか……。あれ……クラウドは、どうして」

「俺はさっき帰ってきた。ティファを探しても店にいないから、ここに来た」

「ご、ごめんね? 呑気にお昼寝なんかしちゃって」

「いいんだ。……洗濯物は、子どもたちと取り込んだ。心配しなくていい」

「わ、ありがと……助かる」

「うん」

 

私の頬や、おでこや、頭を撫で続けてくれているクラウドは、どこか嬉しそうだった。それは、もしかするとよだれの跡がついていたり、面白い顔をしていたりするのかもしれないと不安になる程。

 

だけど。クラウドにこんな顔をさせているのが自分で、彼の優しさがいわゆる愛情から来るものであることを、私は流石に自覚していた。自惚れかもしれないけれど、わかるの。クラウドの気持ち。大好きな人と、なんでもない時間を一緒にいられることの、特別感。

 

(…うれしいなあ)

 

幸せ、だな。

 

「…クラウド」

「…うん?」

「えっと……おかえりなさい」

「…ああ。ただいま」

「……、嬉しい」

「…嬉しい?」

「…うん。……目が覚めて、クラウドがいるのが嬉しい」

「…それは、早く仕事を切り上げたかいがあったな」

「ふふ……」

「…俺もだ。ティファと話せて嬉しい」

「…嬉しい?」

「うん。……ティファが喜んでくれたことも、嬉しい」

「…なんだか、照れるよ」

「ティファが先に言ったことだ」

「そうだけど……」

「…恥ずかしがることじゃない。きっと」

 

クラウドは身を屈める。おでこに触れる柔らかい彼の唇が、私の心をお湯につけるようにふやかしていく。

 

心は幸福でいっぱいになる。意図せずしてしまったお昼寝も、忘れてしまった夢の中身も……ぜんぶぜんぶ、別にいいかと良くなるほどに。

 

 

 

キスを交わすときに、クラウドの柔らかな横髪が、私の頬をくすぐった。こそばゆいと、私は笑った。夢ではないと、私は笑った。

 

 

 

 

 

cheek -チーク-

 

 

 

 


fin,