お昼ご飯を少し多めに食べてしまったからだろうか。
お皿洗いをしている最中、おやつの時間くらいから、うとうとと眠気に襲われた。
夜の営業のための仕込みが終わっていたのをいいことに、私はひとりこそこそ階段を上がり、寝室へと向かう。
目的はもちろん、お昼寝だ。子どもたちは遊びに外に出ているし、クラウドが帰ってくる時間までもう少しある。一時間くらいは余裕を持って眠れそうだと、私はうきうきしていた。お昼寝から目覚めたあとの、心地よくてすっきりとした感覚には、何物にも変えられない幸福感があるから。
わくわくと、履き物を脱ぐ。いそいそと、シーツの上に寝転がる。準備万端に、下から持ってきたブランケットを自分にかけながら。
それくらい夢中になって準備してしまったものだから、私は全然気が付かなかった。
このとき既に、クラウドが予定より早く帰ってきていたことにも、私を探し寝室にあがってきていたことにも。
「……ティファ?」
クラウドの柔らかい声が聞こえたのは、瞼をぎゅっと閉じて深呼吸した直後だった。
(……へ?)
おそるおそる、閉じたばかりの瞼を開ける。
すると目の前には、身をかがめ、心配そうに私を見下ろすクラウドの姿があった。
「…大丈夫か?」
あ、あれ? どうして? まだお仕事がひとつ残ってるって、さっきメールをくれたところなのに。
そんな疑問はさておき、クラウドがあまりにも不安な目で私の様子を伺っているものだから、こちらを解決してあげなくてはと思い直す。
お昼寝計画の終焉を、なんとなく察しながら。
「わ、ごめん! 大丈夫。もう帰ってこれたんだ」
「? ああ……すまない、思っていたより早く終わった。それより、本当に平気か? どこか痛かったり……」
「うん、ほんとに平気だよ。ちょっと眠くて……。おかえり、クラウド」
「…ただいま、ティファ」
私の体調不良を疑い続けているのか、おまじないのように優しく、おでこにキスを落としてくれたクラウド。そのままベッド脇にしゃがみ込み、私の頭をふわふわと撫でる。満面の笑みとはいかないものの、笑顔を向ければ同じように微笑み返してくれた。
(……)
うん、やっぱりお昼寝は中止だ。起きよう。せっかく早く帰ってこれたのだから、コーヒーを入れてあげたい。今日クラウドは、私が起きるよりも早く家を出ていたから疲れているはずだ。
もちろん、お昼寝ができなくて残念な気持ちはある。だけど、それよりもクラウドと過ごしたい気持ちの方が強いのも、正直なところ。
だけど、そうやって私が体を起こすよりも先に、クラウドがぼそりと呟いた。
「……。そうか」
「…?」
「眠いのか、ティファ」
「……」
「…それなら、邪魔はできないな」
思い切りうつむいて、体を丸めて。声も、さっきまで私の体調を心配してくれていた声色とは違うトーン。それら全てをまとめて例えるなら、しゅんとしてしまった子犬のような。明らかにこの状況を、残念がっているような。
(…もしかして)
もしかして。もしかしなくても、クラウド。
「……クラウド」
「…ん?」
「……もしかして、構ってほしかった?」
「……」
「早く……帰ってこれから?」
「……。…うん」
(…うん、って)
あまりにも正直に認めてもらったものだから、質問した私の方が驚いてしまう。ううん。驚くというより、喜ぶの方が正しい。いまこの瞬間、眠気に、心のどきどきが勝った。
「…へへ」
つい、我慢できなくて笑みが漏れてしまう。クラウドはへらへらと笑う私を、わざとらしく睨みつけた。だけどその口元は同じように弧を描いている。
きっと今、私たちはほとんど同じ気持ちだ。意図せずたどり着いた、嬉しい偶然の中で。
「…よしよし」
「……子ども扱いしてるだろ」
「ううん、してない。……クラウドは優しいねぇ」
「…そう言われると、ますます手が出せない」
「…あれ? 何しようとしてたのかな」
「…聞くか? それを」
「ふふ……」
くすくすと笑い続ける私を困ったように見ていたクラウド。身を乗り出して贈ってくれたキスは、今度は唇へ。だけど、私が柔らかいキスにうっとりとする傍ら、クラウドは諦めたような笑顔を見せた。
「…悪かったな、休もうとしてたのに」
「…?」
「もう邪魔しないから、ゆっくり休んでくれ、ティファ」
「…クラウド」
「店の開店前に起こせばいいか?」
「あ、うん……」
(……)
クラウドは、私の昼寝を許そうとしてくれている。一方私はもうすっかり、ひとりで夢の世界に旅立つ気分ではなくなってしまった。我儘なのは一体、どちらだろう。構ってほしいって今思っているのも、どっち?
「…待って、クラウド」
立ち上がって部屋から出ていこうとするクラウドの、服の裾を掴む。私に引っ張られた感覚を得たクラウドは、ぱっとこちらを振り返る。
「…ティファ?」
「……あのね? いい案があるんだけど、聞く?」
「……聞く」
もう一度こちらに向き直ったあと、私の内緒話を聞くためいそいそと耳を寄せてくれたクラウド。
いい案も何も、一緒にお昼寝しようかと提案しただけ。それでもクラウドは、今日見た中でいちばんの笑顔をくれる。私の欲張りな案が、クラウドにとっても「いい案」であることを、暗に教えてくれる。
なかよく二人で寝転んだベッド。私を抱き枕にしたクラウドが、先にすやすやと寝息を立ててしまう愛おしい未来まで、あと少し。
あたたかい腕の中でようやく瞼を閉じながら、私はこっそり前言撤回をしていた。お昼寝なんかできなくても、この温もりのなかに、幸せはたくさんあるでしょう、なんて。
catnap at 3:00
fin,