ティファのことならすぐわかる。たとえ背中を向けていようと、その気配は逃さない。
仕事もシャワーも終えたあと、溜めていた伝票を処理するため、机に向かいはじめた頃。逃れられない眠気と一人戦っていたときに、ふと背後に感じ逃すことのない気配を感じた。ぴたりと動かしていた筆を止め、その気配に集中する。おそらく俺の部屋の前で、俺に声をかけるタイミングを探っているであろう優しい人の気配に。
ティファのことならすぐわかる。たとえ目を閉じていても、見逃すことはない。
「クラウド」
案の定、背後からティファに呼びかけられた。控えめに俺を呼ぶその声から感じる、気遣うような柔らかさ。嬉しくてつい、口元を緩めてしまいそうになるのを堪え振り返る。頭だけじゃなく体ごと。ティファが俺を呼んでくれたこと、ティファがここにいること。その全てを歓迎しているのだと、わかってもらうために。
「どうした、ティファ」
予想通り部屋には入らないまま、扉のそばにティファは立っていた。寝巻き姿に、乾かしたての少しふわふわとした髪。考える間もなくティファが何を伝えに来てくれたのかを察する。横目で、壁にかかる時計が日付を跨ごうとしているのを確認しながら。
「あ、ごめんね? お仕事中……」
「いや、問題ない。……もう寝るか?」
「うん。そうしようかなと思って」
「…そうか」
「クラウドは……まだ、だよね?」
「…うん。今夜中に片付けておきたいものがあって」
「そっか、大変だね」
「大したことはないんだ。三十分もかからないと思う」
「あ、ほんと?」
「ああ」
一瞬その目を輝かせたティファと、視線が絡む。お互いが思いついたことを、答え合わせするように。
「あ……えっと」
「……。…うん」
「……その」
「……。…ティファは」
「?」
「ティファはもう、眠いか?」
「え?」
「その……我慢できないくらいに、眠いか」
「あ、ぜ、全然! 我慢できる」
「……それなら」
「…う、うん」
「少し……ここで待っていてくれないか」
「あ……」
「…仕事、すぐ終わらせるから」
「…うん!」
できることなら一緒に寝たい。言いたいことはわかっているのに、口にするまで時間がかかる。
子どもの頃からなかなか改善しない自分の臆病さに呆れるが、相手がティファである限り仕方ないと思う自分もいる。
大切な人なんだ。いつまでたっても、適当になんてできない。
「ふふ」
ほっとしたように笑ったティファが、俺の部屋に足を踏み入れる。俺は迷わず両腕を広げ、その人を待つ。
照れたティファが腕の中に飛び込んでくれるまでもう十秒。俺にとってはそんな時間、長くも何ともなかった。
「っ、」
「……、」
「、あはは」
「……ティファ」
「もう……。お仕事するんでしょう」
「ん……休憩」
「休憩かあ」
「うん……」
「それなら、仕方ないね」
「……。…うん」
望んだまま俺の腕に飛び込み、脚の上に座ってくれたティファを思い切り抱きしめる。捕まえたからにはもう離せない。部屋を出て、ベッドの上で二人眠りにつくまで、この腕の力を緩めるつもりはない。
ティファの首もとに顔を埋め、深呼吸をしながら実感する。感動さえ、したりする。ここにティファがいる幸せや、有り難さや、奇跡のようなものに。
その後、ティファを片腕で抱きながら進めた仕事は、笑ってしまうほど進捗の悪いものだった。
それでもティファは、ここにいた。そばで、笑っていてくれた。
時計の電池は抜いていて
fin,