ブレスレットがきらきら光る。クラウドが繋いでくれている、左手の手首で揺れている。
普段、髪ゴムくらいしかつけることはない腕のアクセサリー。新品でぴかぴかで、シルバーに輝くそれは、きっと戦闘でも仕事でも邪魔になる。役に立つかどうかと問われたら、間違いなく立たない。それでもそれは今、私の腕にはめられ揺れている。私のものとして、揺れている。
「わあ、綺麗」
思わず声に出てしまったのは、日の光を反射してきらりとした一瞬の光が、目の端にとまったからだろうか。
買い出しのために、クラウドと一緒にエッジの街を歩いていたときだった。偶然道端で見かけた露店で、シンプルで美しいブレスレットが、ふと目に飛び込んできた。
(……あ)
声に出てしまったことに気づいたのは、もちろん声が出終えてから。慌てて知らないふりをしようとしても、もう遅い。ぱっと顔を上げれば、クラウドはすでに私の方を見ていた。私がきれいと言ったアクセサリーを、ちらりと覗き見たあとに。
「…どれだ?」
「え?」
「…綺麗だと思ったのは」
「あ……えっと、これ」
そんなこと言ってないよ、とか。気のせいだったとか。そんな言い訳をしてまで誤魔化すことではないし、何よりお店の人にも失礼だ。そう思いながら、クラウドに尋ねられたまま、おそるおそるシルバーのブレスレットを指差す。つい一緒に確認してしまったのは、そのお値段。スラムでしばらく生きるうちに、質素な生き方に慣れた自分にとって、その価格はあまり優しいものではない。
「…ブレスレット?」
「うん……」
「…いいんじゃないか」
「ん……でも、気にしないで? 思わず声に出ちゃっただけだから」
「気になったんだろ」
「それは、そうだけど……」
クラウドがどうしてそんなことを聞くのか。恥ずかしながら私にはわかってしまっていた。十中八九、クラウドはこれを買おうとしてくれている。だから私は慌てて、この場を濁す。別に濁さなくてはならない理由はない。ただ、無意味に甘えてしまうことを、自分が良しとできないだけで。
(だって)
だって、必要ないもの。私には、必要ないもの。
「…これを買う」
「クラウド、」
「おお、まいど」
「クラウド、いいよ? 私……」
「いらないのか?」
「…いらないわけじゃないけど、仕事中もきっと付けられないし」
「休みの日につければいい」
「だけど、もったいないし……私には似合わないよ」
「……」
ぽろぽろと溢れる卑下するような言葉。クラウドの表情が確かに、むっとなる。
そのまま彼は、私の言葉なんて聞こえませんとでも言うように、あっという間に代金を支払ってしまう。
「ティファ」
クラウドは、私の腕に買ったばかりのブレスレットを優しく取り付けながら、おだやかな声で言った。
「俺が、ティファに贈りたいと思ったんだ」
そのままそっと、手は繋がれた。
「それじゃ、だめか?」
がやがやと、いつも通り賑やかなエッジの大通り。一度繋いでから離せないままでいる、クラウドの大きな手。
きらきらと、ブレスレットは揺れる。その柔らかで美しいきらめきは、私の心に確かに、嬉しいという感情をもたらしてくれる。
あれからクラウドの口数は少ない。だけど、ちらりと横顔を見て様子を伺っても、怒っているわけではなさそうだった。むしろ穏やかな表情のまま、ただ前を見て歩いている。私の歩幅に合わせて、速度を遅くしながら。
わかってる。本当はわかってる。クラウドがむっとした理由。クラウドが別に、怒ったわけではないことも。
クラウドは、優しい。とってもとっても優しい。そのあたたかすぎる優しさに、素直に甘えきれない私がいただけ。
(……)
「……ね、クラウド」
「…ん?」
おおきくひとつ深呼吸。勇気を出すためのおまじない。
そうして私は、ブレスレットを買ってもらってから、しばらくぶりに名前を呼ぶの。この時間が終わる前に、あなたにお礼を言うために。
「……、これ」
「? ああ」
「やっぱりこれ、買ってもらえてよかった」
「…ティファ」
「ほら、見て? お日様の光、こんな綺麗に反射するの」
「…本当だ。それで目に留まったのか」
「うん。なんだか呼ばれた気がして」
「…見落とさずに、買えてよかった」
「ふふ……。クラウド」
「うん?」
「…ありがとう」
「……。うん」
ようやく、本当に嬉しそうに微笑んでくれたクラウドが、私の手をきゅっと握り直す。私も、自分の心の中がぽかぽかとあたたかくなっていくのを感じながら、その手を握り返す。
素直になるのって、難しい。だけどきっと、私が思っているよりも簡単だ。
今は、隣にクラウドがいる。素直になれるまで、喜びを受け入れられるまで……クラウドは私の手を離さず、ここにいてくれる。
ブレスレットはゆらゆら揺れた。お日様の光をあちこちに反射させながら。
光はとても優しかった。眩しいことを恐れる私を、包み込むように。
my sweet sunshade
fin,