「ティファの全部が欲しい」
瞳はとろんと、だけど焦点はしっかりとさせたまま、クラウドはぽつりとそう言った。どちらが先に眠りに落ちるかわからない真夜中、ベッドの中で、私の頭をゆっくりと撫でながら。
突然の大胆なご要望に、私は照れ隠しに笑うことしかできない。真面目に口説かれているような感じではないのだけれど、冗談で寝ぼけて言っているようにも聞こえなかったから。
「…全部?」
「…うん」
「…もうほとんど、クラウドのものだけどなあ」
まだ足りない? そう呟きながら、大好きな人の頬を撫でる。クラウドは目を細め、うっとりとした様子で小さくこくんと頷いて見せた。
「…足りない」
「ふふ……困ったね」
「……。俺のものじゃないティファは、何?」
「そりゃあ……私にも、いろいろありますよ」
「…色々?」
「うん、いろいろ。クラウドだってあるでしょ?」
「……ないんじゃないか」
「そんなことないよ」
まるでそれは、クラウドの全部が私のものだとでも言うような返事。だけど、そんなふうに思ったことは一度もないから、上機嫌な人のうわ言だと思って聞き流す。だって、全部を理解させてくれないのがクラウドだから。全部わかってしまったら、きっとそれはクラウドじゃないから。
「…なあ、ティファ」
「ん?」
「…その色々も、俺は欲しい」
「ええ? クラウド、欲張りさんだね」
「欲張りでも傲慢でも何でもいいさ」
「認めるんだ」
「…認める」
「……そんなに欲しい? 全部」
「…そんなに欲しい。全部」
知らない間に、なにか夢でも見たのだろうか。切なそうで、なぜか必死にも見えるクラウド。
クラウドの知らない私なんて、クラウドが知っても得しないことだらけだ。きっと伝えても、あまり興味がなさそうに聞いてもらうことになるだけだろうし、中にはちょっと「そんなティファはいやだなあ」なんて、思われることもあるかもしれない。何度もクラウドには伝えているけれど、私はそこまで出来た人間ではない。
ぜんぶ、ぜんぶ。それを体現するかのように、クラウドは私を抱きしめる。腕をつかって、手のひらをつかって、気づけば足なんかも絡めて私をつかまえる。もしも私が「逃げたい」なんて言っても、決して離してはくれなさそうな拘束。でもそんな縛りつけを、一種、心地のいいものとして受け入れている自分がいる。なんなら、喜んで絡まりにいっているような気もする。
ねえ、クラウド。
私はもうあなたに、何も隠してなんかいないよ。
私を綺麗なものとして見てくれる、あなたの瞳自身が、私の汚い部分を見えなくさせているだけで。
「…はあ」
「あ、ため息」
「…どうやったら、手に入れられる?」
「……私を?」
「…うん」
「…そうだなあ。ずっと、そばにいて、見ていてくれたら、方法がわかるんじゃない?」
「…そういうものなのか」
「そういうものだよ、きっと。……私は、逃げも隠れもしませんからね」
「…言ったな? 俺はしつこいぞ」
「ふふ、知ってる」
「なんだと」
「あはは」
さっきまで隣に寝転がり、うっとりモードだったクラウドが、意地悪く微笑みながら覆い被さってくる。
私は、そのまま彼が上機嫌にくれるキスを、上機嫌に受け止める。そして、一生懸命に腕を伸ばす。つかまえていて、って。もう離さないでって。どうかこのまま、この甘い空間の中で手を繋ぎつづけていよう……って。
ねえ、クラウド。知ってる? あなただけなんだよ。私の心の鍵を開けることができるのは。
怯えて出てこないだけで、私のすべては、あなたのものになる準備ができているの。ひとつずつ、順番に摘み取ってもらうために、こうしてそばにいるんだよ。あなたに見つけてもらいたくて、私はずっと。これまでも、これからも、ずっと。
私は、あなたにもう……この扉を、開けている。
「…ね。クラウド」
「?」
「焦らなくていいんだよ」
「……」
「…あんまりぼーっとしてると、クラウドの知らないこと、増えちゃうかもしれないけど」
「…逃げないんじゃなかったのか」
「逃げないけど、ほら。私も、じっとしてるのは苦手だから」
「…ますます焦る」
「ふふ……」
「……。…いつか、全部くれるか」
「…クラウド次第かな」
「なら……覚悟していてくれ」
「りょうかい」
「…俺は」
「?」
「俺は、ティファが思っているより、ティファを……」
「……。…うん」
わかってる。そんな想いと、願いを込めて私から口付けをする。言葉にしてもらう必要はない。私も、クラウドのくれる想いをどう言葉で表現したらいいか、わからないから。自分自身の想いさえ、満足に言葉にできないのだから、きっとこれは、このままでいい。私とクラウドが繋がってさえいれば、いらない。
私はそのまま、クラウドの腕の中で、きっと彼よりも早く眠りに落ちた。
がんじがらめで、ぐちゃぐちゃで。一見息苦しいはずの彼の中は、不思議なくらい心地が良かった。複雑になった私の心はずっと、この鍵を求めていたのだと、クラウドの体温を感じながら、私はゆっくり、息をしていた。
Breath of my heart
fin,