一晩でこんなに沢山の「すき」を伝え合うのは初めてかもしれない。

 

「……ティファ」

「なあに」

「…ティファ」

「ふふふ、なんですかクラウドさん」

 

肌を重ねて、ときどき唇も重ねて、呂律の回っていない口調で愛の言葉を囁き合う真夜中のクラウドの部屋。彼の仕事机に転がっているのはペンや伝票ではなく、私たち二人が飲むにしては少し数が多めのボトル。お互いに触れたくなったとき周りを気にせず触れられるようにと、一階から二人で運び込んだお酒たち。

 

今日は酔っ払おうと、飲み始める前から決めていた。

提案してくれたのはクラウド。子どもたちがぐっすり眠りに落ちたのを確認してから、私たちはほんの少しの背徳感といっしょに手を繋いで一階へ降りた。

最初は、珍しくおしゃべりなクラウドの話をうんうんと楽しく聞いていただけ。仕事中に起こった面白いことや出会った不思議な人の話。クラウドなりに笑わせようとしてくれているのがわかって、嬉しくて、私は楽しい気持ちに流されるようにすいすいとお酒を口にした。

クラウドの部屋に移動しようということになった頃にはもう、私たちは出来上がっていたと思う。ちゃんとお店のボトルを片付けてから二階に上がったことだけは、よく頑張ったと自分を褒めたい。

 

「……ティファ」

 

チクタクと時計の秒針がやけに大きく聞こえる部屋の中。名前を何度も何度も呼んでくれるクラウドは今、私の服を中途半端に脱がしたまま、胸の谷間に顔を埋めて幸せそうに微笑んでいる。クラウドに覆い被さられている私は身動きが取れないまま……身動きを取るつもりもないまま、同じようにうっとりと、綺麗な人に遠慮なく見惚れる。

 

「…クラウド」

 

お酒を飲んでいるときの無敵な気分は不思議。いつもしたくてもできない少し大胆な行動も、簡単にとることができるから。

そっと指を伸ばす先は柔らかいクラウドの唇。ふにふにと触れたあと、そのまま自分の唇に持っていってクラウドを誘導する。ずっとにこにこ嬉しそうにしていた酔っ払いクラウドは一瞬真面目な表情になって、性急に私に口付けをくれた。

 

「…ん、」

 

ねっとりと口内に侵入する熱い舌。背筋がぞくぞくするのを感じながら、慣れないながらに受け止める。熱いクラウドの手が私の後頭部に回って、そのままぐいと抱き寄せられる。クラウドが強い力で私を抱きしめたり、こうして離そうとしなかったりするたびに喜びに似た感情を覚えてしまうのは……彼がしてくれるのと同じだけ、私もクラウドを離したくないと思っているからなんだろうか。

 

「……、」

「…クラウド、おさけの味する」

「…ティファも」

「いっぱい、のんだね」

「うん……」

 

くすぐったいくらい優しく指の腹で撫でられる頬。その手に擦り寄れば、クラウドは満足そうに吐息を漏らす。

隠すことなく欲に浸かった表情をしてくれるのが嬉しくて、つい笑みをこぼす。つられて微笑んでくれる愛しい人に、ゆるゆるになった心から素直すぎる言葉はあふれる。

 

「……クラウド」

「ん?」

「…私、クラウドにキスしてもらうの、好き」

「……それはよかった」

「ふふ」

「…どんなところが?」

「んー……気持ちよくなれる、ところ」

「…体が?」

「…心も」

 

よく言えました。まるでご褒美のように降りてくる、さっきとは違う穏やかな口付け。欲しい、欲しいと求められることも好きだけれど、こうして気持ちよくさせようとしてくれるキスも大好き。

悪戯っぽく何度かリップ音を鳴らしたあと、クラウドはきれいな目のなかにいっぱい私を映して、言葉を続けた。

 

「…ティファ」

「…?」

「……好きなのは、これだけか?」

 

何を言って欲しいのかは全部、顔に書いてある。クラウドがしてくれたのと同じように彼の頬に手のひらを添えて、私はまっすぐ気持ちを届ける。

 

「…ううん。……クラウドが好き、全部」

「…どれくらい」

「……こーれくらい」

 

わざとらしく両腕を大きく広げてみせると、クラウドはまた心底幸せそうに頬を緩ませてくれる。あまりに上機嫌だから気分が良くなって、何度でもくれるご褒美の口付けを味わったあと今度は私から言葉を求めることにした。

 

(ああ、)

 

神様か誰かの勇気を借りる気分。お酒ってふしぎ。素直って、素敵。

 

「…クラウドは?」

「…ん?」

「……私のこと…、好き?」

 

ほんの少し緊張してしまう質問。むやみやたらに聞かない方がいいこと、私は知っているから。だから……お酒に背中を押してもらわないと聞くことができない勇気のなさは、どうか見逃して。

そんな私の心のうちはつゆ知らず、クラウドは楽しそうな表情を変えずに私をじっと見つめる。見つめていてくれることに、私は喜びと安堵を感じる。

 

「……好きだよ」

「……」

「…大好きだ、ティファ」

「…どれくらい?」

「…ティファが思っている700倍ぐらい」

「ふふ、すごい…」

「…いや、もっとかもしれない」

「数え切れないよ」

「ああ。……測り切れない」

 

ありがとう。そんな気持ちを込めて、頭を少し持ち上げ私からキスをする。クラウドはそれをかわいく受け止めてから、私の耳元に顔を近づけて頬を擦り寄せた。

 

(……)

 

広くごつごつとした背中に両腕をまわし、抱き寄せながら思う。こうしてたくさんの言葉をもらい続けても、私の心が満足することはないのだろうということを。それはきっと言葉にしかない力がある代わりに、言葉では届けられないことがあるから。そして私たちは、その存在を知っているから。

私が抱えているのは、私が本当に欲しいのは……言葉で伝えられる範囲を超えた、大きく赤く膨れ上がる、愛に似た強い想い。

 

「……ティファ」

「…うん」

「……俺以外見るな」

「ん……見ない」

「…ティファの隣にいていいのは俺だけだ」

「うん……クラウドだけ」

 

クラウドのくれる決して美しくはない想いは、そのまま私の想いになってクラウドに返る。甘い言葉のその先の、クラウドが確かに持つ人間くさい想いを、私の心はぞくぞくと鳥肌を立てながら受け入れる。

 

アルコールが身体中を巡っていく中、酔っ払ったふりをして私たちはこっそり本音を伝え合った。

どんなお酒もどんな薬も変えることのできない、お互いのためだけに生まれた赤一点のよくぼうを。

 

 

 

 

Alcohol

 

(ないしょにしよう)

 

 


fin,


 

2021年の既刊 『Moon On the Cloud』 より