結局星は、私の願いを叶えてくれたのだろうか。

 

「流れ星、全然見えなーい」

 

夜の営業を終え、家族全員で流星群を見に屋上に上がる。今夜だけは子どもたちの夜更かしもおおめに見ようと、クラウドと決めてから。

全然星が流れないと、開始十分で音を上げたのはデンゼル。待つことに慣れているのか、マリンはじっと空を見上げて耐えている。そんな簡単に見えるものじゃないと笑えば、隣に座っているクラウドも微笑む。私と同じ「経験」を持つその横顔は、優しく月明かりに照らされていた。

 

「りゅうせい、ぐんっていうぐらいだからさ、もっとビュンビュン流れていくのかと思ってた」

「ふふ、そうだね」

「クラウドたちは見たことある? りゅうせいぐん」

「…流星群かどうかはわからないが、流れ星ならある」

「え、ほんと? どんなだった? 願い叶った?」

「……ほら。よそ見してると、見逃すぞ。今流れた」

「え、うそ!」

「私、見えた!」

「えー、マリンだけずるいよ〜……」

「あはは、ほらデンゼル、あきらめないで? 見てたらきっとまた、流れるから」

「うん……」

 

星が流れ終えてもなお、マリンは願いごとを唱えつづける。流れる間に願いを三度言い切るなんて不可能だと、ずっと昔私が教えたからだろうか。もしくはそれよりもずっと前に、バレットに教えてもらっていたのかもしれない。遠い遠い旅をしてきたマリンは、私でも驚くことを知っていたりするから。

 

負けじと、再びデンゼルは夜空を見上げる。私もそれにつられるように、星空に目を向ける。

 

この星々に、これまでたくさんのことを祈ってきた。自分のこと、家族のこと。仲間のこと、故郷のこと。そして誰よりも、隣にいるクラウドのこと。

 

たくさん、悲しいことがあった。たくさん、取り返しのつかないことが起きた。願った願いの中には、叶わなかったこともある。むしろ叶った願いより多いかもしれない。だけどただ一つ言えるのは、一喜一憂するとき、流れ星を思い出せたことなんて、一度もなかったということ。願をかけるだけかけて、薄情なものだ。結果がどうであれ、お礼も言わずに、私はのうのうと生きてきた。そしてのうのうとまた、星空を見上げている。

 

結局星は、私の願いを叶えてくれたのだろうか。

せめて……あの夜、一緒に星空を見ていたクラウドの願いだけは、叶えていてくれないだろうか。

 

「あ!」

「わ、流れた!」

 

子どもたちの大きな声で、ふと我にかえる。気づいた頃にはもう、流れ星は夜空からいなくなっていた。ぼうっとしていた私と違い、マリンもデンゼルも星を見ることができたようで、一生懸命に瞼を閉じ願いごとをしている。願いを伝えそこねた私は、代わりでもなんでもないけれど、ふたりの願いが叶うようにと心の中で祈る。

 

そんなとき、ふと思った。クラウドはどうだろう。クラウドは今夜、何を願うのだろうと。

彼がじっと、私を見ていたことに気づいたのは、その美しい青色と目が合ったときだった。

 

「……? クラウド?」

「ん?」

「…星、見なくていいの? 見逃しちゃうよ」

 

さっき、デンゼルに伝えたようなことをクラウドに言う。

だけど彼は、焦ることも慌てることもなくただ穏やかに微笑み、ゆっくりと頷くだけだった。

 

「…いいんだ。俺は」

「…願いごと、ないの?」

「些細なことなら、たくさんある」

「些細なことでも、いいんじゃない?」

「いや。いいんだ、俺は」

「……どうして?」

「…どうしてかな」

 

瞼をぎゅっと閉じる子どもたちの目を盗むように、クラウドは私の手を取る。

 

「…俺には、必要なかったんだ」

 

指は、絡まる。

 

「流れ星なんて……最初から、きっと」

 

一瞬ではなく、ずっと。

 

 

 

どんな願いごとをしたのかと、自慢しあう子どもたちの背中を見守りながら、私たちは部屋の中へと帰る。いったいいくつ見たかもわからない星々に、ありがとうと、またねを伝えてから。

 

結局星は、私の願いを叶えてくれたのだろうか。

今となってはわからない、両手いっぱいに幸せがある今を確かめて、ゆっくり足を進めた。何が合っても、手を繋いでいてくれたクラウドの隣で、私は星空に背を向けた。

 

 

 

 

さよなら、願い星

 

 

 

 


fin,