「あ、ねこのお兄ちゃんだ!」

 

7歳くらいだろうか。街ですれ違った男の子は、確かに隣を歩くクラウドを指差し、そう言った。その子の表情は笑顔。思わず釣られて頬を緩ませながら覗き見たクラウドは、なんとも気恥ずかしそうに顔をしかめていた。

 

「こらこら、人を指ささないの」

 

この子のお母さんだろう。クラウドに向かってピンとさされた指は、母親によって下ろされる。だけど、そのあとにぺこぺことお辞儀され「その節はどうも」と笑顔と言葉が続くあたり、クラウドが「ねこのお兄ちゃん」であることは間違いないみたい。私の知らないところで、きっと誰かの役に立ったであろう、優しいこの人が。

 

「ああ……まあ」

 

曖昧な返事。きょろきょろと泳ぐ目。指で頭をかくのは、あなたが照れるときにする癖。

うまく返答ができずにいるクラウドに代わって、ぺこりとお辞儀をしてしまったのはおせっかいだっただろうか。ばいばいと手を振ってくれる男の子。同じく笑顔のお母さん。

 

(さて)

 

どこからどこまで、聞かせてくれるだろう。優しい配達屋さんの、ねこのお話を。

 

「ふふ」

「……」

「…ねこのお兄さん、だって」

「……。うん」

「猫運び、でもした?」

「…結果的に、そうなったかな」

 

男の子たちの姿が遠くなってから、クラウドに尋ねる。答えてくれる声は優しい。男の子に指さされてからも握り続けてくれている手は、あたたかい。

 

「……猫が、迷子だったんだ」

 

ぽつり。照れることをやめた綺麗な横顔が、物語りをはじめる。何度見とれたかわからない彼のその姿を、私は目を細め見守る。

 

「…迷子?」

「ああ。油断したときに、家から逃げ出してしまったらしい」

「わ、それは大変」

「それで偶然、あの親子が捜索しているところに俺が配達に来てな。……まああとは、説明するまでもない」

「ふふ、クラウド、お手柄だね」

「……。どこかの誰かの白猫のおかげで、慣れてたから」

「…あ。私、遠回しにけなされてる?」

「ふ……」

 

上機嫌に、クラウドが微笑む。ちらりと私を覗き見た瞳は、夕日の光が混ざって美しい。この美しさにいつも、言いたい文句も思いついた文句も消えてしまうの。

そして私はそれを、情けなくも幸せなことだと思っている。

 

もう。

そんな、お決まりのため息をこぼしながら、あたたかいその指に、自分の指を絡ませる。クラウドはその手や指を、包み込んでくれる。大事だよ。大切だよ。まるで、そんな心を込めるように。

 

「…いつも、そう」

「ん?」

「クラウドはいつも、探しても探しても見つからないものを、見つけてくれる」

「…そうだったかな」

「そうだよ。私、クラウドのおかげで諦めずに済んだこと、たくさんあるもの」

「…それは俺がただ、ティファだから、ティファのために頑張っただけだ」

「そうなの?」

「…そうだよ」

 

眩しい夕日に雲がかかって、ゆらゆらと光が揺れた。もしかしたらクラウドは、また照れたような顔をしているかもしれない。かもしれない、だけで、本当のところがわからないのは、私自身が照れてしまっているから。照れて、クラウドのことを見られなくなっているから。

 

「……ティファ」

「…ん?」

「…寒くなってきた。早く帰ろう」

「うん。そうだね」

「…そろそろ俺の手だけじゃ、冷たさを防ぎきれない」

「ふふふ、クラウドったら」

 

天然なのか、わざとなのか。いつもあったかくて、明るい気持ちをくれるクラウドと笑顔になりながら、私たちは歩幅を少しだけ大きく広げた。私にだけじゃない。みんなに優しいあなたの、頑張れる理由の一つになれていることを、私はこっそり、誇らしく思った。

 

 

 

 

 

午後二時、ひなた

 

 

 

 


fin,