丁寧に一箱ずつラッピングをしていく。色で誰宛かわかるように、マリンへのものはピンク、デンゼルは緑、クラウドには白色の包装紙を使って。
「ねえねえティファ」
その様子を楽しそうにみていたマリンが、カウンター越しに私に話しかける。ちらりとみた表情は、見るからにイタズラめいたもの。
「なあに、マリン」
「クラウド、見た?」
「ううん、今朝はまだ」
「あのね。……クラウド、すっごくソワソワしてるよ」
「クラウドが?」
「うん。歩き方、変だったの」
「あはは」
歩き方の変な彼を想像して、つい笑みがこぼれる。ついでに、マリンに怪訝な顔で見られるほど落ち着きのない姿なんかも、思い浮かべる。
きゅ、と結ぶのはみんな同じ、赤いリボン。想いを込めて、丁寧に。
「クラウド、今日のこと知ってるのかなあ?」
「ふふ、どうかなぁ」
そう答えると、マリンはさらに嬉しそうな顔しながら、声量を下げ「こそこそ」モードで話を続けた。
「きっと、知ってるんだよ」
「そう思う?」
「うん。だからソワソワしてるの。ティファから貰えるかもって思ってるから」
「わからないよ? 配達先で女の子に貰う予定なのかも」
「も〜ティファ、わかってないなあ」
「…はい、できた! どうぞ、マリン」
「わぁ! ありがとうティファ!」
マリンに、包みたての小さな箱を手渡す。彼女の「不思議なクラウド」に対して向いていた関心は、あっという間にチョコレートに移る。
あけてもいい? と嬉しそうに聞いてくれるマリンに頷きで返せば、とびきりの笑顔を贈り返してくれた。
(さてと)
どう渡したものだろうか。期待してくれている、彼に。
「………ティファ」
「!」
突然、渦中の人の声が聞こえた。反射的に声の方へ顔を向ければ、そこにはなんとも言えない表情で、私の立つキッチンを覗き見るクラウドの姿があった。
「クラウド」
「……。おはよう」
「うん、おはよう」
「……」
「……どうしたの?」
「……いや。……別に」
わざと察していないふりをすると、クラウドはさらにぎこちない表情になってその場に佇む。
視線も、うろうろ。どうやら、何事もなかったようにこの場を去る……という選択肢は、今朝のクラウドにないらしい。わかってくれ。察してくれと、やけに必死にこちらの様子を伺っている。
(……)
気づかないふりはちょっと、意地悪だろうか。自惚れないように気をつけているつもりでも、どうしたってわかってしまうクラウドの今の気持ち。
だって、顔に書いてあるもの。「チョコレートはないのか」って、くださいって、書いてあるもの。
(ふふ)
「…ねえ、クラウド」
「! ……どうした?」
「今日、何の日か知ってる?」
「……さあ」
「ほんとに知らない?」
「……。……覚えてない」
「あはは、声小さいよ」
「……。…今日が、どうかしたのか?」
「うん。はい、これ。クラウドにプレゼント」
「! こ、これは」
「ヴァレンタインデーです。手作りのチョコだから、早めに食べてね」
「………」
「クラウド?」
「あ……ああ」
明らかに、クラウドの雰囲気が不安めいたものから幸せなものに変わる。なぜだろう、クラウドにないはずのしっぽが見える。ぶんぶんと喜びを伝えてくれるしっぽが。
「…ティファ」
クラウドはしばらく、その白い小さな箱を見つめたまま静止していたけれど……やがて、こっちが照れてしまうくらいに上機嫌な様子で、顔を上げた。
「…ありがとう。……大事にする」
おそらく……本人無自覚の笑顔で。
「…、うん。どういたしまして……」
予想以上の笑顔にあてられ、暫くぽーっとしてしまった私。我に返った頃には、クラウドはもう満足したのか、軽い足取りで階段を登り始めていた。大事にする、という食べ物に対して使う表現ではない気がする言葉を残して。
(……ん?)
「ま、待ってクラウド」
「?」
「だ、大事にしてくれるのは嬉しいけど、早めに食べなきゃだめだよ?」
「? なんで?」
「なんで? じゃないの。手作りのお菓子は足が早いんだから」
「…いつまでなら待っていいんだ」
「うーん、できれば今日まで」
「今日だと? ……。……考えておく」
「…食べる気ないでしょ」
「…ブリザガでなんとか」
「なりません」
「でも……」
「…食べて欲しくて作ったのに、食べてくれないんだ」
「……。…………食べる。食べたい。だが……もう少し時間をくれないか」
「もう。なくなったらまた作ってあげるのに」
「…今日ティファに貰ったものだから、特別な意味があるんだ」
「やっぱり、今日が何の日か覚えてるじゃない」
「……」
墓穴を掘ったクラウド。目を逸らしたまま、無言で階段をのぼって逃げていく。
だけど、嘘が下手な彼も、小さな箱を大切に抱える後ろ姿も愛おしくて……私にはもう、止める理由を見つけられそうにない。
その夜。クラウドは、配達先でもらうはずだったお客さんからのチョコを全部断り、おこぼれを期待していた子どもたちからブーイングを受ける。
それでもクラウドは、一日中機嫌がよさそうだった。たとえこのままクラウドが、知らない間に知らないところでチョコを食べてしまったとしても……私はもう、その笑顔を見せてもらったような気がした。
スマイル・ミルフィーユ
「もークラウド、なんで全部いらないって断っちゃったの?」
「クラウドが食べなくても、おれたちで食べるのに!」
「…手作りは足が早いらしいからな。それにチョコを食べ過ぎたら虫歯になるからだめだ」
「ならクラウド、もうティファのチョコ食べた?」
「……。まだだ」
「いつ食べるの?」
「……」
「今日中に食べてって、ティファ言ってたよ?」
「……」
「歯磨きする前に食べなきゃだめだよ?」
「……」
「そうだよ、虫歯になっちゃうよクラウド」
「……」
「ねーティファ、クラウドが無視する!」
「クラウド?」
「……くっ………」
次の日の夜までねばりました。
fin,