「クラウド、今日誕生日なんだって?」

 

 

ぼん、と、突然、相変わらずの力強い力で肩を叩かれた。その力の持ち主はいつも登場が急だから、最近俺はもうびっくりすることもしない。ただ、この夕方、訓練で疲れ切っていた体にはちゃんと響いた。

 

俺がその力の主を振り返るよりも早く、次は頭をわしゃ、と撫でられる。またしてもその強さのせいで、顔もあげられない。

 

 

「ちょ……」

「水くさいじゃないの、教えてくれないなんて」

 

 

散々髪をボサボサにされたあと、大きく息をついてからようやく振り返る。その人は相変わらず楽しそうな表情で、俺のことを見ていた。

 

 

「…ザックス」

 

 

挨拶も兼ねて名を呼ぶ。ザックスもそれを兼ねて返事をする。

昨日盗み聞きした軍の報告会で聞いた話だけど、ザックスは遠出の任務にあたっていたはずだ。ということは、今帰りたてなのかもしれない。格好もよく見ればボロボロだ。

 

 

「お……おかえり?」

「ん? よく知ってるな、今帰ってきたこと」

「昨日たまたま聞いたんだ。そういえばずっといなかったし」

「そーそー、長いわりにあんまし内容ない任務でさ……って、違う違う、そんな話してんじゃないから」

 

 

ザックスが大袈裟に俺につっこみを入れる。俺は、訓練で疲れてしまう自分と違って、任務後でも安定して元気な目の前の友達の様子にひとり、安堵を覚えていた。

 

 

「何で教えてくんなかったの誕生日! お祝いさせてくれよ。こういうのは友達同士パーッと祝うものだろ、パーッと。…あ、女の子がいるんなら話別だけど」

「いないよ……。ごめん、あんまりそういうの慣れてないから、言うほどのことじゃないかなって思ってたんだ」

「寂しいこと言うなよなあ。クラウドが生まれた日なんだぞ? めでたいに決まってんじゃん」

「…ありがとう」

「何? 予定は? 今晩に限って俺がいつもより良い店に連れてってやる」

「え? …いいの? 疲れてないの?」

「いいのいいの、うまいもん食うのが一番! で? 予定は?」

「…ないけど」

「っしゃ、じゃあ決定だな!」

 

 

まるで遊園地にでも連れて行ってもらう子どものようにガッツポーズをするザックス。誕生日の俺よりも嬉しそうな気がするのは気のせいだろうか。

そんな優しい友人に、嬉しさから来るため息をつきながら、俺はただ溢れてきた気持ちを伝える。

 

 

「…ザックス、ありがとう」

 

 

ザックスは……俺の誇れる親友は、まっすぐな目を持って言葉をくれる。

 

 

「うん、クラウド。…改めてだけど」

 

 

その笑顔は、存在はいつだって……俺にはあまりに眩しかった。

 

 

「誕生日、おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

あの日の残像をふと思い出したのは、今日エッジに……店に集ってくれた仲間たちが散々飲み尽くした、床に転がる酒の瓶やボトルなんかを一人、回収していた時だった。

 

そろそろ抱えきれなくなってきたな、と思うところで物を拾う手を止め、体を起こす。あたりを見渡せばまだ明日店を営業できるような状態ではなかった。

何をどうやったら一晩でこんなに店をめちゃくちゃに荒らせるんだ。そう思いながら、決して憎むことのできない……今も呑気に、ボトルと一緒に床や椅子に転がる仲間たちのことを思う。…それから、憎みはしない代わりに、この飲んだくれたちの回収もしないと心に誓う。

 

 

腕の中いっぱいの酒臭いボトルたちを取り急ぎキッチンに置いてから、俺はさっき不意に現れた思い出のことを考える。

 

あの日……ニブルヘイムを出てから初めて家族でない人間に、ザックスに誕生日を祝ってもらった、あの日。

 

ザックスは、いつものようにただ飯にありつけると踏んで付いてきた俺の同僚たちも連れて、宣言通り「いつもよりいい店」に案内してくれた。そして期待を裏切らず、ザックスの財布の中の金だけじゃ足りない事態になり……俺も財布の中を全て差し出すはめになったことまでセットで、よく覚えている。

 

馬鹿みたいな話をして、くだらないことを真剣に語り合って……近所に怒られるぐらい大声で笑いながらみんなと、ザックスと帰路についたあの日を……俺は、今でも。

 

 

 

(…まさか、こんな形で思い出す日が来るなんてな)

 

 

 

大きく息をついてから心の中で、心の中にいるような気がするザックスに語りかける。

 

なあ、ザックスは驚くかな。俺の誕生日というだけでこんなに人間が集まってくれる日が今、現実にあるということを。

 

それとも、何も驚くことはないって笑うかな。当たり前のように一緒にいてくれたザックスなら……そう、言うのかな。

 

 

「…クラウド?」

 

 

ふと、聴き慣れた声で意識を呼び戻される。いつの間にか手元の瓶を見て俯いていた顔をあげれば、たった今二階から降りてきた様子のティファが、不思議そうに俺を見ていた。

 

 

 

「…ティファ」

「みんなの分の寝床作ったよ。…どうしたの? ぼーっとして」

「いや。なんでもないんだ」

「そう? …あ、瓶とか片付けてくれてたんだ。ありがとう」

 

 

 

ティファはさっきまで、仲間たちと一緒に楽しみながら料理もするというマルチタスクをやってのけていた。それだけじゃない。そもそも今日の会の準備を、俺の気づかないところでしてくれていた。

ティファは、あの日ザックスがしてくれたことを、作ってくれた居場所を……当たり前のように俺に、贈ってくれる。

 

 

(……)

 

 

「…ティファ」

「ん?」

 

 

誰から上に運ぼうかと、少し楽しそうに仲間たちを見るティファに声をかける。特に何か用事があるわけじゃなかった。でも……名前が呼びたくなった。

ティファは俺を見るなり瞬きを繰り返す。それからなぜか嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「…クラウド、何かあった?」

「…え?」

「すごく、優しい顔してる」

 

 

(…優しい顔?)

 

 

自分がそんな顔をしている自覚が全くなかったから、つい俺も瞬きを繰り返す。ティファは、そうやって戸惑う俺を見てまた、柔らかく笑った。

 

 

「…今日、楽しかった?」

「え? ああ……ティファのおかげだ。…ありがとう」

「ううん。お礼言いたいのは私の方だから」

「?」

「お祝いさせてくれて……一緒にいてくれてありがとうね」

 

 

『お祝いさせてくれよ』

 

 

(あ……)

 

 

また蘇る、残像。そうだ、確かあの日ザックスも同じことを言っていた。祝わせてくれてありがとうと……言ってくれた。

 

礼を言いたいのは俺なのに。一緒にいてくれることに感謝しているのは、いつだって俺の方なのに。

 

どうして、俺のそばにいてくれる人は……みんな。

 

 

「…クラウド?」

 

 

ティファが、急に黙った俺の様子を不思議に思って、近くに歩み寄る。でもそれからすぐ俺の何かに気付いて……ただ微笑み、何も言わずに、両腕をいっぱいに伸ばして俺の頭を抱き寄せた。

優しい優しい香りが、記憶の中で笑う俺ごと、包み込む。

 

 

「……、」

 

 

その腕の中、俺は何も言えないまま目を閉じる。ティファを確かめたくて抱き寄せる。

 

その体はちゃんと、あたたかかった。あの人も、ティファも……ちゃんと、ちゃんと。

 

 

「…クラウド」

「……」

「…お誕生日おめでとう」

「……、うん」

「…生まれてきてくれて……本当にありがとう」

 

 

ティファの言葉に、生きてここにある体温に…俺は溶け込むように何かの力を手放す。

 

 

大切な人はいつだって、何度もあきらめず、俺に教えてくれていた。だから俺はもう、わかっていた。

 

この命は生まれたときから、俺だけのものではないのだということを。

生きている意味を一人で探す必要なんて、最初からなかったことを。

 

 

夜明くるとき、僕は目覚める

 

 

 


fin,