クラウドはしたいとき、いつも私に「いい?」と尋ねる。お互いが明らかに盛り上がっていて、確認するまでもないようなとき以外は、ほぼ必ず。

 

そして私は、そのほとんどに「イエス」で返す。もちろん元気いっぱいに返事なんてできるわけもなく、大抵は蚊の鳴くような声だったり、頷くだけだったりするのだけれど……それでも嫌じゃないことをちゃんと伝えたいから、返事はきちんとする。

 

どれだけ切羽詰まっていても、どれだけ回数を重ねても、律儀に確かめてくれる優しい人。そんなクラウドをちょっと試したくなった私は、なんて意地悪な人間だろう。

 

「……ティファ」

 

子どもたちも寝静まった夜。それでもいつもより早く寝室のベッドに潜り込んだ私たちは、この時間を待っていたかのようにキスを交わす。クラウドが甘い声で私の名前を呼んだのは、彼の手が私のお尻をやわやわと触り始めた頃だった。

 

「…、ん……」

「…ティファ」

「……、」

「……このまま、いいか」

 

(……あ)

 

うっとりとキスに浸り閉じていた瞼を開ける。クラウドは暗闇の中でもわかるほど、熱のこもった目で私を見ている。それがまるで、自主的に「待て」をしているわんちゃんのようで、少し可愛い。

 

このまま、というのが何を指すのかわからないほど私はもう無知ではない。正直に白状すると、私もその「続き」を待ち望んでいる。本当は今すぐにでも頷いてしまいたいくらい。何なら構わず進めてとお願いしたいほど。

 

だけど、今夜私は決めていた。クラウドの反応見たさに彼の誘いを断るという、なんとも意地悪な作戦の決行を。

 

「……、い」

「?」

「…いや」

「え?」

 

言い慣れてない拒否の言葉。私が普段使わないのだから、クラウドも聞き慣れているはずがなく、ぽかんとした顔をされる。その表情がまず語るのは、ショックというよりも驚き。そりゃそうだ。さっきまで一緒にキスだけで盛り上がっていたのに、気まぐれにも程がある。

 

「……。嫌です」

 

なんだか締まりが悪かったのでもう一度意思を伝えてみると、彼はようやく瞬きを再開した。

 

「……あ、」

「……」

「…わかった。……どこか具合が悪いのか?」

「う、ううん、平気。元気だよ」

「そうか……なら、いい」

 

(……いいの?)

 

今度は私がぽかんとする。クラウドが悔しがったり、苦しんだりという素振りを見せることなく、穏やかに微笑んだからだ。もっと粘ったっていいのに。さっきまでの盛り上がりを返せ! なんて、怒ってくれたって構わないのに。

そんな私の胸の内なんて知る由もなく、クラウドは私に覆いかぶせていた体をゆっくりのけて、隣にごろんと寝転んだ。予想通り増してきた罪悪感。ごめんねの気持ちを込めて寄り添えば、クラウドは戸惑うことなく抱き寄せてくれる。

 

「……」

「……」

「……クラウド」

「?」

「…いいの?」

「……何が?」

「その……したかったんでしょ。……やめちゃっていいの?」

「……」

 

私がやめろと言ったのに、何を言ってるんだか。自分で自分を責めながら、クラウドの目を見つめる。案の定クラウドも不思議そうに私を見ていたけれど、クラウドがくれたお返事は、私を責めるようなものではなかった。

 

「…当たり前だ」

「……え?」

「…ティファが嫌がっていることをする理由はどこにもない」

「……クラウド」

「俺は……こうやって、隣にいられるだけでいいから」

 

ぎゅう、と抱きしめられる体。分厚い胸板に頬を寄せながら、自分の心臓が高鳴っているのを自覚する。ちらりと覗いて見たクラウドの表情は、欲求不満というより、どこか満たされているようにさえ見える。

 

(……ああ)

 

そうだ。この人は優しくて、真面目なんだ。ちょっと優しすぎるくらいなんだ。

こんなクラウドだから、私は好きになったんだ。こんなクラウドだから、私は彼を信じてるんだ。

 

(……試す必要なんて、どこにもなかったな)

 

「…ごめんね、クラウド」

「ん?」

「……試しちゃった」

「…試した?」

「……私が嫌だって言ったら……クラウド、どうするかなって思って」

 

恐る恐る体を離し、クラウドの顔を見る。呆れてるかな、怒ってるかな。どきどきしながら見た彼は、そのどちらでもなく……謎が解けた子どものように、何とも嬉しそうな様子だった。

 

「……。ティファ」

「…ごめんなさい」

「いや、よかった。何かあったんじゃないかと思って心配だった」

「ふふ……ほんとにごめん」

「…ティファもこういうことをするんだな」

「……嫌いになった?」

「まさか」

 

気を取り直したクラウドが、口元を緩ませたまま私への口づけを再開させる。私も今度は心置きなく、その甘い口づけに浸かっていく。

逞しい首に腕を絡め、ぐいと自分に抱き寄せてから、私はクラウドの目を見つめる。それから確認する。青く美しい瞳の中の自分が、幸せな表情をしていることを。そんな私を見つめ返すクラウドも、同じような表情であることを。

 

「……。ねえ、クラウド」

「ん……?」

「…このまま……続き、ください」

「……どこまで欲しい?」

「…最後まで」

「…もう、中断はできないからな」

「ふふ……うん。やめないで」

 

くすくすと二人、笑い合う。自分たちで夜の時間の向かう先を決められることに、感謝しながら。

 

ごめんねと、ありがとうと、何より愛おしい気持ちを込めて、私はクラウドを受け入れた。

クラウドのくれるものは、何一つとして痛くなかった。爪も牙も刃でさえも、あなたは私を傷つけなかった。

 

 

やいばは丸い

 

 

 


fin,