宿屋に泊まるのがいつも楽しみだった。

 

そもそも旅なんてことしたことがなかったし、これを言うとみんなに呆れられる気がするけれど、色んな街の観光をしているような気になれるから。その街や村ごとに雰囲気も人も、売っているものも流行っていることも全然違う。そんなことすらも、わたしは知らないの。

 

だけどやっぱり何より楽しみだったのは、ゆっくりあったかいベッドで眠れること。クラウドもバレットもレッドもみんな、びっくりするぐらい女心をわかってない。ティファは優しいから何も言わないけれど、いくら旅の途中とはいえもっと気を配って欲しいと思います。……なーんてね。

 

 

 

 

「脚がぱんぱん……」

 

ティファがそう呟いたのは、わたしとの相部屋。わたしたちがようやく、いわゆる「ふつう」の女の子に戻れる大事な空間。

 

ティファはその長い脚をベッドに投げ出して、マッサージをしている。ずっと歩きっぱなしだったからティファの呟きには全面同意。その隣のベッドに腰掛けているわたしが思い切りこくこくと頷くと、ティファは笑ってくれた。

 

「今日、座る暇もなかったもんねぇ」

「クラウドたち体力オバケだからなあ……。エアリスは大丈夫?」

 

ティファも十分体力ありすぎる方だけどなあ、なんて思いながらまた頷く。彼女がよかった、と微笑む。わたしよりも年下のはずなのに、彼女をおねえさんに感じることが多々ある。いつもドジを踏むわたしを守ってくれるから。

 

足をぶらぶらさせながら壁にかかっている時計をみる。そろそろご飯が食べたくなる時間だった。

 

「ねえ、ティファ」

「ん?」

「今日は何食べる?」

「そうだなあ。ここ、海が近いから、お魚が美味しいのかな?」

「お魚……」

「あれ、エアリス苦手?」

「ううん、でも……あんまり美味しいのに当たったこと、ないかも」

「あはは、そうだよね。ミッドガルにはあんまり、新鮮なお魚こないもんね。……私の故郷の料理、食べてみて欲しいなぁ」

「おいしいの?」

「うん、すっごく美味しいの」

 

故郷、と聞いて、ティファとクラウドがこの間カームで教えてくれた二人の昔の話を思い出す。二人が生まれた村。そして、悲しい悲しい道を辿り、もうこの世界にはない帰る場所。

 

(……故郷、か)

 

ティファは、わたしが少し俯いてしまったことに気がついたのか、優しく話題を振ってくれた。

 

「エアリスは」

「?」

「何が好きなの? 食べ物」

「わたし? お肉!」

「え?」

「ん?」

「意外。エアリス、お野菜とかの方が好きそう」

「えへへ、わたし、いっぱい食べるよ。食べるの大好きだもん」

「確かに、よく食べてるねぇ。なのに太らないの? いいなあ……」

「このナイスバディが、何をいいますか」

「…私、ちょっと体絞るのさぼっちゃうと、だめなの」

「そうなの? うそだあ」

「嘘じゃないよ……」

 

ティファがまゆを潜めて俯く。それから指をもじもじさせてるのが可愛くて、わたしはこっそりにやにやする。男性陣に……特にチョコボ頭の人に代わって意見を述べさせていただくと、ティファはちょっとやそっと太っても何も問題ないと思います。

 

でも人に見えないところで、ティファもいろいろ悩んだり、努力したりしてるんだな。そうと思うと、おねえさんに見えていた彼女がだんだん、かわいい妹にも見えてくる。

 

ティファはとっても強いし、頼り甲斐もある。だけど、おしゃれだってお買い物だってしたい、わたしと同じ年頃の子なんだってこと、思い出させてくれる。

 

(……)

 

「ティファは、何が好き?」

「え?そうだなあ……何でも好きだよ」

「これ! っていったもの、ない?」

「うーん……………」

「えー? そんなに悩む?」

「え、えへへ、あんまり考えたことなくて……自分が何が好きか、とか」

 

困ったように笑うティファ。「考えたことない」というあなたの言葉は、あなたが今までどれだけ一生懸命に生きてきたのかを、私に教えてくれる。

 

ねえ、本当は、本当はもっと楽しいこと、考えたいよね。何かを恨んだり、悲しんだりするんじゃなくて、本当はもっと、くだらないことで笑いたいよね。

 

あなたは優しいから……とてもとても優しいから、そんなこと一言も言わないけれど。敵である人を傷つけることすら躊躇うあなただから。周りの人の代わりに、自分一人で傷ついてしまう人だから。

 

いつも他の人のことを心配する、目の前の優しい人を見て思う。

 

(もっと、笑って欲しいな)

 

もっとわたし、ティファの力になりたいな。闘う力は弱いけれど、あなたといっしょに笑うことならできるから。あなたの力を抜いてもらう時間なら、わたしにもきっと、つくりだせるから。

 

守ってもらってばかりだけれど……それぐらいなら。

 

「…じゃあ、ティファ、お魚にしよ!」

 

勢いよく提案したわたしに、ティファは目をぱちくりさせる。

 

「え? お肉じゃなくていいの?」

「いいの。お魚がおいしいってこと、学びにいこう」

「ふふ……そうだね。せっかくだもんね」

「そう。もしかしたらティファの大好物、できるかもしれない」

「…うん!」

 

(ねえ)

 

もっと笑っていいんだよ。もっと、わがままになっていいんだよ。楽しいこと、探していいんだよ。自分の幸せ……願っていいんだよ。

 

ティファの苦しみや悲しみの百分の一も知らないわたしには、言えないこと。だけどずっとずっと思っていること。これからもきっと、あなたのしっかりした、小さな背中を見て、思い続けること。

 

「いこっか」

 

立ち上がって、わたしに微笑んでからそう言うあなたを見上げる。

大きく頷きながら立ち上がれば、あなたは少しだけ、いつもより柔らかい、かわいい笑顔をくれる。

 

(…強くなりたいな)

 

ティファに、みんなに安心して笑ってもらえるように。

それが、悲しい戦いの中を生きてきたあなたたちに、わたしができる唯一のことかもしれないから。

 

 

 

 

「あのね、エアリス……」

 

前をゆくかわいい人の話を、うんうんと聞きながらわたしは歩いた。

 

思い返せば、あの街を出たあのときから、不思議と怖いことなんてなかった。わたしのなかにはずっと、意味のある勇気があった。

 

 

 

 

ホワイトナイト

 

 

(あなたをまもる)

 


fin,