久しぶりに、ひどく機嫌の悪い状態でクラウドが帰ってきた。
おかえりと声を掛けても、小さく頷くだけ。子どもたちにも八つ当たりしかねないほど何かに苛立っていて、「どうしたの」という声すら掛ける隙もない。
仕事で何かがあったんだろうと、少し怯えて私のそばに来たマリンの髪を撫でながら思った。何かを言われたか、見たか、聞いたか。
クラウドは彼らしく、誰かを攻撃してしまう前に早々に自分の部屋に戻っていく。ぎりぎりの強さ、捨てられない甘さ。人を意図的に傷つけられない、クラウドの少年のころのままの、弱さとも呼べる優しさ。
そっとしておこうと思ったのは、どこかでわかっていたから。クラウドは苛立ちたくて苛立ってるわけじゃないこと。きっと、自分自身が苛立ちの対象であること。私たちを傷つけるつもりがないこと。
だから、その夜彼が私の部屋を訪ねてきたことも、驚くことじゃなかった。
その強くて、弱くて優しい人は、ばつの悪い顔をしながら部屋に入ってくる。クラウドと目があった私は、彼を受け入れる意味で微笑みながら大きく頷く。
彼はベッドに腰掛けていた私の隣に来て、ただすがるように私の体を抱きしめた。きっと謝りたいんだろうなと思いながら、私は何も言わずに彼を抱きしめ返して、その背中を撫でた。
「……」
言葉もなく、大きく息をつきながら私を抱きしめるクラウドの頭を、彼を慰めるつもりで撫でた。苦しいね、しんどいね。そう思いながら、安心して欲しくて何度も撫でた。何があったのかは聞かないほうがいいなと思った。聞いたらクラウドが守っている大事な何かを傷つけることはわかっていたから。
クラウドはたまに、拗ねたり苛立ったり、子どものような素振りを見せることがある。ふだんそれを表に出さないように努めていることを知っているから、その姿は私に、私たちに珍しいものとして映る。だけど彼は同時にそれを自覚していて、その弱さの存在に戸惑い、なんとか制御しようともがいていることもわかる。彼の中に在る彼より幼い心の扱いに、彼はいつも静かに苦しんでいる。
だけど私は彼に秘密で、そんな少年のようなクラウドを好きでいる。いつも私を守ろうと、私に心配かけさせまいと頑張っているクラウドを沢山知っている分、彼の心の奥の奥の姿であるこんな姿を見られるのは、私にとって喜びでも在るから。クラウドには、言わないこと。彼には、伝えてはいけないこと。
「……」
少しだけ私を抱きしめる力を緩めたクラウドからそっと体を離した。それから、申し訳なさそうな、怒られた子どものような顔をするクラウドのおでこにそっとキスをする。それを瞳を閉じて受け入れたクラウドは、私と目が合うなり切ない表情をして、もう一度私を抱きしめなおす。私はそんなクラウドに頬をよせて、目を閉じる。頑張って。大丈夫だよ。そばにいるよ。心の中で彼に応援だけを送る。
「……」
このままクラウドが私を抱くのなら、抱かれようと思った。何もせずにただ寄り添いたいのなら、私もただ隣にいようと思った。一人で眠ると言うのなら、私はその背中を送り出そうと思った。何も言わず、何かに震えながら、自分自身と静かに向き合おうともがくクラウドを、私はただ守りたかった。
「……」
やわらかい、日の香りのするその頬に小さくキスをして、私はただ全ての力を抜いて彼に身を預けた。
どうかどうか、そのままでいてと、クラウドをクラウドたらしめるその少年の心を、ただ抱きしめた。
Stay Gold
fin,