ピンクに黄色、青に赤、光沢のある様々な色を纏う球体。赤い帽子を被った白髭の男や、変な格好をしたピエロを模した人形。偽物だが子どもだったら間違って食べてしまいそうなほどリアルで真っ赤な木の実に、プラスチックでできた星形の飾りもの。

 

一体いくつになっただろう。大きな白い布袋に入っている、オーナメントと呼ばれる飾り物の数。配達先に依頼主、今日出会った人すべてに声をかけて分けてもらったものたち。

 

寒空の下、大きく膨らんだ袋に飾りものを詰め込んで、それを肩に背負い夜道を歩く。


この荷物の使い道はいまいちわからない。飾ったあとどこに仕舞うんだというものも多い。聖夜のためにデザインされたものだということはわかるが、大きさも形も材質もバラバラで、そもそもどうやって飾るのかという方法すら怪しい。

 

だがそれでも俺は、これを集めなければならなかった。できるだけ多くの数。できるだけ多くの種類。

 

 

 

 

『クリスマスかあ』

 

あれは星を救う旅の途中、初めて迎えた聖夜の日。

夜中であっても賑わう街のなか、隣を歩く道中で、ティファがふと思い出話を口にした。

 

『クリスマスの時期はね、みんなでお店に集まって、飾り付けをしたんだよ』

 

あの日、ティファが話していたのは、そのときすでに跡形もなくなってしまっていたかつての「居場所」の思い出。あの日、ティファが思い浮かべていたのは、この世界にはもういないかつての「みんな」の笑顔。

 

『今年は、何でも屋さんにも手伝ってもらおうと思ってたんだけどなあ』

 

もう二度と帰ることのない……「みんな」の笑い声が満ちていたであろう夜。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、クラウド」

「…ただいま」

「お疲れ様……って、すごい荷物! どうしたの?」

 

夜十時をすぎた頃。荷物を重く感じ始めた頃に帰宅した俺を、笑顔で出迎えてくれたティファ。

家の中に広がるあたたかい夕飯の香りに心がほぐれていくのを感じながら、荷物に驚くティファと向き合う。

 

「ああ……これはだな」

 

なんて説明をしようか。どこから話をはじめようか。言葉を詰まらせるのは、なんとも言えない緊張感。

 

ティファはあのときのことを覚えているだろうか。急にこんなに物を持って帰ってきて、困ったりしないだろうか。


喜んで欲しくて、本当の笑顔を見せて欲しくて無心にかき集めてしまったオーナメント。かついでいた布袋をゆっくり地面に下ろしながら、今更ティファに相談なしで準備をしてしまったことに不安を覚える。

 

「……」

「?」

 

ティファを見る。ティファは微笑む。大事にしたいと思ってきた笑顔はたしかに、ここにある。

 

(……)

 

「……。何でも屋の依頼を思い出したんだ」

「何でも屋の?」

「…うん。旅をしていた頃は叶えられなかった依頼」

「…誰からの?」

「多分、ティファから」

「私? …ふふふ、多分なんだ」

「うん。……多分」

「そのなかに、依頼したものが入ってるんだね」

「ああ。…ティファがまだ望んでくれてたらいいんだが」

 

自信なく、ゆっくり解く布袋の口を結んでいた紐。ティファはわれ先にと、わくわくした表情でその中身を覗き込む。

 

「何かなあ」

「……」

「…、あ……!」

 

その赤く美しい瞳に、光を反射し輝くオーナメントのきらめきが映ったとき。ティファが見せた笑顔を……俺は一生忘れることはないのだろう。

 

「クラウド、」

「…うん」

「これ、こんなに、」

「……。飾り付け、するんだろ。店の中。この時期になったら……みんなで」

 

気恥ずかしさとティファの想像以上の反応に言葉は継ぎ接ぎになる。袋を覗き込んだあと顔をあげたティファの瞳には、もう涙が溜まっている。


喜んでくれていると捉えていいのだろうか。余計なことをして苦しみを掘り出してはいないか。心は素直にほっとしない。ティファを想うが故に、手放しには喜べない。

 

「集めてきてくれたの? 覚えててくれたの?」

「……うん。…嫌じゃなかったか」

「嫌なわけない。……すごくすごく嬉しい」

 

ティファは涙を拭いながら笑う。目を細めて、きっと心から笑ってくれている。

その笑顔を見てようやく、本当の意味で肩の荷は下りる。ひっそりと積もっていた後悔は、静かに砂になって消えていく。


俺たちのそばにあるのは、あの頃の「みんな」と少し違う。ティファの中で思い出となった聖夜に、敵うことはきっとない。失ったものはもう二度と戻らない。失った人たちが再び、笑い声を聞かせてくれることはない。


「…クラウド」


それでも俺たちは生きているから。ここまで、生きてきたのだから。

 

「ありがとう……」


 

 

 

 

 

「クラウド」

「…ん?」

「改めて、飾り付けの依頼……してもいい?」

 

雪すら降らない、誰かが気に留めることもないひとつの夜の中。

俺たちは小さな声で笑い合いながら、袋の中からそれを一つずつ取り出した。大切に……大切に取り出した。

 

 

 

サイレント・ナイト


fin,