「その色好きなのか?」

 

お昼。ランチに来ていた女性が置いていった雑誌をぺらぺらと覗き見ていたら、背後から聞こえてきた唐突な質問。天を仰ぐように俯いていた顔をあげると、私の後ろに立ち私をまっすぐ見下ろすクラウドと目があった。

 

どの色のことだろうと思って自分の周りを見渡す。だけど、自分で意識して選んだ「色」は見当たらない。何のことですか? という気持ちと一緒にもう一度顔をあげれば、クラウドはまだ目をぱちくりさせながら私を見ていた。

 

「…どれのこと?」

「…これのこと」

 

クラウドが迷いなく、すっと指刺したのは雑誌。雑誌の中に映る、さわやかな青色のスカートを身につけて笑う女性。特に意識してこのページを見つめていたわけではないのだけど、クラウドにはそう見えたんだろう。

 

だけど、このスカートのことを言ってたんだとすぐ察しがついたのは、クラウドの言う通り……それが私の好きな色だから。

 

「うん。クラウド、よく知ってるね」

 

クラウドに正解、と言わんばかりに微笑む。クラウドは満足げに「まあな」と返す。私の好きな色を当てたくらいでこんなに嬉しそうにしてくれる人は、この世でこの人だけだろう。

 

「欲しいのか?」

「ううん。綺麗だなあと思って見てただけ」

「…欲しかったら買えばいい」

「いいのいいの、お店やってる最中汚しちゃうだろうし」

 

欲しいものがあったら何でも買ってやる。……というのがクラウドのスタンスらしい。私が何も言わなくても「欲しいか?」「買うぞ」とよく話を持ちかけてくる。そんなに物はいらないよと伝えると逆にショックな顔をさせてしまうぐらい。

 

いくら伝えても通じはしない。何も買ってもらえなくても、贈り物がなくても、クラウドが私のことを想ってくれる気持ちだけで十分幸せなんだってこと。

 

「……そうか」

 

クラウドは案の定少し不満足げに表情をかえながら、身をかがめて私の肩にあごを乗っける。そして私越しにぺら、ぺらと雑誌のページを捲り始める。

少し顔を横に向ければ簡単にキスができそうな距離。ふわりと香るクラウドの、自分とおなじだけどどこか別に感じる柔軟剤のいい匂いにつられて、胸の中はふわりと踊る。

 

(……)

 

いったい何を考えて雑誌を見ているんだろう。その捲るスピードからしっかり読んでいるようには見えないけれど、一応何かをチェックしているらしい。ちらりと横目で見た目は真剣そのもの。

 

「……」

 

私は、雑誌のことはさておき、何度だって釘付けになってしまうその美しい青と緑の混じった瞳を見つめる。まだお昼で、至近距離だから、いつも夜これぐらいの距離に近づくときより綺麗に見える瞳。まるでその瞳自身が生きているかのような瞬き。

クラウドはどんな顔するだろうか。私があの青を好きな理由のひとつに、クラウドのその綺麗な目があるんだってこと、知ったら。

 

(ちょっと、ロマンチストすぎるって思うかな?)

 

「……うん」

「…ん?」

 

じぃとクラウドに見惚れていたら、いつの間にか雑誌物色を終えたクラウドが最初のページに戻す。また目に入る青色。雑誌のなかで微笑む女性。

 

「……やっぱり、ティファにはこの色がいい」

「…そう? クラウドも気に入った?」

「…ずっと前から気に入ってる」

 

私に何かを伝えるように、クラウドがこちらに顔を向ける。この距離でまっすぐ目を合わせる心の準備ができていなかったから、どき、として思わず硬直する。

なんのこと? 照れ隠しにそう聞き返そうとしたけど、かわいい触れるだけのキスに遮られる。悔しい。こんな一秒にも満たない瞬間に言葉を全部吸い取られるなんて。

 

「……やっぱり、この服は買おう」

「…私が欲しいんじゃなくて、クラウドが欲しいのね」

「……。語弊がある言い方だ」

「ふふふ…」

「言わせないでくれ……ティファに着て欲しいんだ。どこに売ってる?」

「…一緒に買いに行ってくれるの?」

「? もちろん」

 

どこへでもついていくよ。躊躇いなく想いを届けてくれるクラウド。どこまで来てくれる? 未だに恐る恐るしか手を伸ばせない私。

今はまだ、その優しさに甘えていてもいいかな。もうすこし、もうすこし、このままでいてもいい? 甘やかされる今を、クラウドに秘密でこっそり喜んでいてもいい?

 

クラウドと、お店の名前を共有しながら私は想いを馳せた。どきどきしながら青のワンピースを身につけて、この人のところに歩いて行った、あの色褪せない夜の思い出に。

 

 

 

きみはリボン

 

(ほどけてむすび、世界を彩る)

 

 

 


fin,