「……」

 

それを手に取って、思わず固まってしまった。手を離すでもなく、しっかりと握りしめるでもなく、洗濯機の中でただ硬直した。

 

一緒に暮らし始め、読んで字の如く衣食住を共にしているわけだからこの瞬間がいずれ訪れることはわかっていた。昨日の夜、洗濯機の前で何か考え事をしていたクラウドに「洗濯物いっしょにして入れちゃってね」と軽く声をかけたのは私だ。そのときはクラウドが遠慮してるのかと思って親切心で伝えたつもりだったけど、自分がこのタイミングにどういう対応をとればいいのかまで想像が至っていなかった。

 

「……」

 

見たことないわけじゃない。何なら見覚えもある。だからこれがクラウドのものだってこともわかる。

どういう感情を抱けばいいのか全く正解がわからないまま、私はそれを洗濯かごにいれる。誰かに見られているわけじゃないのに直視できないのは、私がまだまだひよっこだという証だろうか。

 

(…ふう)

 

流れ作業のように、洗い立ての洗濯物の山が入ったかごを担いでバルコニーに向かう。

早く干してしまおう。こんなことでいちいちつまづいてたら、この先どうすればいいのか。今回きりじゃないのに。これからずっと続くことなのに。きっと、ずっと。ずっと一緒なのに。

 

(……)

 

ただひたすらに階段を上がり、バルコニーに出る。きらきらひかるお日様が眩しくて思わず目を瞑る。すごくいい日差し。とっても心地の良いそよ風。

かごを置き、一息つく。それから既にかかっている物干し竿に、丁寧に一つずつ衣服を干していく。自分だけのものではないから沢山ある洗濯物を、ひとりひとりのことを考えながら干していく。

 

再度クラウドの下着を手に取る。ひとり頬を染めながらそれも丁寧にかけていく。かごの奥底に自分の、最近意識して選んだ記憶のある、ちょっと背伸びをした下着を見つける。何も並んで目に留まらなくてもと、恥ずかしいのか照れくさいのかで苦笑する。

 

「………」

 

全ての洗濯物をお干し終えたあと、すこし濡れている真っ白なバスタオルの香りをかぐ。まだまだ慣れない柔軟剤の香り。まだまだ慣れない、ふわふわの新品タオル。

 

まだまだときめきの勝る……誰かのために、洗濯物を干すという仕事。

 

「ティファ」

 

ふと下から……お店の外から聞こえた私の名前。無意識に顔を綻ばせながら、バルコニーの手すりへ走る。

おかえり。おかえり。おかえりなさい。

 

「…クラウド!」

 

こちらを見上げ、私の姿を捉えた彼が、ほっとしたように表情を緩める。ゆるゆると振ってくれる手。ゆるゆると振り返す、手。

 

「おかえりなさい!」

「…ただいま」

「よくわかったね、屋上にいるの」

「なんとなく、いる気がした」

「ふふふ……買い出しありがとう! 今ちょうど干し終えたところだから、降りてお茶入れるね」

「…ああ」

 

バルコニーからとは言え、外で大きな声で会話していることが恥ずかしくなり慌てて手を小さく振り切り上げる。両腕に大荷物を抱え、私を見上げるクラウド。本人はなぜかとても嬉しそうな表情をしてるけど、あれじゃ両手が塞がって玄関も開けられないだろう。早く行ってあげなくちゃ。行かなくちゃ。行きたい。

 

(…会いたい)

 

空っぽになった洗濯かごを持ってバルコニーを出た。空っぽになった代わりに胸いっぱいの幸福を詰め込んで走った。

 

何もかもがぴかぴかと、薄く汚れた私を新しくしようとしていた。私たちの生活を。私たちのこれからを。

 

 

 

レインボーホログラム

 

 

 


fin,