「クラウド、」

 

 

唇を重ねようとするとき、ティファは必ず慌てて俺の名前を呼ぶ。

俺を止めようとしているのか求めているのかわからないその声は、いつも震えていた。

 

 

「…ティファ」

 

 

その声に返事をするように名前を返す。

すでに熱のこもるその目を見つめても、彼女が目を逸らさないことを確認してから、俺はそれを許可と捉えて、ティファに口をつける。

 

 

「…ん、」

 

 

俺は、ティファの中毒だ。何度味わっても、満足することができない。

美味しい、なんていうものではない。甘い、熱い、甘い。冷静さなんて数秒で遮断される。

 

 

(……、)

 

 

ティファの様子を伺いながら、触れるだけに留めておいたそれを、角度を変えてもっと深く深く進めていく。

 

キスの音を鳴らしながら、彼女を求める。

ふたりの呼吸が熱くなる。ティファが震える指で、俺の頬に触れる。

 

 

「……ん、…クラウド、」

 

 

口付けの合間を縫って、ティファがちいさく、俺の名前を呼んだ。

 

 

(…ティファ)

 

 

それがいつも、全ての合図。

俺は、意図的に全ての理性を切る。

 

 

「……っ…、」

 

 

片手で逃げる腰を抱く。もう片方の手は彼女の後頭部にまわし、引き寄せる。もっと近くにいくために、一ミリも離れないために。

 

 

(……)

 

 

何度も、何度も、ついばむようにティファを求める。

緊張で固まる彼女の柔らかいそれを、角度を変えながらゆっくり溶かす。

ティファが辿々しくそれに応える。荒く、二人の呼吸が混ざりあう。

 

 

(…ティファ)

 

 

薄く目をあけて、ティファがぎゅっと目蓋を閉じ、快感に耐えていることを確認する。

 

 

(……、)

 

 

「ん…、」

 

 

(…足りない、)

 

 

足りない、足りない。まだティファが遠い。もっと近くに行きたい。随分前から狂っている思考が、俺の体に命令する。

 

柔らかい彼女の口内に舌で入る。ティファは体を震わせる。

俺はそれを知っていて、ティファがそれを嫌いでないことも知っていて、誰も侵入を許されない綺麗な彼女の中に、一足先に入り込む。

 

 

「…んっ…、」

 

 

だんだん何かに耐えきれなくなって、力が抜けていくティファの体。

彼女が堕ちて壊れてしまわないよう、俺はしっかりその体を抱きよせた。

 

少し目を開き、ティファの様子を確認すれば、呼吸ができていないのか、目に涙をためて苦しそうにしていた。

 

 

(……、)

 

 

「……っ、はあ…」

 

 

繋がることを中断して、息をさせる。

ティファは体の支配権をすべて放棄するように、俺にもたれかかった。

 

 

「…、…ティファ、息しろ」

「むり、できな…」

 

 

俺に体重を預けたティファが、俺の腕の中で、ふるふると力なく首を横にふる。

ティファの背中をさすりながら、熱を持ちはじめた額にキスをする。どこかでティファに触れていないと、おかしくなりそうだった。

 

 

「……」

 

 

彼女の顔がみたくて、ティファの顎に手を添え、見上げさせた。

全く足りていなかったであろう酸素を求め、大きく肩で息をするティファの目から涙が溢れる。俺にはその涙も勿体のないものに見えて、唇で掬った。

 

もう一度、ティファを見る。

目が、合う。

その赤く綺麗な瞳が、まだ溢れそうなそれをたっぷり抱えて、俺を捉える。

 

 

「……、」

 

 

ティファから目が、離せない。

あまりの魅力の大きさに、思わず息を呑む。

魔法なんてそんなかわいいものじゃない。これはティファだけが使える優しい呪いだ。

 

早く触れたいのに、早くもっと深くにいきたいのに、体が動かない。彼女の目を見つめ返すことしかできない。

 

俺はその熱のこもった目を見つめながら、ティファの腰をもっと近くにと、抱き寄せた。赤の映えるその白くて柔らかい頬を、少し震える指でなぞった。

 

ティファはそれを合図に気怠そうな両腕をあげて、俺の首に優しく絡ませる。言葉にならない二人の呼吸も、絡む。

 

 

「…クラウド」

 

 

ティファが、その濡れた唇で俺を呼ぶ。

 

 

「…、……クラウド」

 

 

自分の持つ力も知らずに「もっと」と、簡単に、一番欲しい言葉を使う。

 

 

 

 

 

「…すまない、ティファ」

「…?」

「…見惚れてた」

 

 

ティファの瞳が少し見開かれたのを見てから、続きをはじめる。

食べてもいいと許可をもらった俺を、きっともう、ティファにさえ止めることはできない。

 

先に進もうとする俺たちを、一体誰が止められたんだろう。

 

ただ、ティファを守ることができるならそれでよかった。最初は、傍で笑ってくれているだけでよかったはずだった。

この瞳に囚われ、この味を、ティファを知ってしまったあの瞬間から、俺はわかっていた。

 

知らなかったふりはできないと。離すことなど、もうできないと。

 

 

 

ペンステモンのため息

 

 

 


fin,