今日のさいしょの失敗は、買い出しについてきてくれるというクラウドに、恥ずかしがって何を買うつもりなのかちゃんと説明できなかったことだと思う。

 

 

「お客様、こちらはどうです? 今春出たばかりなんですよ」

「は、はあ…」

「お客様のサイズにも対応しておりますので、ぜひ」

「あ…す、すいません」

 

 

大きくて高い声で楽しそうに話す店員のお姉さんと、照れくささのあまり小声になってしまう私。小声になってしまうのは……お店の外で待ってくれているクラウドに、話が聞こえてしまうと思ったから。

 

お昼下がり、いい天気。お出かけ日和の今日、私がいるのは下着屋さん。お財布に余裕が出たからそろそろ下着を新調しようと思いついたのは數日前。比較的お客さんがこない曜日であった今日、お昼の営業を休んで買い物に行こうと決めた。

 

種類にこだわっていないとはいえ、下着は決してお安い買い物ではない。だけど……幸か不幸か、下着姿を見るのは私だけじゃないから気を抜くこともできない。

最低限私ができる身だしなみだと、エチケットのひとつだと自分に言い訳するけれど、心の中では少し、この買い物ばかりは嬉しくなってしまう。

次はどんなのを買おうかな。どんなものだったら、喜んでくれるかな。

浮かれてしまってそんなことばかり考えていたから、私はちっとも気づけなかった。この日休みで一日中家にいることが事前にわかっていたクラウドが「自分も買い物について行く」と言い出す可能性に。

 

 

 

 

 

 

(……申し訳ないことしちゃったなあ…)

 

 

お話上手なお姉さんのおすすめを聞きながら、お店の外で待っているクラウドのことを思う。

 

クラウドに今日の買い物の目的について切り出すことができたのは、私たちが歩いている道が、いつもの食材買い出しルートと違うことにクラウドが気づいてから。

不思議がる彼におそるおそる、今向かっているのが女性用の下着屋さんだということを伝えると……クラウドはこちらが申し訳なくなるほど顔をぽっと赤めて、俯いてしまった。

 

 

「あ……す、すまない」

「う、ううん、ごめん私こそ……早く言えっていう話だよね」

「いや…ちゃんと話も聞かずについてきてしまった……。嫌だったよな」

「私はいいの! 別に来てもらっても……ほ、ほら、クラウドも見るわけだし」

「あ……」

「……あ」

 

 

失言の繰り返しで、二人でさらに真っ赤になる。顔をあげることすらできなくて、自分たちが歩いている地面しか視界に入らない。恥ずかしくって、照れくさくって……ちょっぴり胸がどきどきする。

変な気持ちにさせちゃってごめんね。そんな思いを込めて隣を歩くクラウドを見上げると、クラウドも同じタイミングで私の方を見た。ふと合う目。私たちを包む……一緒にいるようになって長い時間が経つのに、まるで付き合い始めて間もない二人のような雰囲気。

 

 

「…ティファ」

「…?」

 

 

一瞬目を逸らしたあと、クラウドはちらともう一度私の方を見て、呟いた。

 

 

「……ティファが好きなやつが、俺は好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………)

 

 

お姉さんの営業トークに乗せられ、その流れで試着室に入りつつ……さっきの会話のことを思い出す。下着のサイズをチェックしながら、頭の中はクラウドのことでいっぱいだった。

 

 

(……好きなやつが好き、って…)

 

 

一応、クラウドも見てくれていたんだろうか。毎晩あっという間に剥がされてしまうから、何を身につけてても気にしてないんだろうなと思っていたけれど。ちゃんと好みがあるんだろうか。こういう色がいいとか、こういうデザインがいいとか、あるんだろうか。

 

一人もんもんと考えながら、ふと顔をあげる。下着姿の鏡の中の自分と目があって、ついどきどきしてしまう。

身につけているのはパステルブルーの下着。お姉さんがおすすめしてくれただけあって、随分装飾にこだわってあるそれは……私一人ではなかなか買えないような、可愛くも大人びたデザインをしている。

 

 

(…クラウドは気づいてくれるかな)

 

 

新しいものをつけた夜、わかってくれるかな。

 

 

「お客様、いかがですかー?」

「あ……はい! ぴったりです!」

 

 

鏡の前でぼーっとしていたらお姉さんに呼びかけられる。

サイズもきちんと確認し、身なりを整え外に出る。にこにこ笑顔のお姉さんにお会計をお願いすると、お姉さんはあっという間に可愛く包装してくれた。

 

 

「お買い上げありがとうございます!」

 

 

勧められる通りに買ってしまったと思いながらも、ちょっぴりドキドキした気持ちを抱えてお店を出る。こんな気分のまま……クラウドのことを考えながら下着を買うのは初めてだったから、いつもと違う気持ちが私に残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ」

 

 

外に出てあたりを見渡すと、クラウドはお店の壁にもたれかかって大人しく待ってくれていた。どきどきを残したままの私と目が合うと、クラウドは少し照れくさそうに微笑んだ。

 

 

「…ティファ」

「……おまたせ、しました」

「ああ…もういいのか?」

「うん、ばっちり」

「…そうか」

 

 

クラウドが癖で、私の荷物を持ってくれようと手を伸ばす。でもさすがに躊躇したのか、さりげなく手を引っ込める。

だけど行き場を無くしたその手は、代わりに空いている方の私の手を繋いでくれた。

 

 

(…わー……)

 

 

「……」

「……」

「…他は? 買い物」

「他は大丈夫! …ごめんね、ほんとにこれだけだったの」

「いや……別に謝らなくていい」

「……」

「……気に入ったの、買えたのか?」

「うん! 可愛いの、選んでもらったよ」

「…そうか」

「…うん」

「……」

「……」

 

 

つい緊張してしまう。繋いだ手が、最近はかかなくなった汗をかいてしまう。

 

こういう気持ちは、嬉しいという表現で合ってるんだろうか。クラウドにお披露目できる日が早くくればいいな……なんて思ってしまうことは、恥ずかしいことじゃない?

 

 

(…別に、クラウドのためだけに買ったわけじゃないんだけど)

 

 

「……」

「……ティファ」

「…ん?」

「…その……」

「…?」

「……楽しみにしてる」

「え……」

「……」

「……あ。………うん! が…がんばります」

「……何を?」

「…何かを」

 

 

突然言われたことに照れすぎて、何て返事をしたらいいかもわからなくなっている私を、クラウドがおかしそうに笑う。

繋がれた手に力がこもる。私たちの空気は……柔らかくなる。

 

 

「…期待してる」

「……。あんまり、期待しすぎないでね」

「…頑張ってくれるんじゃないのか?」

「頑張るけど……」

「じゃあ大丈夫だ。…ティファは頑張らなくても綺麗だから」

「……褒めても何も出ないよ?」

「…褒めたらティファの顔が赤くなる」

「も、もう! 意地悪するなら見せてあげません」

「ふ、ごめん……もうしない」

 

 

からかいながらも、いつもの調子に戻してくれるクラウドにほんの少しだけ感謝しつつ……私は、自分のための小さな買い物をしっかり抱きしめて歩いた。

クラウドといっしょの帰り道を。

クラウドといっしょの歩幅で。

 

 

 

その名はパステル

 


fin,