「デンゼルが喧嘩した?」

 

 

帰宅した俺に、困った顔をしたティファとマリンが小声で相談しにきたのは、部屋に閉じこもっているらしいデンゼルのことだった。

 

 

「そうなの。友達、叩いちゃったみたいで」

「デンゼルは何て?」

「言いたくないんだって。マリンにも話さないんだけど…クラウドにだったら話すかも。様子、見てきてもらってもいい?」

「…わかった。話してみる」

 

 

俺にそんな父親のようなことができるかな、と内心不安に思いつつティファに返事をする。

子ども部屋に続く階段を上がりながら、デンゼルはいま幾つだったか考えていた。

 

 

「…デンゼル、入るぞ」

 

 

 

閉められていた扉を開けて部屋を覗き込めば、デンゼルはベッドの上で膝を抱えて座っていた。

俺に気づいた一瞬はこっちを見たけど、すぐに拗ねたように顔を逸らす。

 

それを気にせず、デンゼルの座るベッドに腰掛けると、デンゼルは小さな声でおかえりと言った。

俺がデンゼルだったらこの状況でその言葉は出てこないなと思うと、自分と比較しても仕方がないが、デンゼルの隠しきれない優しさを感じる。

 

 

「…喧嘩したんだってな」

「……」

「何か言われたのか?」

「……。言いたくない」

 

 

そっと目をやると、デンゼルは俯ききっていて、表情が見えなかった。

だが怒っているようには見えない。きっと既に、自分の中でモヤモヤしはじめているんだろう。

 

 

「…デンゼル、今8つだったか」

「……うん」

「…だったら、俺はデンゼルを叱れない」

「…え?」

「俺はそれぐらいのとき、毎日喧嘩してたからな」

 

 

デンゼルがふと顔をあげる。

 

 

「…クラウドよく喧嘩してたの?」

「ああ」

「…何か言われたの?」

「…そんな格好のいい理由はない」

「じゃあどうして?」

「デンゼルが喧嘩した理由と交換に教える」

「……」

 

 

不服そうな顔をしたデンゼルだったが、観念したのか小さく言葉を語りはじめた。

 

 

「……あいつ、悪く言ったから」

「…?」

「…みんなのこと……クラウドたちとのこと。…」

「…」

「………おれたちのこと、寄せ集めだって言ったんだ。おれ、それが許せなくて」

 

 

(…なるほど)

 

 

寄せ集めか。言い得て妙だと思いつつ、確かにデンゼルにとってはあまりに厳しい言葉なのかもしれない。……正直いい気分はしない。

でもそれで怒ったということは、そんなものじゃないと思ってくれてるんだろう。家族だと、思ってくれてるんだろう。

 

 

「…デンゼルは優しいな」

「優しくないよ。……叩いちゃったし」

「後悔してるのか?」

「…許してないけど………痛そうだったから」

「…そうか」

 

 

痛そうだった。辛そうだった。俺が誰彼構わず毎日喧嘩をふっかけていたとき、そんなこと思ったことがあっただろうか。相手のことを考えられていただろうか。

 

 

「…なら、今度会った時、叩いたことだけ謝ればいい」

「え…?」

「許せないものをすぐ、無理に許す必要はない。……と俺は思う」

 

 

デンゼルは少し考え込むような様子を見せた後、小さく頷いた。

 

 

「…クラウドはなんで喧嘩してたの?」

「…俺は、弱かったから」

「…クラウド強いよ」

「力はな。…心の中がずっとずっと弱かった。それを人に知られたくなくて、喧嘩してた」

「……」

「な。…俺はデンゼルを叱れない」

 

 

そう言って少し笑って見せると、デンゼルはどこかほっとしたように笑い返した。

そしてそのまま、なぜか嬉しそうに俺のそばに来て座り直す。

 

 

「へへ」

「……」

「やっぱりクラウドはかっこいいな」

「……。今の話を聞いてどうしてそうなる」

 

 

 

俺の人生の半分も生きていないデンゼルの隣にいて、少しだけ思った。

俺はデンゼルの父親にはなれない。だけど…デンゼルの倍積み重ねてきた時間を少し、分けてやることぐらいはできるかもしれないと。

 

 

 

おとうさんにはなれないけれど

 

 

 

 


fin,